第17話 郊外訓練(1)
「おお、レイじゃねえか!なんだ、お前、今回の郊外訓練にも参加するのか?」
「まあ、はい。そんな感じですね」
「あ、その顔はまた突然連れ出されたときの顔だ!」
「よくわかりましたね……」
もう親しみすら覚える騎士団駐屯所。いつも入り口前は閑散としているここも今日ばかりは様子が違った。荷馬車に物資を積み込む兵士や、身に着けた装備の具合を確かめる騎士。どれもその顔立ちは真剣そのもので、いつもより集中力が違った。
「そりゃあ3カ月も一緒に訓練してたら何となくわかるってもんさ。フェイド様は相変わらずだなぁ」
「ほんと、あのジジイいつかぶっ倒す……」
「あはは!是非ともその時はお目にかかりたいもんだな!!」
そんな一団の中に俺達も何食わぬ顔で混ざっており、俺は訓練をしていく中で仲良くなった顔馴染の兵士と談笑をしていた。
現在地と、他の騎士たち中に混ざっているこの状況からお察しの通り、俺は今回の騎士団の郊外訓練に急遽参加することになった。
「ここが騎士たちの駐屯所……初めて来たわ……」
「楽しみですね、お兄様!」
何故かアリスとフリージアも一緒にだ。
クソジジイが一緒にいた彼女たちにも「着いてくるか?」と軽いノリで尋ねていた結果、二人は即答で同行を願い出た。アリスはまだ分かるが、片やフリージアは公爵家の御令嬢だ。そんな急にしかも勝手なことをしてもいいのかと聞いてみるとクソジジイは「その為に朝早くから上に許可を取りに行ったんだ」と得意げであった。
いつも暇人のクソジジイが珍しく忙しそうにしていた理由に合点が行って、俺はその謎の熱意に呆れ果てた。
────弟子の教育に熱心なのはありがたいが、仕事と私事を混同するのはどうなんだ……。
今更な話でもあるが、どうにもこの国はこんな爺さんを騎士団の指南役にするぐらいだから、そこら辺の規律はけっこう緩いらしい。言い方を変えればそれほどフェイド・グレンジャーと言う一人の騎士を信頼しているともとれるが、それを言葉にすると負けた気持ちになるのでしない。ささやかな抵抗である。
「傾注!!」
日頃の不満や納得のいかない現実に思考をこじらせていると不意に場の雰囲気を引き締める号令がかかった。声のする方へと視線を向けるとそこには偉そうな爺さんとその横には今回のまとめ役────隊長を務める騎士がいた。
────まあ実際に偉いのだろうが……。
そうと分かっていても大仰に腕を組んで仁王立つ姿が鼻につく。そうして爺さんの口から直々に今回の郊外訓練の概要を改めて騎士たちに説明がされた。
「今回は移動も含めて4日に及ぶ訓練だ。久しぶりの郊外、お前らあんまりはしゃぎすぎんなよ」
「「「はい!!」」」
爺さんの茶化すような発言に騎士たちは生真面目に返事をする。その徹底的な教育ぶりに脱帽するほかない。
────郊外訓練……ね。
今回の演習の目的地は王都郊外の北西に位置するベイラレルの森。ここで一泊二日のサバイバル訓練を行うらしい。突然、連れ出されるにしては結構ハードな訓練内容にやはりあのクソジジイは正気じゃないと思う。だというのにアリスとフリージアは興奮気味だ。
「初めての森……! 楽しみですねお兄様!!」
「森、訓練。魔物……そうだわレイ! 今回の勝負は訓練でどれだけ多く魔物を倒せるかで勝敗を決めるわよ!!」
────うーん……この緊張感の無さ。
アリスはまだ分かるが、フリージアはもう少し冷静で居てほしかった――――と言うか冷静でいてくれ、今回は真面目に訓練に集中しなければ命の危険も出てくるのだ。
「アリス、今回は俺や爺さんがいるからまあ安全だろうけど、外は危険が沢山だから常に注意を怠っちゃいけないよ」
「はい!わかりました!」
「あとフリージア。お前は結構本気で緊張感を持て、今回は安全が絶対に保証されているいつもの訓練じゃないんだぞ」
「なによ……ちょっと冗談言っただけじゃない……」
────いや、あの顔は本気だったろ。
予め釘はさしておくがこれもどれだけ効果があることやら。ちゃんと反省しているようなので俺はそれ以上は何も言わずに爺さんの話に意識を戻す。
「それでは隊列を組んで出発だ!さっさと準備をしろ!!」
「「「はい!!」」」
爺さんの号令で騎士たちが一斉に動き出す。その気合の入りように気圧されていると爺さんから声が飛んでくる。
「レイ!! お前はゴードンの隊に入れ!」
「それはいいけど……アリスとフリージアは!?」
距離が離れているので少し声を張って確認をするとすぐに倍以上の声で返答がくる。
「アリスとフリージアは俺と一緒だ!来い!」
「どうしてレイは他の騎士と一緒なのよ!?私もレイと同じ隊がいいわ!!」
「私もお兄様と同じ隊がいいです!」
爺さんの指示に異議を唱える二人に爺さんは更に声を張り上げる。
「我がまま言うな! そもそも二人は森に行くのですら危険なんだ。言うことを聞けないなら置いていくぞ!!」
「「……」」
珍しくちゃんと二人を宥める爺さんに今回の訓練の真剣度を再確認する。しぶしぶ爺さんのもとに向かった二人を見送ると、最後と言わんばかりに爺さんから声が飛んでくる。
「レイ! お前を他の連中と一緒にした理由は分かるな!? 初めての訓練でなれないことや戸惑うこともあると思うが上手くやれ。今回の課題は生きて帰ることだ、いいな!!」
「ああ!わかってる!!」
それを最後に爺さんは壇上から降りてその姿は見えなくなった。おそらく最前列に行ったのだろう。俺も爺さんに言われた通り、同じ隊の騎士と合流しようとするがその前にあちらから見つけてくれた。
「おーレイ、今回は一緒だな。よろしく」
「はい、よろしくお願いします。ゴードンさん、ルイドさん、リルさん」
フレンドリーに声を掛けてくれたのは先ほどまで一緒に話していた男の騎士二人と、もう一人の女騎士も何度か訓練で見かけたことがあった。
無精髭が特徴な中年の騎士がゴードンさん、対して長身で温和そうな青年がルイドさん、そしてもう一人は焦げ茶の長髪を結った女性のリルさんだ。
今回の郊外訓練に参加する騎士は総勢59名、俺を頭数に入れれば60名でそこから15個の隊に分かれてサバイバル訓練をが行われる。結構大掛かりな訓練なのは言うまでもない。流石は日々の訓練で鍛えられているお陰か、指示が飛んでから数分と掛からずに隊列は出来上がる。
俺達も挨拶をほどほどに前の隊が進んだので歩き出した。そうして郊外訓練が始まる。
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