第34話 神速の薙ぎ斬りを受けてみろ
「そんな……信じられない。これでは
「本物…? なんだ、やっぱり
モイラーはムッとした顔をした。
「…本来! 【賢者】という称号は、全ての魔法が使える者を指します。ですが、全ての魔法なんて使える人間なんて、過去にもおりませんでしたから!」
「お前の自称と違って本物の【賢者】と呼ばれている隣国ワレリアの宮廷魔道士もか?」
「そうです! 隣国の賢者メイヴィスだって、使える魔法は多いですが、それでも全属性は使えないと聞いています。なのに賢者の称号を認められているわけで」
「メイヴィスも攻撃に使える属性は三属性(火水風)だけ、つまり私と同じですから、私が賢者と名乗ってもおかしくはないでしょう?」
「おい! お前ら、いつまでくっちゃべってるんだよ! さっさとコイツを捕らえんか!」
俺達がのんきに会話しているのを見て、キムリが苛ついて喚き始めた。
「お前が自分でやればいいだろう? ぶち殺すって息巻いてたじゃないか?」
「そ、それは……俺一人では生け捕りは難しいから、お前達が呼ばれたんだろうが…!」
「ふっ、そうだな。さっきも
「くそ~~~~! お前なら躱せるというのか?!」
「ああ、余裕だろ?」
「だったらやってみろ」
「ふん、下手な煽りだ。まぁいいだろう。黒鷲との格の違いを見せてやる」
と思ったが、猫人を見ると、なんと本を読んでいた。しかも、ふわふわ空中に浮かび、横になってである。
「お前……その態度はどうなんだ?」
「いや、続きが気になってにゃ。ちょうどいいところだったのに、お前らに邪魔されたにゃ」
「で、話は終わったにゃ?」
「う、浮いてる……風魔法? いや、空気はまったく動いていない……じゃぁどうやって……?」
「重力魔法にゃ」
「ジュウリョク魔法? 確か、モノの重さを操る魔法、だったか? 伝説でしか聞いた事がない魔法だぞ?! 本当に……本物の【賢者】なのか?」
「なぁお前は鑑定が使えたはずだろう? 奴を鑑定してみたらどうだ?」
「そ、そうでした」
モイラー『星の響きに宿る畏き知の女神、異教の言葉、未知なる泉、神秘なる知恵の円盤より真理を取り出し我に示せ…【鑑定】!』
「……く! 弾かれた…?」
「ん? なんか魔力が飛んできたから思わず弾いてしまったにゃ」
「鑑定したいならいいぞ、隠蔽を解除してやるにゃ。全部は見せないけどにゃ」
そう言われ、モイラーがもう一度呪文を唱え、【鑑定】を発動する。
「おお……やはり『賢者……
……猫】?」
「【賢者猫】? なんだ【賢者猫】とは? 聞いた事ないが……」
「賢者の猫人だから賢者猫なんじゃねぇのか?」
「てかお前、無視すんなよ」
「だから今ちょうど(小説の)いいところだったのにゃあ」
「というか、お前達、何モンにゃ? 何しに来たにゃ?」
「そうか、まだ名乗っていなかったな。俺はシックス・スヴィル子爵。ワッツローヴ伯爵擁する白鷲騎士団の団長だ」
「同じく…、ワッツローヴ魔法師団の団長、モイラーと申します」
「…猫人のカイトにゃ」
「カイトか。俺達は街で暴れ、貴族を殺したけしからん獣人を捕らえに来た」
「カイトというのか、身に覚えがあるだろう? 大人しくお縄につくか、それともこの場で斬り殺されるか選べ」
「…まぁ要件は、そっちの黒い騎士(キムリ)を見れば、なんとなく想像はついてたがにゃ…」
「…でも、お縄につく気はないし、斬られる気もないにゃ」
猫人の手の中の本が消えた。猫人が魔法で収納したのだろう。
「ほう…ヤル気か? 言っておくが、賢者だろうがなんだろうが、魔法使いなど本物の “騎士” の前では敵ではないぞ? 呪文詠唱の最中を狙えば一発だからな」
俺は剣を抜いた。
「ちょ、奴は無詠唱で魔法を使っていましたよ? 大丈夫です?」
「
「さぁ、先程キムリに使った得意の風刃を放ってみろ!」
「じゃぁ遠慮なく」
奴がそう言った瞬間、俺は鋭い踏み込みで一瞬にして距離を詰め猫を斬りつける。
自分では分からんが、俺が本気で踏み込むと、周囲からは俺の体がブレてから消えたように見えるらしい。【縮地】じゃないか? などともよく言われる。
魔法の発動には、例え無詠唱であろうとも一瞬のタメが必要なはず。魔法が発動するより速く斬ってしまえばいいだけだ。
得意の神速の薙ぎ斬り。今までこれで倒せなかった敵は居ない!
…はずだったが…
いつものような斬った手応えがない。剣を振ったはずの腕が妙に軽かった。
「言うほど速くはなかったにゃ…」
「……バカな」
見れば、俺の腕は、肘から先がなくなっていた……。
俺が動き出すより速く、奴の風刃が俺の腕を斬り飛ばしていたのだ。
「森の奥にはもっと速い魔物が居たにゃよ? そういうのを狩るのは得意だったにゃ」
「馬鹿な…しんじられん……グ……」
かなり遅れて腕を切られた痛みが襲って来た……
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