第29話 神速の薙ぎ斬りを受けてみろ

「そんな……信じられない。これでは本物・・の【賢者】ではないか…」


「本物…? なんだ、やっぱりお前モイラーは偽物だったんだな?」


モイラーはムッとした顔をした。


「…本来! 【賢者】という称号は、全ての魔法が使える者を指します。ですが、全ての魔法なんて使える人間なんて、過去にもおりませんでしたから!」


「お前の自称と違って本物の【賢者】と呼ばれている隣国ワレリアの宮廷魔道士もか?」


「そうです! 隣国の賢者メイヴィスだって、使える魔法は多いですが、それでも全属性は使えないと聞いています。なのに賢者の称号を認められているわけで」


「メイヴィスも攻撃に使える属性は三属性(火水風)だけ、つまり私と同じですから、私が賢者と名乗ってもおかしくはないでしょう?」


「おい! お前ら、いつまでくっちゃべってるんだよ! さっさとコイツを捕らえんか!」


俺達がのんきに会話しているのを見て、キムリが苛ついて喚き始めた。


「お前が自分でやればいいだろう? ぶち殺すって息巻いてたじゃないか?」


「そ、それは……俺一人では生け捕りは難しいから、お前達が呼ばれたんだろうが…!」


「ふっ、そうだな。さっきも風刃ウィンドカッターも防げずに手足バラバラにされてたもんな?」


「くそ~~~~! お前なら躱せるというのか?!」


「ああ、余裕だろ?」


「だったらやってみろ」


「ふん、下手な煽りだ。まぁいいだろう。黒鷲との格の違いを見せてやる」


と思ったが、猫人を見ると、なんと本を読んでいた。しかも、ふわふわ空中に浮かび、横になってである。


「お前……その態度はどうなんだ?」


「いや、続きが気になってにゃ。ちょうどいいところだったのに、お前らに邪魔されたにゃ」

「で、話は終わったにゃ?」


「う、浮いてる……風魔法? いや、空気はまったく動いていない……じゃぁどうやって……?」


「重力魔法にゃ」


「ジュウリョク魔法? 確か、モノの重さを操る魔法、だったか? 伝説でしか聞いた事がない魔法だぞ?! 本当に……本物の【賢者】なのか?」


「なぁお前は鑑定が使えたはずだろう? 奴を鑑定してみたらどうだ?」


「そ、そうでした」


モイラー『星の響きに宿る畏き知の女神、異教の言葉、未知なる泉、神秘なる知恵の円盤より真理を取り出し我に示せ…【鑑定】!』


「……く! 弾かれた…?」


「ん? なんか魔力が飛んできたから思わず弾いてしまったにゃ」

「鑑定したいならいいぞ、隠蔽を解除してやるにゃ。全部は見せないけどにゃ」


そう言われ、モイラーがもう一度呪文を唱え、【鑑定】を発動する。


「おお……やはり『賢者……


……猫】?」


「【賢者猫】? なんだ【賢者猫】とは? 聞いた事ないが……」


「賢者の猫人だから賢者猫なんじゃねぇのか?」

「てかお前、無視すんなよ」


「だから今ちょうど(小説の)いいところだったのにゃあ」

「というか、お前達、何モンにゃ? 何しに来たにゃ?」


「そうか、まだ名乗っていなかったな。俺はシックス・スヴィル子爵。ワッツローヴ伯爵擁する白鷲騎士団の団長だ」


「同じく…、ワッツローヴ魔法師団の団長、モイラーと申します」


「…猫人のカイトにゃ」


「カイトか。俺達は街で暴れ、貴族を殺したけしからん獣人を捕らえに来た」

「カイトというのか、身に覚えがあるだろう? 大人しくお縄につくか、それともこの場で斬り殺されるか選べ」


「…まぁ要件は、そっちの黒い騎士(キムリ)を見れば、なんとなく想像はついてたがにゃ…」


「…でも、お縄につく気はないし、斬られる気もないにゃ」


猫人の手の中の本が消えた。猫人が魔法で収納したのだろう。


「ほう…ヤル気か? 言っておくが、賢者だろうがなんだろうが、魔法使いなど本物の “騎士” の前では敵ではないぞ? 呪文詠唱の最中を狙えば一発だからな」


俺は剣を抜いた。


「ちょ、奴は無詠唱で魔法を使っていましたよ? 大丈夫です?」


をそこらの並の騎士と一緒にするなよ? 伊達に騎士団長を張ってないんだよ。例え無詠唱で魔法が使えようとも、その魔法より早く斬ってしまえばいいのさ」

「さぁ、先程キムリに使った得意の風刃を放ってみろ!」


「じゃぁ遠慮なく」


奴がそう言った瞬間、俺は鋭い踏み込みで一瞬にして距離を詰め猫を斬りつける。


自分では分からんが、俺が本気で踏み込むと、周囲からは俺の体がブレてから消えたように見えるらしい。【縮地】じゃないか? などともよく言われる。


魔法の発動には、例え無詠唱であろうとも一瞬のタメが必要なはず。魔法が発動するより速く斬ってしまえばいいだけだ。


得意の神速の薙ぎ斬り。今までこれで倒せなかった敵は居ない!


…はずだったが…


いつものような斬った手応えがない。剣を振ったはずの腕が妙に軽かった。


「言うほど速くはなかったにゃ…」


「……バカな」


見れば、俺の腕は、肘から先がなくなっていた……。


俺が動き出すより速く、奴の風刃が俺の腕を斬り飛ばしていたのだ。


「森の奥にはもっと速い魔物が居たにゃよ? そういうのを狩るのは得意だったにゃ」


「馬鹿な…しんじられん……グ……」


かなり遅れて腕を切られた痛みが襲って来た……



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