第15話 そして10年

俺は新しい趣味ができて、それに没頭していた。それは、家造り。


異世界に来て一年ほど過ぎた頃からは、俺は家作りに熱中するようになっていた。


最初は、土魔法を使って硬いブロックを作り、それを積み上げて作った。子供が公園や砂浜で砂のお城を作るようなものかも知れないが、これは結構面白い遊びであった。


それは徐々に大きくなり、だんだん城のように、あるいは古代遺跡のようになっていった。


巨大建造物となると、耐震性能を気にしてしまうのが日本人だが、実は前世で俺は、仕事で構造計算を必要とする仕事に少し関わっていた事があった。俺自身は専門家ではないが、部下に専門の知識がある者を雇入れ、計算させていた。


その部下曰く。


計算の数値云々の前に “見た目ダメそうな奴はダメ”


なのだそうだ。


そもそも計算というのは、どれだけ材料を削れるか?(あるいは軽量化できるか?)を算出しコストを下げるために行うもので、際限なくコストが上がって良いのなら、素人でも頑丈なものを簡単に作れるのだ。


“僕の考えた最強のビルディング”ってやつだな。


と言う事で、見た目頑丈そうな、やり過ぎ、無駄と言われそうなほど超贅沢な補強を入れてやった(笑)

強度的な問題は多分ないだろう。計算はしていないが、必要ないほど強いはず。


しかも、魔法を使って強化すれば、アリエナイほどの強度のある材料が作れるのだ。どんな宮殿だって作れる。


ちなみに俺の収納魔法ならば、その作った作品をそっくりそのまま収納しておく事が可能である。


作っては、収納し、また新たに作る。


何度か色々な様式の城や宮殿を作ってみたが、砂や石の宮殿は飽きてきた。そして、日本に釘などを一切使わない木造建築があったのを思い出し、それに挑戦してみる事にした。


石造りの建物も良いが、木造の家はやはり風情があってよい。


土のブロックは魔法で作り出すことができたが、木はそうは行かないので、俺は拠点から少し離れた場所から木を切り出してきて、まずはログハウスを作ることにした。


といっても作り方が分からない。なんとなくのうろ覚えの知識がわずかにあるだけだ。


釘やボルト・ナットなどを使わないで木を組み合わせるだけで作るので、かなり試行錯誤を繰り返した。


(釘やボルトナット、固定用のステーなども土魔法で似たものを作り出すことは可能であったが、それでは面白くないと思ったのだ。一切の釘を使わず、木を組み合わせて作る建物にロマンを感じるのは日本人だからであろうか?)


最初は苦労し、失敗してばかりだったが、時間はいくらでもある。


試行錯誤とスクラップアンドビルドを繰り返し、やがて木造の完成度は上がっていった。


ある程度家が作れる技術が確立したが、今度は間取りが気になり始める。


そもそも、使いやすい家というのはどういう間取りであろうか?


日本でも、家は三回くらい作らないと満足行くものはできない、なんて聞いた事がある。


それに、日本とは状況が違うし、生物としての特性も違うので、かなり手探りである。


試行錯誤を繰り返していく。


風呂ももちろん作った。【クリーン】の魔法があるので不要なのだが、やはり風呂に入って温まるのは気持ち良いからな。


猫なので濡れたままで居るのは不快ではあったが、それも【ドライ】という魔法で一瞬で乾かせるので問題ない。


まぁ、そんな生活を続けているうち……


…気がつけば十年の月日が流れていた。


俺の家造りの技術も一旦、完成を見た。そこで俺は少し外に意識を向けてみる事にした。


拠点である泉から徐々に離れ始めたのである。




  +  +  +  +




空高く登って確認してみたが、泉の周囲は、見渡す限りの森が広がっていた。地平線まで埋め尽くすほどの巨大な森である。


そして、泉から一定以上離れれば、動物や魔物に遭遇し始める。


熊やら狼やら猪やら鹿やら兎やら、色々遭遇した。どれも、地球のソレとは違い、巨大だったり角があったりと凶悪な外見をしていたのだが。おそらくただの動物ではなく、魔物という事なのだろう。


だがまぁ、気にするほどの事はなかった。どの魔物も泉の辺りで魔法を使いこなせるように色々訓練していた俺の敵ではなかったのだ。


外にいけば、魔物や動物と遭遇できるので、肉が確保できる。


泉の辺りではほぼ果実食主義者フルタリアンのような生活になってしまっていたが、やはり肉は美味い。最初は酷かった肉を捌く腕も、数をこなすうちに上達していった。


ある日、ドラゴンに出会ったこともあった。鑑定してみると、地竜アース・ドラゴンという種類であった。最初は警戒しながら慎重に戦ったが、どうやら大した強さではなく、そのうち猫パンチ(爪なし)一発で気絶させられるようになった。


このドラゴンの肉がまた美味かった。


俺はこの肉の旨さに惚れ、ドラゴンを求めて森を彷徨う、完全に捕食者ムーブとなっていた。


別に泉から遠く離れるつもりはなかったのだが、肉を求めて彷徨う内、どんどん泉から離れてしまった。まぁ転移魔法があるのでいつでも一瞬で戻れるのだが。


そうこうしているうちに、人間の街の近くまで来てしまったのだ。


もしかしてこの世界は原生林と野生の動物、魔物のみで、知的生命体は居ないのではないか? と少し不安になっていた。まぁそれでも別に構わないのだが、人間の生活の痕跡を発見したときは少しほっとした。



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