第14話 自分の寿命が分からない
俺は泉の周辺を探索してみた。結果、いくつか実がなる別の植物が見つかった。
さらに、泉の周辺だけが異常な空間である事が分かった。
この世界には動物も、危険な“魔物”も存在しているはずだが、何故か泉には近寄らないようなのだ。
泉から離れるにつれ、徐々に動物や魔物を見かけるようになっていく。そして、熱い寒いが感じられるようになっていった。
つまり、泉の周辺はチートなセーフティエリアということのようだ。とりあえず今は、これは転生時ボーナスと解釈する事にした。(なぜそうなっているのか理由及びどうやって実現しているのかそのメカニズムを解明したい気もしたが、それは追々という事にする。)
実は、別に気になる事をみつけてしまった俺は、泉の周辺の探索は程々にして切り上げ、泉の辺りに戻る事にした。
気になる事、それは、自分の寿命についてである。全魔法が使えるチート種族だが、実は極端に短命であったという
もちろん、寿命を確かめる方法など、死ぬまで生きてみる以外にないが……、実は、ステータスに気になる項目があるのを発見したのである。
先だっての実験で、魔力を使い切っても死ぬ事はないのは分かったが、その際、生命力のようなものを消費している気がした。
これもステータス画面で確認できないか? と思ったところ、新たにライフポイント(LP)なる項目が現れたのだ。
この項目は、最初からあったが見落としていただけなのか、後から追加されたのかは良く分からないのだが。
俺はとりあえず、このLPについて色々検証してみる事にした。
まずは何も食べずにLPを確認してみたが、数日どころか数週間何も食べなくともまったく減らなかった。
もしかしたら、LPはMP(魔力)が残っている限りは消費されない仕様なのかも知れない。
もともと俺のLPは10万と表示されていたので、小さな変化は分からないだけかもしれないが。
(余談だが、日本に居た頃は、一食抜いただけで空腹でたまらなくなる食べ続ける必要がある人間の身体が実に面倒だなぁと思った事が何度かある。数週間食べなくともなんともない今の身体を思うと、人間の身体というのは実に燃費が悪かったのだと改めて思う。)
今度は、魔力を完全に使い切った状態を維持してみる事にした。もちろん何も食べない。すると、じわじわとLPが減り始めた。つまり、MPがなくなるとLPの消費が始まるという事か。
次に、故意に自分の体を傷つけてみた。すると、1ポイントだけLPが減った。
そして、治癒魔法を使って体を治してみたのだが……
減ったLPが戻らない!
やばい。
これがゼロになったら……まぁ多分死ぬのだろうな。
もしかしたら、怪我をしなくとも、年月を経るごとに徐々に減っていくのかも知れない。自分以外の生物が周囲に居ないので良く分からないが。
予想通り、LPは残り寿命と言えるのかも知れない。多分LPはライフポイントの略ではなかろうか? 異世界なのになぜ地球の言語(英語)なのかという謎も残るが、異世界転生という理解不能な減少を経験しているのだから、理解できない事はいくらでもある。いちいち引っかかっていたら先へ進めなくなってしまうので、細かい事は気にしない、これが大事だと自分に言い聞かせた。
LPが自分の残り寿命だとして、数値として寿命が見えているというのはなんとなく嫌な感じもする。だが、まぁ便利とも言えるか。
ちなみに、周囲に生えている木を鑑定してみたところ、みんなLPは万単位で表示されていた。これが寿命だとすると、俺のLP(十万)多すぎない??? 俺は樹木並みに生きられるということか?
こうしてただ、LP=寿命仮説を立てた俺だったが、その仮説は後日、あっさり否定された。
数日間経ったら、減ったLPが戻っていたのだ。
戻るならと、さらに自分の体を傷つけて実験してみたところ、どうやら魔力を意識して吸収する事で、明らかにLP回復が早くなる事がわかった。
どういう現象が起きているのか詳しくは分からないが、魔力を吸ってLPが増えるという事は、つまりLPとMP(マジックポイント=魔力量)は関係があるように思う。魔力が体内でなんらかの化学変化? 代謝? を起こし、LPに変換されるのか……。
と言う事は……
・
・
・
……あった。
もしかしてと思って、自身の魔法一覧の中を探してみたら、魔力を直接LPに変換して補填する魔法があったのだ。
なにせ使える魔法の数が多いので、前に探した時には見落としていたのだろう。(あるいは後から増えたという可能性もあるが。まぁ分からない。もし増えたのだとすると、魔法を新たに想像できる可能性が出てくるが…これについは後々検証していく事にしよう。)
もし、LPイコール寿命説が正しいとなると、魔力LP変換が使えたら、ほぼ無限に生きられるって事に……?
まぁ、これは、すぐに検証できる事ではないが。
■それから数ヶ月
俺は少しずつ周辺の探索や魔法の練習、この世界の検証などを行っていった。
ただ、焦ってあくせくする必要はないので、気が向いたらたまに、という程度である。
生活には困らない。ほとんど魔法でどうにかなってしまう。水も出せるし、乾かせるし、汚れはクリーンで落とせるし。
自分について、もうひとつ分かってきた事がある。転生してからどうも、気が長くなったようだ。
人間でなくなったからか、刺激の少ない生活の中で、何もせずにぼぉ~っと長時間過ごしても、あまり退屈とは感じなかった。
日本とは違い、ネットもテレビもラジオもない。雑誌や本もない。日本人であったら数日でギブアップしそうな退屈な世界のはずだが、何も考えず、なにもせず、ただぼーっと過ごすだけでも、特に苦痛を感じる事もなかったのだ。(まるで自分が樹木にでもなった気はしたが。)
またずっと一人ぼっちであったが、特に孤独とも感じなかった。
もしかしたら、これは種族的なものなのかも知れないと仮説を立てた。つまり、寿命が長い生物というのは、時間感覚や孤独感などの感覚も、寿命の短い種族とは異なってくるのかも知れない。
むしろ、一切自分を害する者は居ない、何にも怯える必要ない、誰の顔色を伺う必要もない、何もせずとも平和な時間がただ流れるのは、むしろ多幸感すら感じている自分が居た…。
とは言え、一年もすると、さすがにやる事がなくなってくる。だがその頃には、俺は新しい趣味ができて、それに没頭していた。
それは……
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