第8話 ぶひゃひゃっ! なんて格好だ?

すれ違う俺とキムリ。


鎧袖一触。


腕が斬り飛ばされ宙を飛んだ。


飛んだのは……騎士の腕であった。


俺はキムリの剣を躱し、爪斬でその腕を刻んでやったのだ。


なかなかの速度だったが、その程度は余裕で対処できる。森の奥に居る魔物にはもっと速いモノがたくさん居るのだ。


キムリの腕は五分割の輪切りとなって地面に散った。(爪は四本使っているので、切られたモノは五分割になってしまうのだ。)


何が起きたのか一瞬分からず、ドヤ顔でポーズを決めいていたキムリだったが、やや遅れて、剣を持っていた自分の左腕がない事に気づいたようだ。


「なっ…馬鹿な……! お、俺の! 腕! 腕がぁぁぁぁ!!」


「うるさいにゃ」


「おい? 来るな、やめろ、俺は武器がないんだぞ……? っうぎゃあぁぁぁあ…!」


さらに俺は爪をふるい、キムリの残った手足も輪切りにしてやった。すぐ死ななないように火魔法で傷口を焼いて止血してやる。親切だにゃ。


「さっき、手足をもいで晒し首にしてやれとか言ってたからしてやったにゃ」


「お、お前に言った訳じゃ…ない…!」


キムリは助けて欲しそうに部下たちに視線を送ったが、足を埋められた騎士達は、もがいても足が抜けずその場から動けない状態である。


すると、騎士団長キムリは一番近くに居た平民を恫喝し始めた。どうやら騎士団本部に応援を呼びに行けと言っている。なかなかメゲないヤツだな。


言われた平民は慌てて走っていったが放っておいた。直に応援が来るだろうが……


俺は気にせず買い物を再開だ!


商売人達もすぐに持ち場に戻り商売を再開した。応援が来る前にできるだけ売ってしまおうというわけである。実に商魂たくましい。


だが結局、俺が買い物を終えるまでに応援は来ず、俺は街を出て塒へと帰ったのであった。




  +  +  +  +




■シックス


俺はシックス・スヴィル。スヴィル子爵家の嫡男にして、この街を治めるワッツローヴ伯爵家が擁する白鷲騎士団の団長でもある。


街を守るのが仕事の黒鷲とは違い、我々白鷲騎士団の仕事は伯爵家を守る事だ。


つまり伯爵家の親衛隊、いわばエリートであり、黒鷲はその他の落ちこぼれという位置付けだ。


まぁ、黒鷲騎士団長のキムリはそれを認めず、何かと張り合ってくるのだが。


仕事は完全に別なのだが、緊急時には黒鷲の応援に行く事もある。ただ、黒鷲の連中は意地を張って応援要請など出さない事が多いので、見かねた領主の命令で出向く事が多い。


だが、今回は珍しく、黒鷲騎士団のほうから応援要請があった。なんでも、街で獣人が暴れており、なんと団長キムリまでもがやられてしまったというではないか。


キムリはやたらと俺をライバル視してくる男だ。まぁ俺は相手にしていないのだが。しかし格の違いが分からないキムリは、事あるごとにいちいち俺と比べては煽ってくるので、たまに苛つく事もある。


そのキムリが無様に負けたと聞いて、俺はちょっと興味が出て、様子を見に行ってみる事にしたのだが……


キムリはかなり重症だと言う事で、領主邸の治癒師も駆り出されていたのだが……


「ぶひゃひゃひゃっ! キムリ、なんて格好だ?」


治療が終わったキムリの姿を見て、俺は思わず笑い転げてしまった。


「う、うるさい! あのクソ猫め~~~必ず見つけ出して殺してやる!」


キムリの両手両足は何故か、以前よりかなり短くなってしまっていたのだ。


治癒士達が、手足の部品を全て集めずに接合しやがったとキムリは怒り狂っている。


どうやらキムリの手足は輪切りにされていたようで、その中間の部分がみつからないまま接合されてしまったため、短くなってしまったという事らしい。


治癒師士達の嫌がらせ? キムリは治癒士達に嫌われていたのか?


治癒士達に話を聞いてみると、そんな悪質な嫌がらせはしないと言う。そうではなく、手足の部品はすべて集めようと必死で探したが、みつからなかったのだそうだ。


放置しておけば手足が腐って繋げる事はできなくなってしまうのでやむを得ず、あるパーツだけで治療したそうだ。


「そんな事ありえねぇだろうが! ……は! まさか…?!」


「?」


「あのクソ猫が持ち去ったのか? それとも市場の連中か?!」


「良く分からんが…そのザマじゃぁ、もう、騎士も廃業だな。その短い腕じゃぁ、剣もまともに振れないだろ」


「そんな事はないっ!」


「じゃぁ剣を抜いてみろよ」


俺は剣を抜き、キムリの鼻先に突きつけてやった。いつもなら、俺の速さには及ばないにしても、キムリも剣を抜いて突きつけられた剣を跳ね除けるくらいはしてくるのだが……


キムリは短くなった腕で剣を抜き切れず。慌てて鞘を引き剣を抜いたのは流石だがワンテンポ遅い。


「遅すぎるだろ…」


「…っ、ちっくしょ~~~!」


キムリは泣きながら悔しがっていた。


まぁ気持ちは分かる。俺だったら、あんな姿にされたら自害を選ぶだろう。


とりあえず、人間を、それも貴族を傷つけた危険な獣人を野放しにしておくわけには行かない。姿を消した獣人について部下に聞き込みを行わせたところ、街の近くの森に塒があると話していたらしい。


俺は即座に討伐部隊を準備するよう命じ、ワッツローヴ伯爵へと報告に向かった。


話を聞いた伯爵は即座に攻撃を許可。俺を指揮官として、魔法師団まで連れて行けと言った。


この街はもともと獣人の街だったのを過去の戦争で人間が奪った場所である。今でも獣人の心を折るかのように厳しく締め付けているのは、獣人達の反抗を恐れての事なのだ。ここで獣人に舐められれば、調子に乗った獣人が反抗クーデターを起こす事すらも、考えられない事ではないのだ。


そして、討伐部隊が編成され、森へと向かった。


メンバーは私と白鷲騎士団の精鋭数人、それから黒鷲騎士団の団長キムリ(犯人の獣人を確認するため)、そして獣人が使ったという魔法に興味があるという魔法士団の団長、モイラーである。


件の獣人の腕が立つという話でも、いくらなんでも過剰戦力な気がするのだが……ここで獣人に舐められてはならんというのがワッツローヴ伯爵の意向だ。獣人に、歯向かったらどうなるかを思い知らせてやる必要があるのだ。


まぁ、面倒だがサクッと行って終わらせて来よう。


キムリはクソ猫をぶち殺してやると息巻いているが、まぁ、慣れない体形になって果たして役に立つかどうか…。



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