長い夜の始まり
@kanaisaki
第1話プロローグ
ある日、失敗したことに気づいても、もう取り戻せない。そこまで来て、あたしはある場所に行かされてしまった。
森林が広がる、街並み。近い山が、故郷を思わせる。だけどここには川があって、海がない。あたしの故郷は少し行くと、川と海がある。家の裏は山。だから自然にあふれていて、あたしは子供の頃、そこで育った。
わけあって故郷を離れ、都会の田舎町に出て以来、あたしはめったに故郷の里には帰らなかった。帰れなかった。
だけど今は環境の似たところに住み始めて、自分が自然の中に来たんだと、解った。嬉しかったけど、同時に淋しかった。
前に住んでいた町で友達とは、たまに電話で話していた。メールもした。相談して、愚痴を言いあって、毎日を過ごしていた。だけどそれもなくなって、友達に連絡するすべもない。
でもあたしは、少しずつ慣れて行くしかなかった。引っ越すたびに味わった孤独と、また仲良くなるしかない。それは慣れていたはずだった。
だけど一つだけ、心残りがあるとしたら、歳のいった母親だった。母はあたしと年が離れているのは当たり前。もう八十のはずだった。最後に誕生日を言ってあげられなかった。生きていてとも言えなかった。会いたいとはもう、あたしは言えない。だからせめて元気でいてね。母さん。それだけが願いだった。
今は小説家になりたくて、それ以上に生活に慣れていかなければならなくて。また田舎の生活に、あたしはあこがれに似たものを持っていた。
ただいまはもう少し心行くまで、自然に浸りたい。自然に返りたいというのは、本音だった。だけどここまで何もなければ、自然とほしいものが限定されてくる。
今はただ少しでも自由が欲しくて、だけど自分のバカさが、こみ上げて来て、笑えるだけだった。あと少しだけ、あたしのわがままを聞いてほしい。それだけだった。
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