第7話 クズ共の追い討ちと生理的限界


「......そんな......」



 俺は信じられない光景を目にし身体の力が抜けて床にへたり込むと、それに気がついた勇者は蔑んだ目で俺を睨みつける。



「なんだ覗きか? 人の情事を見るなんて相当悪趣味だなターバン巻いたサンドバッグは」


「あら......バレちゃったのね......明日バラすつもりだったのに......んぁっ......♡」


「これは......どういう事だ......?」



 俺の中に戸惑いと怒りが同時に込み上げる━━。



「残念だったなサンドバッグ......お前が大事に大事にしていたソフィちゃんはもうとっくに俺のものなんだよ!」


「......なんだとっ!」


「そうそう......私はアンドレ様のもの......♡ 最初は貴方を見てて可哀想だなと思って付き合ってあげて・・・いたけど私は勇者様を好きになってしまったの。顔もカッコいいし貴方みたいな役立たずと違って人々からも愛されているし......そしてそんな英雄の奥さんに私はなりたい。だから貴方みたいなダサい男にもう用は無いわ━━」


「っ......そうかよ......」


 

 俺の絶望した表情を見たソフィはまるで汚いものでも見るかのような顔に変わり、勇者は口を大きく開けて爆笑する━━。



「ははははっ! そうそう! その絶望と悔しさが混ざっている顔が見たかったんだよ俺は! いやぁ入念にコイツを落とす準備をした甲斐があったってもんだ! 最後まで笑わせてくれてありがとなサトウ!」


「アンドレは様はあの顔が好きなのねぇ......♡ 私はあの顔嫌いよ見てて本当に不快だから。ていうかアンタみたいなサンドバッグに私みたいな女が本気になるわけないでしょ? 少しは立場をわきまえて欲しいわ」



 あの清楚でお淑やかな表情はどこかにすっ飛び悪意満載の顔で俺を睨みつける━━。



「っ......」


「くくっ......はははは! しかし間抜けなヤツだ。ソフィが俺に寝取られていた事を今この時まで見抜けないとは......よっぽど生ぬるい環境で生きてきたんだな。おい! お前らも入って良いぞ!」



 勇者がそう言うとドアが開きエマとモロウが入ってきた。



「こんな状況でネタバラシされるなんて本当に可哀想ねサトウくん」


「エマさん......」


「私は反対したのよ? でもアンドレとモロウがどうしても貴方が悔しがる顔を見たいって言うから......」


「おいおいエマ......お前も乗り気だったろうが。俺とセ○クスしているときに早くコイツの情けない顔をみたいって散々言ってただろう?」


「モロウ......アンタも意地悪ね......」



 そうか......この状況は全員グルだったって事ね━━。



「なるほどな......俺は差し詰め恋愛リアリティーショーの売れ残り枠だったワケか。プロデューサーは一体何処にいるんだ?」


「強がるなよ負け犬。それじゃあネタバラシも済んだし最期の別れの挨拶してやるから荷物まとめてさっさと外に出ろや」



 結局俺は最後の最後まで勇者達にサンドバッグにさせられて笑い物にされただけのただの哀れな男だったのか。

 俺はただヨルと......好きな人と平穏に暮らしたかっただけなのになんなんだよこの理不尽な仕打ちは......!



「ああ......言われなくても出るよ。明日朝イチ別の街で泌尿器科に受診したいしちょうど良かった」


「はぁ? 私が病気持ちだって言いたいワケ?」


「どう捉えるかは勝手だよ、たかが便器にだって自由意思くらいあるもんな。まぁでも俺は結局アンタとしてないから行くとしたら精々皮膚科かな? さっきから唇が痒くて仕方ないんだ......口唇ヘルペスが移ったかも」


「てめぇ......俺の女バカにするのも大概にしろよ?」


「ただ心配性なだけだよ、アンタもその聖剣が引き抜けなくなる前に行っといた方がいいぞ? それとこれまでの旅で俺が使わずにいた金は持ってく、俺はこの通りお前らと違って初期装備でまともな装備すら買わせてくれなかったからな......」



 そう宣言するとエマがイラついた顔で会話に割って入ってくる━━。



「ダメに決まってんでしょ? そんなの今までの迷惑料として私達が貰っておくわ。今金になるものを剥ぎ取られないだけありがたいと思いなさい!」


「横暴だなぁ......お前そんなに男から金毟ってると将来タワマンで殺されるぞ」


「はぁ? 何言ってんの? 殺されるのはアンタだよ!」


「だな。モロウ......その舐めた口聞くクソ野郎を捕まえろっ!」


「ちっ......逃げるしかないな」


「おい待てっ!」



 俺は薄汚れた部屋から脱出しヨルのいる部屋に戻り、身ぐるみ一つで脱出を図る━━。



「ヨルっ! 予定変更だここから逃げるぞ!」


「ミャッ......!?」


「悪いなヨル。しかしまさか寝取られを阻止した男が実はとっくに寝取られていたとはな......情けない話だよ......」


「おいおい! 俺達からは逃げられんぞ......!」


「くそっ......!」



 そう吐き捨てるモロウに俺は結局捕まり、部屋の窓から外の林に放り出されてしまった。



「ぐっ.....!」



 傷が完全に癒えていない俺は放り投げられたことにより、受け身を取れずに背中をぶつけて息が出来ない。

 すると全裸から服を着た勇者とソフィ、そしてエマが俺を囲う━━。



「じゃあねタケル様。アンタみたいな男に少しでも触られたことが私の人生で唯一の汚点だった、私はその汚点を勇者様とこれから過ごす日々ですぐに洗い流す。しかし最後の最後まで惨めな人生でホント可哀想.....ある意味同情しちゃうわね。ふふっ......」


「あっはははっ! 可哀想だよそんなこと言ったら。私は彼の可愛い顔案外好きだったよ? でもこんな使えないゴミクズの女になるのは死んでも嫌だって事も思ってたけどね......コイツに触れられるなんて考えただけでも鳥肌が立つわ」


「はっはっはっは! お前も言うじゃねーか。じゃあなゴミ......敵のマトにすら最後なれず俺に怪我を負わせたお前を直接殺せなくて残念だよ」


「お......お前らぁっ......!」


「さてと......さっきは追放と言ったが予定変更だ。お前の旅は今日でおしまいだ......無惨にも魔人に殺されたと言う理由でな。さようなら異世界から来た負け犬野郎━━!」



 勇者は剣を天にかざし、技を放つ体勢に入る━━。



「やめ.....ろ......」


「ダメージを半減するお前の身体は厄介だからな、最上級剣撃でお前を確実に殺してやる......《正二位剣撃・亡霊火モレビの戯れ》!」



 勇者の剣から青白い炎が天に放たれ巨大な火の玉が上空に生成される。

 そしてそれが巨大な剣の形に変わると地面に倒れている俺に目掛けて落とされた━━。



「ミャァッ......!」


「ヨルッ.....!」



 俺にすり寄るヨルを振り解こうとするが、ヨルは爪を立てて俺から離れようとしない......。

 


「そうか.....俺が死んだら一人になっちまうもんな......。でもお前だけは......俺の分までなんとしても生きてくれ......!」



 俺は勇者の攻撃から少しでも守るようにヨルを思いっきり抱きしめ攻撃に備えた━━。



「じゃあなサトウ......あの世から俺たちの活躍を歯軋りしながら見ててくれや」


「ああ.....歯軋りで歯を研いでいつか貴様の喉元に噛みついてやるさ......! テメェらだけは絶対に許さない......必ず全員に復讐してやる......!」


「はははは! 無理に決まってんだろバーカ! さっさと死ねっ━━」


「そうよ! さっさと死んじゃえ!」


「バイバイ......サトウ様......」


「く゛そ゛お゛ぁ゛ぁ゛っ......!」



 ス゛ト゛ト゛ト゛ト゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!



「う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ━━!」



 凄まじい轟音と共に俺の身体は林から延々とぶっ飛ばされ、最早どこか分からない地面に思いっきり叩きつけられた━━。



「ぐぉっ.......!」


「ミャォ......!」


「ヨ......ル......」



 ヨルは俺が庇った事により傷は浅かったらしく、心配そうに俺の顔を必死に舐めて俺の意識が飛ばないようにしてくれている。



「ゴメンなヨル......また......こんな目に......」


「ミャァ......っ! シャアアアアアアッ!」



 ヨルが何か気配を感じたのか暗闇に向けて警戒するとそこからさっき逃した羊頭が姿を現した━━。



「また会ったな異世界人......その様子じゃ大方勇者にでも裏切られたか?」


「くそっ......尾けてたのか......お前はメリーさんかよ......。まぁついてない時はこんなもんか......」


「メリーさん? なんだそれは......。敵の内情を探るのは戦いの基本だろう? しかし手間が省けた.....ボロボロの貴様はここで殺す。貴様のような不気味な存在は先に始末した方が後々勇者らも始末しやすいからな━━」


「そうかい......なら早く殺せ。ただ一つだけ頼みがある......」


「.......なんだ?」


「このヨルだけは助けてくれないか......? それだけは頼むよ......」


「ヨル......? この世界で忌むべき黒猫か......いいだろう承知した。では痛みを感じる暇もなく貴様だけ・・を殺してやる......《バフォメリ・セキュリス》」



 ヤツは先程対峙した時とは桁違いの巨大な黒いオーラを斧に纏い、振り翳す体勢に入る━━。



「この攻撃は先程勇者が放った一撃より遥かに重い......苦しみなく逝けるはずだ」


「なんだぁ......人間より魔人の方がよっぽど人間味が有るじゃん......ありがと......」



 俺がニコリと笑うと羊頭は何かを感じたのか少し目を逸らす━━。



「っ......! 惜しい男だ......その屈強な精神力に肉体が追いついていればこの我とも良い戦いが出来たはずであろうに━━!」


「へっ......なら次は蜘蛛かスライムにでも転生するよ......地獄で待ってる━━」


「その覚悟......見事だっ......! いずれ会おうっ......!」



 ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!



 ヤツの一撃は地面に巨大な穴を開けて竜巻のような砂煙が立ち込め、俺は空高く吹っ飛ばされた━━。

 


「さらばだ強き者よ......貴様の存在を我は決して忘れないだろう━━」



 そう言ってヤツは吹っ飛ばされた俺を碌に見もせず去った後、俺は意識を失った━━。








『蓄積ダメージによる生理的限界突破達成......第一段階覚醒......』

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