【神々の時代】君は君で僕は僕
――自然魔法――
火・水・風・土など自然界に存在する元素を操る
多くの魔法使いが使える魔法で、一般的な魔法である。
環境さえ整っていれば比較的簡単に習得することができる為、種族問わず多くの者が使用する。
――――――――
アトリエの中で、ティルシアは深い悩みに陥っていた。
彼女は作業台の前に腰掛け、静かに頭を抱えていた。
テーブルの上には、いくつかの精密な設計が描かれた巻物が広げられており、彼女の技術の高さを物語っている。
それぞれが神業のような精度で描かれていたが、今の彼女にはどの設計図も新たなインスピレーションを与えてはくれなかった。
彼女はアトリエ内を静かに歩き回り、時折立ち止まっては遠くを見つめる。
一枚一枚の設計図を手に取り、それを見つめるが、何も心に響かない。
結局、それらをテーブルに戻すと、彼女は窓の外を見つめ、淡い光に目を細めた。
「むむむ…。描いても描いてもなんか違う…。」
その言葉と共に、彼女の心の中では、未だ解決されぬ創作のパズルが渦巻いていた。
剣の形がどうしても心に響かず、もっと深い何か、もっと本質的なものが必要だという思いが彼女を苛んでいた。
彼女はその思いに引き寄せられるように、再び窓の外の景色に目を向けた。
外は温かな光に包まれ、木々は新緑で覆われていた。
その緑の中には小鳥たちが飛び交い、彼らの生き生きとしたさえずりが聞こえてきた。
窓の外の世界が、彼女に呼びかけるようだった。
何か新しい息吹を求めて、ティルシアはふと決断した。
彼女は深く息を吸い込み、アトリエの扉をおずおずと開け、廊下へ出た。
この廊下は直接庭に面しており、外の景色が一望できるようになっていた。
新鮮な空気とそよ風が彼女の顔を撫で、少しだけ心が軽くなるような感覚がした。
彼女は廊下を当てもなく歩き出し、足が向くままにさまよった。
神々の領域を歩くと、木々が軽く揺れる音、小鳥のさえずり、そして遠くから聞こえる水の流れる音が、徐々に彼女の心を静めていった。
気がつけば、彼女は広大な庭、
その庭には、様々な種類の花が咲き誇っており、彼女は思わずその美しさに足を止めた。
そして、ふらふらとその花畑の中へと歩み入り、空いた場所に大の字に寝転がった。
目を閉じると、すぐに彼女の鼻腔を花々の甘い香りが満たし、頬を撫でる心地よい風がすべての緊張を解きほぐしていく――。
今日もマグナスは神々の領域をふらふらと歩き、新しいアイデアを求めて思索にふけっていた。
「杖が使い手に今日の天気を教えたり、おすすめのランチスポットを提案するなんて、どうだろう?
いやでも、そこに会話が発生するのはまずいな…。」
会話ではなく、何か別の手段で意思の伝達ができないか、例えば埋め込んだ水晶の色が変わるとか杖が震えたりとかしても面白そうだ。
彼はこの奇妙なアイデアを考えながら、自然の声や動きを観察していた。
そうして歩いていると、何かがいつもと違うことに気がついた。
この変化が彼の好奇心を刺激し、足を速めた。
庭に入ると、そこは彼にとって馴染みの、色とりどりの花が咲き乱れる美しい場所だった。
彼は何度も訪れているにも関わらず、花々の間を歩くたびに、その香りと色彩の変化に新たな発見を感じる。
マグナスは各花の成長を観察しながらゆっくりと前に進んだ。
今日もまた、この馴染み深い景色が彼の新しいアイディアの発想に役立っていた。
そして、その美しい花畑の中で、一際目を引く光景を発見した。
ティルシアが大の字になって花畑の中で寝転んでいた。
マグナスは少し驚いた、アトリエに籠っているティルシアがここにいることは珍しいことだった。
彼は静かに近づき、彼女を起こさないように注意深くその姿を見守った。
彼女の穏やかな寝顔と周囲の花々が織りなす景色は、まるで絵画のようだった。
「何か用?マグナス。今の私と話しても何にも得られないよ。」
ティルシアは起きていたようだ、こちらの気配を察し、話しかけてきた。
ティルシアの声は静かで、周囲の静けさに溶け込むようだった。
マグナスは彼女から少し離れた場所に腰掛け、優しく答えた。
「いや、いや、何であれ新しい出来事は
彼の声は穏やかで、庭のさざめく小川の音に重なって、安らぎを運んできた。
ティルシアは花の香りに包まれた空気を深く吸い込み、少し顔をそらしながら答えた。
「別に、ただ気分転換に来ただけ。」
その言葉にマグナスは軽く頷き、周囲の花々に目をやりながら話を続けた。
「実はね、新しいアイディアがあるんだ。杖が使い手に天気やいいランチスポットを教えるとか。面白そうじゃないかい?」
まだ思いついただけだけどね、蝶々が花から花へと舞う様子を見ながら、彼は自分の構想を語った。
ティルシアは彼の提案に思わず眉をひそめた。
「バカバカしい、そんなもの何の役に立つのさ。」
彼女の言葉が冷たく庭を切り裂き、水溜りに小石が投げ込まれたように、波紋を作った。
マグナスは優しく笑みを浮かべながら、静かに語りかけた。
「でも、思い描くことに自由はあるだろう? 現実になるかどうかは別として、アイディアを探求すること自体に意味があるんじゃないかな。」
彼の言葉は周囲の木々がささやくようで、穏やかな説得力があった。
ティルシアはため息をついて、空を見上げた。
何か言ってやろうと思ったが、どうしてか何も言えなかった。
「さて、邪魔をしたならすまない。僕は行くよ。またね、ティルシア。」
彼が庭を後にすると、再び静寂が訪れ、ティルシアはただ
周囲は静かで、時折風が花びらを揺らす。彼女の心には、マグナスの言葉が静かに響いていた――。
ティルシアはアトリエに戻り、考え込みながら作業台に向かった。
彼女の前には、描いた設計図を人間界に送るための小窓がある。
今日はその窓がいつもとは違って見えた。
彼女は自分がこれまで創り出してきた剣たちがどのように使われ、どのような影響を与えているかを思い浮かべた。
いつもならこれが彼女に大きな満足感を与えるものだが、今は何かが違った。
マグナスとの交流で感じた自由への憧れと、現実の制約との間で彼女は揺れていた。
「私は、あんな風にはなれないな…。」
ティルシアはつぶやいた。
彼女はまだ、具体的に何を変えるべきか、その答えをまだ見つけていなかった。
ティルシアは小窓を静かに覗き込んだ。
彼女の中にはまだ完全には吹っ切れない不安と迷いが残っていたが、今なら何かわかるかもしれないと、人間界の様子を覗き見てペンを手に取った。
「だから私は、それを見つけるために剣を創るよ。」
彼女の創作への情熱はまだ続いており、新たな挑戦への準備が始まっていたのだった――。
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