『プー あくまのくまさん』〜ワンアイデアで失速ムービー

奈良原透

『プー あくまのくまさん』

パブリックドメインになった『クマのプーさん』を殺人鬼にしようというワンアイデアのみの作品。


そこにはおそらく、やったもん勝ちという発想もあったのだろう。


急いで作った感がぷんぷんする。


冒頭は好きだ。


クリストファー•ロビンとプーさんの出会いを絵本の読み聞かせ風に見せ、その後、成長したクリストファー•ロビンが100エーカーの森を再訪する場面から実写となる。


ここの100エーカーの森を俯瞰する映像が、無駄に美しい。


美しいからその後の展開を勝手に期待してしまった私がバカだった。


そこで起こる第一の惨劇は、全くのひねり無し。


そして、そこまでがプロローグとなり、タイトルが映し出され、本作のヒロインの登場と続く。


が、ここから、坂を転げ落ちるように凡作へと突き進む。


15分弱のプロローグでこの映画の唯一の売りのワンアイデアを使い果たしてしまっているのである。


あとは、見事なほどにB級ホラー映画の定石の展開が続く。


それも最近のホラー映画の定石ではなく、3、40年前のB級ホラー映画の定石だ。


もしかして、最近のやたら設定や人物に凝ったホラー作品へのアンチテーゼとして、シンプルなB級ホラー映画の王道に回帰したのではないだろうかと勝手に勘違い出来るほどのオリジナリティの無さ。


まず、誰一人として感情移入が出来ない登場人物達。


セラピストに心の傷を癒すため穏やかな環境でリフレッシュしなさいと言われ、その滞在先に、わざわざ連続失踪•バラバラ殺人が起こっている森の横のコテージを選ぶヒロインに、まず呆れる。


そして、友達も薄っぺらな子達が揃っている。


この時代にフェミニズムのカケラも無いところが、逆にスゴい。


ホラー映画にお行儀は要らないのかもだけど、せめて見る者を引き込む説得力が欲しい。


お約束通り登場人物は1人ずつ惨殺されていくのだけれど、惨殺といっても捻りがなく単にエグいだけで、最近の殺し方もストーリーもキチンと捻ってくる諸作品を見ている者には、“キモッ”という程度の感想しか湧かない。


さらに、プーさんとピグレットの殺人鬼コンビが、ジェイソンとレザーフェイスを足して2で割った(2はよく言い過ぎで、3以上で割っても全然あり)感じで、既視感がありまくりなのである。


これで、原作を彷彿とさせる愛らしさがあったら、見た目と行動のギャップで残虐性が際立ったのかもしれないけれど、はなから凶悪ですという見た目なので、その行動が残虐でも、“でしょうねぇ”という感じで驚きがないのである。


また、原題の副題に“blood&honey”とプーさんのアイコン的アイテムのハチミツが出てきており、原作の悪趣味パロディが出てくるものと思っていたら、何も無し。


ハチミツも死体に振りかけるだけで、汚さを増長させているだけだった。


パロディが成立するためには、まず原作へのリスペクトが必要なのだが、見事に無い。


それでも何かは起こってくれるため、漫然と見続けることはできる。


そして、ようやくクライマックス的な部分に差し掛かる。


ここでどう捻りを加えるか、もしかしたら、気の利いたオチでそれまでの凡庸さをひっくり返してくれるかもしれないと思っていたらば、いきなり文字が浮かび上がる。


エンドクレジットが始まったのである。


これで、終わり?


驚いた。


本作で一番に驚いた瞬間だった。


そして呆然と画面に浮かび上がる文字を見続ける。


1時間半、集中力も、思考も使わなかったため、まだ脳みそは疲れておらず、次々と雑念が浮かび上がる。


この一時間半はなんだったんだろう。


もしかしてプーさんが人間を殺しまくっていたのは、自然界の動物に安直に接する人間に対する自然界の復讐か?などと、自分が使った1時間半を正当化しようとする方向に思考が向かう。


が、そんな立派な作品ではない。


案の定、エンドタイトル後のオマケ映像などなかった。


パブリックドメイン系の次の映画は、おそらく“蒸気船”のミッキー。


すでに制作のアナウンスがされている。


その作品には、少しでも原作リスペクトがあって欲しいと思う。

(原作をリスペクトする者がホラー化なんかするかと言うごもっともな意見はあると思いますが、、、)


まぁ、プロローグの15分弱は興味深かったので、良しとするか。


そして、こういう凡作を見ることにより、他の練りこまれたホラー作品の良さが実感できるので、1時間半は無駄ではなかったと、自分を納得させる。





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