第3話 デウス世界の地理歴史と魔法の法則

「あの、アンジェラ。実は変な夢を見て記憶が混乱しているみたいなんだ。ちょっとこの世界の事について改めて聞きたい」


「なるほど、サルヴァ坊ちゃまが著しく異常な態度を取っているのも、その変な夢が原因なわけですね。納得いたしました」


 気絶から回復したアンジェラに、無事話を振る事に成功した。

 こう言っておけば、サルヴァの変化も納得しやすいだろう。

 実際嘘ではないのだ。

 地球とデウス、どちらの記憶が夢かという違いを除けば。


「そんなに変かな? 以後こんな感じで行こうと思ってるけど」


「変というよりは……異常に良すぎる、というべきでしょうか」


「異常に良すぎるってことは、良いって事だよね。別に良いってことだ」


「……そういうところが不気味なのではありますが……まあいいでしょう。この世界について聞きたいとの事ですが、何を聞きたいのですか?」


「たとえば、この世界に最近起きた事件は?」


「西のガノール帝国が北のユーフェリア公国を侵略し、国境紛争を起こしている、とかでしょうか? それにあたって、東の白龍バイロン共和国が、ガノール帝国に制裁を課していくつかの品目の輸出入を止めています」


 ゲーム開始時点で、ガノール帝国とユーフェリア公国は停戦したばかりだ。

 それによって、このオーベル王国の冒険者学園に両国の留学生が来れるようになる。


 ガノールの皇子やユーフェリアの公女が、共に学ぶ中で関係を変えていく。

 そんなサイドストーリーも、デウスの魅力だった。


 その半年前である現在において戦争が勃発しているのは、原作通りだ。


「そうか。そういえばきな臭い情勢だったね。我が国の歴史についても、概略を聞かせてもらえるだろうか」


「我らオーベル王国は、開祖マルティン・フォン・オーベルが南のシャルラン王国の王子として生まれた後、民が幸せな国を求めて独立戦争を起こし、見事本国に勝利したという歴史を持ちます。ゆえに、オーベル王国は民の幸せを第一とする、素晴らしい国として平和を保っているわけですね。この長く続いた平和によって、オーベル王国の学問水準は向上し、王都の冒険者学校には多くの留学生が世界中から訪れます」


 これもゲームの設定通り。

 概ね、この世界はデウスの世界を完璧に再現していると言って良さそうだ。


「ありがとう。だいぶ記憶が整理されてきたよ。今分かっているこの世界の魔法の仕組みについても教えてもらえるかな?」


 これは重要な質問だ。

 俺が強くなることに、ダイレクトに関わってくるからだ。


「はい。魔法は、この世界において万物に存在する魔力に、自身の魔力を操作して干渉する事で使用されます。現代魔法においては、〈イグニス〉〈アクア〉〈ベント〉〈テラ〉などの基本魔法文字の組み合わせにより、魔力に属性付与を行い、術者のイメージあるいは魔法陣で効果を限定、魔力を放出する事で、魔法現象を起こします」


「なるほど、ありがとう」


 これも完璧にゲーム通りだと言える設定だ。

 

 デウスのゲームシステムには、魔法の発明という要素がある。


 基本魔法文字の書かれた魔石を組み合わせていくと、魔法を閃くのだ。


 デウスでは、閃いた魔法を覚えるのに必要なものがあった。

 それが属性レベルと呼ばれるキャラクター毎に各属性持っているレベルだ。


 たとえば、主人公が火Lv2、水Lv1、風Lv2、土Lv0だとする。

 またヒロインは火Lv1、水Lv2、風Lv2、土Lv3だとしよう。

 実際には他にも属性がたくさんあるが、簡単のために4つで考える。


 そしてファイアストームという魔法が、火Lv2、風Lv2を要求するとする。


 主人公は、レベルを全て満たすので、魔石を並べてこの魔法を覚えられる。

 一方、ヒロインは魔石を並べても、火のレベルが足りない。

 よって、ヒロインはこの魔法、ファイアストームを覚えられないのだ。


「魔法を発明したい場合は、何が必要なのかな?」


「魔法の発明、習得には、まず正しい組み合わせの基本魔法文字を印字した魔石が必要です。それら魔石を順番に並べて、教会で祈祷すると、十分な力を持つ人であると神に認められれば、魔法を習得する事ができます」


 なるほど、完璧にゲーム通りだ。


「十分な力っていうのは、教会で測定できたりするのかな?」


「教会では、その人物の各属性ごとの格として、レベル、という数値を見る事ができますね。これが足りていれば、魔法が覚えられると我が国の研究で分かっています」


「オッケー、ありがとう。完璧だよ、アンジェラ」


 魔法のシステムも、デウス世界を完璧に再現したものになっているようだ。


 どうやら俺が転生した世界は、本当にデウスの世界そのままのようだ。


 だとするなら……


「アンジェラ、属性ごとのレベルを上げる方法は?」


「そうですね、その属性をたくさん使用して、習熟度を上げる事が近道だと言われています。Lv0の場合は、その属性に適正がなく、属性を使用する事は出来ないとされます」


 そこもゲーム通り、か。


 だが、今の説明には、欠けている要素がある。


 デウスにおける属性習熟度システムは、使


 強い敵を相手にしている状況や、困難な魔法を使用している状況。

 そうした状況で、獲得習熟度が跳ね上がるのが、デウスのシステムなのだ。


 また、キャラクターごとに、習熟度の上がりやすさは違う。


 どうやらその事は、この世界においては一般には知られていないらしい。


 デウスにおいても直接説明はされない隠し要素だから、無理もないだろう。

 

 だとするなら……


「アンジェラ、このサリュ家の領地はオーベル王国のどこだっただろうか」


「ああ、サルヴァさま、そんな事も分からなくなっているなんて嘆かわしい……オーベル王国西の端に位置し、北西の天眼山脈を超えればガノール帝国に至る、サリュ領ですわ」


「……そうだったな」


 クソサルの家がどこにあるかも、原作通りのようだ。


 その答えに俺は満足した。


 なぜなら、天眼山脈にはアレがいる。


 この世界における習熟度上げでプレイヤー誰もがお世話になる、アレ。


 習熟度獲得効率は序盤最高級だが、すぐ逃げられてはみな悔しがる――


 ――その名も、シャイニングスライム。

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