現れる漆黒

「あぁ…久々の外界がこんな風になっているとは、世界は滅んだのかな…?いや、人間が存在しているという事はまだ滅んではいないようだね。

 それにしても…僕が元々いたところとは全く違う場所みたいだけど、ここはどこなんだろう?誰もいないしね」


 それもそのはずで、鬼神ホルダーの降臨を察していたミカエル達は迎撃の準備を着々と進めていた。




 ことは、1時間前に遡る……




「……姫さん、これ以上はこの子の為にもならないぞ…?この子に希望を見出すのは勝手だが、我々をも巻き込んでやることでもないだろう」


「わかってるよ…でも私の鬼神が囁いて言うんです。この子は時代を変える鍵だと……」


「それを姫さんは信じるのか…?」


「わかってる…鬼神は私たちの欲望を食らい、それを糧にして力を得ている。だから、その力を制御できない者は鬼神に乗っ取られ暴走してしまう…けど……」


「えぇ、そして私たちは未だ鬼神を抑制する薬を完成させることは出来ていない。強いて言うなら、鬼神の力を少しだけ弱体化する事。でも、これは火に油を注ぐようなものであって実際に効果は出ていない」


 私たち人間が鬼神と共存するという事は、最初の頃は無謀だと言われ続けていた。なぜなら、そもそも鬼神は人間が扱う事を想定されて作られていなかったから。

 だから、人間と鬼神は共に共存できないそう思われていた。

 ただ、例外が存在していた。それは…王族だった。王族は長きに渡り、鬼神を術式とうたいこれまで継承してきた。それも、赤ちゃんの頃からだ。

 ただ、人間は魔力を認識できない。それは、術式とて同じことだった。だから、王族は代々武器に術式を刻み込み、無理やり力を行使していたに過ぎない。そして、博士が開発した術式転換でさらに王族だけではなく、一般人にも魔力を術式に変えるという事が可能になっていった。


 この術式転換を作った博士だからこそ、今この場で起きている異常事態のことに目が離せないと同時に、危険という事も分かっているのだろう。

 本来なら、鬼神に乗っ取られた時と言うのは魔物化するものだった。しかし、今目の前で起こっていることはそんなことではなかった。

 少年の体の周りに黒いもやみたいなものが現れており、それがどんどん濃くなっているのだ。こんなことは初めての事だった。今まで、こんな現象が起こったことなど一度もなく、制御しきれないものはことごとく、体が変貌していった。


「姫さん…気持ちはわかるが、今の状況を見ろ!これは明らかに以上事態だ!もう諦めろ。これは私の感だが…この鬼神は今までの奴ら達とは明らかに格が違う!目覚める前にこの少年を殺せ!そうじゃなければ、私たちは全滅するぞ!」


「…なっ!?」


 こういう時の博士の感は良く当たる。だからこそ、今の発現には従うべきだろう。私もそう思う…だが、理性ではわかっていても、感情が邪魔をしてくる。


「猶予はない…目覚めるまで、残り10分といったところだろう。やるなら今だ…姫さんが手を下せないというのなら私がやろう」


 博士は術式の行使を行い、鬼神を顕現させる。博士の鬼神は弓矢の形状をしており遠距離特化の鬼神だ。だが、ただの弓矢ではない。博士の弓矢には、剣身が付いており近接戦もできる優れものだ。


「大丈夫です博士、私できます。これまでも何人も切ってきました.…さすがにこの子だけ特別ってわけにもいきません」


「……」


 覚悟を決め、術式を行使し自身の愛刀を顕現させる。


「あなたを今楽にしてあげるからね」


縛剣ばっけん雨叢雲あまのむらくも



「…!ダメだ…!今すぐその場から離れろ!」


 唐突に、博士から発せられた声に反応してしまい…咄嗟に後ろを振り向いてしまった。


「え…?」


 次の瞬間…刀が少年の首を落と……すことはなかった。黒い霧に刀が止められ、ギリギリと甲高い金属音を立てている。


「なっ...!?」


 刀を止められた驚きよりも、黒い霧とぶつかった時になった金属音の方がより驚きが強かった。


「あの黒い霧自衛もできるの…?」


「姫さん今すぐそこから離れろ!黒い霧に狙われてるぞ!」


 今の攻撃で、黒い霧が私を敵とみなしたのか、殺意むき出しで私のことを襲ってくる。


「すぐそちらに下がります!」


 黒い霧を斬り伏せ、博士に言われるまま後ろに後退しようとする。


「バカ…!こちらに振り向くな!黒い霧が襲ってくるぞ!」


 後ろを振り向いて、博士の方に走り出そうとした瞬間…黒い霧が私めがけて飛んできていた。


「くっ…!」


 この速さ…よけられない!


《貫け・ドラグランサー》


 博士から放たれた弓矢が黒い霧と衝突する。


「助かりました博士」


「ここじゃ戦いにくい。

 全員呼んで迎撃するぞ!それぐらいの戦闘力は覚悟しておいた方がいい…それに……」


 博士から目を離し、少年の方に振り向く。すると、先ほどの黒い霧が少年を包み込んでいく。まるで、心臓が鼓動しているかの様に、ドクン…ドクンと……その鼓動は何を示すのか。

 それはもちろん……


「くっ…!」


「うっ…」


「なんなのよ…このどす黒い瘴気は…!」


「ここにいたら、意識を刈り取られてしまいそうだな…私たちも上に向かうぞ…!」


「わかりました!」


 博士の指示に従い、ラボから一旦離れ様子を見ることにした。その直後とんでもない衝撃波が、先ほどまでいたラボから発生した。


「目覚めたか…急ぐぞ!」


「はい!」





●●●





「あぁ…久々の外界がこんな風になっているとは、世界は滅んだのかな?いや、人間が存在しているという事はまだ滅んではいないようだね。それにしても...僕が元々いたところとは全く違う場所みたいだけど、ここはどこなんだろう?

 誰もいないしね……まぁいいや、ここには人間がたくさんいるみたいだし…でもこの服は邪魔だなぁ」


 服を破り捨て黒い瘴気から新たに服を纏い…目が赤く黒く、より漆黒へと染まっていく。


「さぁ、始めようか…君たちがどれほど僕を楽しませてくれるのか…見ものだね」

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