煌めく瞳、示す覚悟

「ティアフォルト=ビクトリアね、覚えたわ…。

 それじゃあ私について来て、私たちの基地に案内するわ」


「うん...わかった」


 ティアフォルト……この子は強くなれるだろう。

 悲しみを乗り越え、前に進めるのは誰にでもできる事ではない。

 あまつさえ10歳の子供がそうしなければ生きられない世界になっている。そんなこと、断じてあってはならない。


「必ず、成し遂げましょう...この世界の未来の為にもね」


「…?よくわからないけど、がんばる!」


 ありゃ、さすがに世界の話しは跳躍しすぎたかな?言っていることを理解できなかったみたい。

 まぁ、10歳の子供がそんなことを考えないでいい未来を創るのが私の使命なんだけど……。


 歩くこと、10数分私たちの前に一つの建物が現れる。


「さて、ついたわよ!ここが、私たち月光の薔薇騎士団ルナ・ローズ・ラピテルよ!」


 私たちの組織……月光薔薇騎士団ルナ・ローズ・ラピテルは、騎士団とは名乗ってはいるものの、その実態は今の現状に納得がいっていない人たちの集まりだ。

 そして皆、術式の適合者でもある。


「みんな!ただいま!」


「お!お姫様のおかえりか!」


「何だ何だ?子連れか?」


「お嬢また子供を助けたんですかい?」


 拠点に帰るとすぐに四方八方から声がとんでくる。

 ここにいる者たちは皆行く宛がなく、力を求めた者たちだ。


「お嬢!まさかその子供を俺たちの仲間に入れるつもりか?」


 奥から大柄の男がこちらに駆け寄ってくる。 彼が、ティアフォルトの心配をしてくれているのはわかっている。

 ここにいれば、命がいくつあっても足りないからだ。

 敵は魔人族だけではない。人間とも戦わなくてはいけないようになってくるからだ。


「ゴンさん。この子には世界を変える資格を持っています…そこに年齢はないと私は考えています。

 それに、最後の判断はすべて彼に委ねました。

 それでもやりたいといったんです。ならやらせてあげるべきではないでしょうか?」


「いや…お嬢がそれでいいなら良いんだけどよ……後悔だけはしない様にな」


 この人はゴンさんと言って、私がこの騎士団を立ち上げて、最初に仲間にした人だ。

 彼は、頭もよく作戦の立案、実行をやってくれている。

 それに、今では私達の親代わりみたいなようなものになっている。


「わかっています。この組織を立ち上げてから、私のやるべきことはすでに決まっていますから、後悔をしている暇はありません」


「そうか…」


 私はゴンさんが何を言いたいか理解はできる。

 私のせいで、沢山の人を殺してきてしまった。

 そのことに後悔はないと言えば嘘になる。

 だが、誰かがやらなければならない。

 世界を変えるとは、そういうことだ。

 それが例え、誰も望まなくても…今のこの世界はそれほど荒んでいる。


「ゴンさん!私、今までやってきたことに後悔はしていません!ここには、もういない仲間達の分まで私が…必ずこの世界を変えて見せます。

 だから…ゴンさんも迷わないで下さい!そのための仲間です!」


「そうか…そう思ってくれるのか…ありがとう。

 少し楽になったよ」


 私の言葉選びがあっていたかは分からない。

 ただ、ゴンさんが最後に見せた悲しみの表情をどう捉えていいのかもわからない。

 ただ、ゴンさんが何かに悩んでいるのなら私としても力になってあげたい。それが私の本心だ。


「お待たせ、それじゃあ世界能力に変わる力の説明をするね?」


 先程から置いてけぼりのティアフォルトの方に向き直り、世界能力に変わる力の説明を始める。


「お願いします!」


「じゃあまず、世界能力がどんな物か簡単でいいから答えてくれる?」


「神様が人に与えた力?」


「うん!悪くない答えだと思う。次にこれが君に与える力…術式と呼ばれる力ね。君はこの力がどんな物か分かる?」


 そう言いながら、一つの武器を呼び寄せる。

 その武器は何もない場所からいきなりミカエルの腕の中に現れる。


「……」


 さすがにこの質問は難しいかも知れない。

 でも、必ずこの質問には答えてもらわなくてはならない。

 なぜなら、適正者だからといって、そう簡単に扱える代物ではないからだ。

 一歩間違えれば、力に飲み込まれてしまうかもしれない。

 それで、何人もの同胞の悲鳴を聞いてきた。その者達は、力を制御できず力に飲み込まれた者達だ。


 力に振り回されて自殺してしまった人や、私が殺した人だっている。

 私はもう、目の前で気が狂う人を見たくない。

 みんな、何かしらの後悔を残して逝ってしまった…だからこそ、みんなを先導している私が引き継がなければならない。


「難しく考えないで、さっきと同じように簡単に答えてくれればいいから」


「……」


「どうかしたの?」


 ティアフォルトは口を開かない。それどころか、固まったかのように武器から目を離さない。


「すぅ…はぁ……」


 ティアフォルトは一度、大きく深呼吸をする。

 彼の中で答えが出たようだ。


「その力は、人が持ってはいけないものだと思います」


「「「「!?」」」」


 周りからはどよめきの声が広がっていく。

 それもそうだろう。

 今の発言は、ここにいる人たちを真っ向から否定する言葉になるからだ。

 ここにいるみんなは、自らの意志で術式というよくわからない力を手に入れた。

 それを、否定されれば当然怒りが湧き上がってくるるだろう。


「おい!さっきから黙って聞いて見れば……」


「ゴンさん…」

 

 ゴンさんの気持ちもわからなくはない。

 それどころか、皆今にも手を出しそうな勢いだ。


「小僧は今ここにいる全員を馬鹿にしたんだぜ?それなりの理由があるはずだ。

 ただの憶測による物なら、さすがにお嬢が連れてきたガキだろうが、仲間に入れることはできねぇなぁ」


 ゴンさんの圧がすごい。

 ただ、覚悟を決めた男というのは、以外と強いものなのかゴンさんに物怖じすることはなくティアフォルトが話を進めていく。


「この力は、魔力?を変換して、僕たちの様な人にでも扱える様にしたものと言っていました…」


「言ったわね、そもそも人間には魔力を見る視覚を持っていない…魔力を感じることができないんだよ?」


「僕のお母さんは、昔研究員をしていたそうです。

 そして、その研究こそが……」


「魔力の運用方法…?」


「はい。

 それに、僕のお母さんはこう言っていました『魔力は第二の心臓』だと……」


ティアフォルトの言っていることは荒唐無稽だと思う。

 魔力が第二の心臓?ならなぜ、私たちにはその魔力というものを感知できないのか…疑問が沸いてくる。

 だがそれは、今の私達には関係のないことだ。問題なのは……。


 「それで?今更怖じ気づいたのか?そんなこと俺たちは重々承知していることよ!

 どうせいつ死ぬかも分からないんだ、なら…弱さも認め、強さを手に入れる。それが例え、地獄の入り口だとしてもな!」


 ティアフォルトの言うとおり、魔力は第二の心臓と言ってもいいかもしれない。

 だがここにいる皆は入る時すでに死の覚悟はできている。

 一度術式を見ただけで、ここまでの危険性を理解するのは、そうそうできないことだ。

 この子の潜在能力なのか、はたまた……。


「一つだけ言っておく…引き下がるなら今だぞ?ここから先に踏み入れれば、お前はもう戻れなくなる…確実にな」


「帰る?そんな選択肢あるわけないじゃないですか。

 僕はもう逃げたくない!

 力を手に入れてお母さんを守ってみせる!」

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