早朝の教室にて、

那須茄子

早朝の教室にて、

「おはよう、新井田にいだ君」 

「お、おはようございます」


 視線が合った。目を逸らす。


 まだ始まったばかりの朝の教室には、僕と先生しかいない。

 だから余計に、視線と視線が僕たち二人の間で、いくつも交わされる。


 僕はそのどれも先生の顔を直視するこはできず、先生の身体に視線を置いていた。

 先生の瞳が、いつも僕をそうさせる。

 

 意識せずにはいられないから。


 

「新井田君はいつも早いよね。皆結構ギリギリなのに、新井田君は凄いよ」

「いえ、大した事ないです」

「そっかな。新井田君は自分が思ってるより凄い人じゃん……勉強はできるし、スポーツもできるし、優しいし、真面目だし……もっと他の子とコミュニケーション取れば、お友達もいっぱいできると思うんだけど」

「別に。友達とかいりません」

「残念だね、新井田君のそういう所」

「……………先生は僕に、友達を作って欲しいんですか?」

「うーん。そうだね、先生としてはそうかな。でも、としてなら今の新井田君でいて欲しい。ずっとずっと独り占めしたいし」


 恥ずかしげもなく放たれた先生の言葉は――なるほど、これまた僕を意識させるものでしかない。

 

 どうにも解せない。

 そもそも、よく考えてみれば先生がこんなに早く教室にいるはずがないよな。

 

 これはひょっとして。



「……先生もしかして、さっきからこの状況というか――僕の反応を楽しんでますよね」

「ありゃ、バレた? えへへ」


 



 

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