第17話 元の世界に帰るには
モルテさんが何かつぶやくと、手に持っていたランドルフさんの剣が淡く光りフッと消えた。
「剣がなくなると困るのだが?」
そう言ったランドルフさんに、モルテさんは「帰るときに返してやる」と素っ気ない。
「おまえと関わる気はない。空いている部屋を適当に使え」
モルテさんの態度がとても冷たい。私のときは、あんなに良くしてくれたのに......。
お互いに顔見知りのような雰囲気だったけど、もしかしたら、仲が悪いのかもしれない。
私がチラッとランドルフさんを見ると、「置いてもらえるだけで有難い」と微笑んでいた。
「セリカ、空いている部屋を教えてくれないか?」
「このお城、ほとんどの部屋が空いていますよ」
「へぇ。君の部屋はどこに?」
「私の部屋は......」
私の言葉を急にモルテさんがさえぎった。
「部屋には俺が案内する」
「モルテ卿は、私には関わらないのでは?」
ランドルフさんの声に嫌みはない。
ただ、純粋に不思議に思っているようだった。
「……気が変わった」
「そうかい? 助かる」
歩き出したモルテさんのあとをランドルフさんがついて行く。振り返ったランドルフさんは私を見て「またあとで」と手を振った。
私が二人の背中を見送っていると、今までどこにいたのかファルスが側に寄ってくる。
「まさか、街であったとんでもねぇ爽やかイケメンがここまで来るとはな」
「本当にビックリだよね」
「街の人達から聞いたんだけど、あのイケメン、王宮騎士の騎士団長なんだってよ」
「え? それってすごく偉い人ってこと?」
「まぁ、偉いわな。そんなヤツがどうしてセリカのことを捜してんだか」
「私のことを? でも、ランドルフさんはモルテさんに話したいことがあるって言ってたよ?」
「は? オレには『街で一緒だった女性のことを聞きたい』って言ってたぞ。それってセリカのことだろ?」
『私のことを聞きたい』?
この前初めて会って、助けてもらったときに少し話しただけなのに。
ランドルフさんは偉い人みたいだし、ストーカーなんかじゃないだろうけど……。
私とファルスは顔を見合わせた。
「なーんか、うさんくせぇな。あのにーちゃん」
「モルテさん、大丈夫かな……」
モルテさんはランドルフさんを帰したがっていたのに、私のせいで居座ることになってしまった。
「まぁ、気にすんなって!」
ファルスが私の背中を叩く。
「どうせまた、魔王様に魔物退治でも依頼しに来たんじゃねーの?
「魔物退治......」
モルテさんから聞いていた通り、魔物の森はとても危ない。騎士であるランドルフさんがケガをするくらいだから、私だったら死んでいたかもしれない。そこでふと、
私はあることが気になった。
「ねぇ、ファルスはいつもどうやって、ここから街まで行き来しているの?」
転移装置はモルテさんのように、膨大な魔力がないと動かせないと聞いている。
街に行ったとき、ファルスでは、動かせないと言っていたような?
「オレは普通に歩いて行き来してっけど?」
「えっ! それって、魔物の森を一人で通り抜けているってこと!?」
驚く私にファルスは「まぁ、オレ、特異体質だから!」と明るく笑う。
「じゃあ、ファルスは魔物に襲われないの?」
「そうそう!」
なんてうらやましい体質なの!?
「それって訓練したら、私もそういう体質に……?」
「ムリムリ! オレのは生まれ持ったやつだから!」
「そっか」
魔物に襲われなくなったら、この世界でいろんなことができそうと思ったけどムリなら仕方ない。
やっぱり元の世界に帰る方法が分かるまで、このままモルテさんのお世話になるしかないみたい。
でも、魔物に襲われない特異体質なら、他の能力もあるのかも……?
私は慎重に言葉を選んでファルスに問いかけた。
「ねぇ、ファルス。特異体質のファルスだったら、もしかして、あっという間に別の国に行ったり、別の世界に行けたりするの?」
「あーそういうのはムリ。俺は地道に移動しないとムリだから」
「そうなんだ」
「国の行き来は転移装置があって、強い魔力を持つヤツいたら可能だな。別の世界は……」
少し悩んでからファルスは言葉を続けた。
「そういや、魔力が強い人間が、無理やり異世界の扉をこじ開けたことがあったな」
「えっ!? そんなことができるの!? その人、どこにいるか分かる?」
ファルスは首を左右に振る。
「さぁ? そのまま異世界にでも行っちっまったんじゃねーの?」
「ちょっと待って。えっと、ということは、強い魔力を持った人なら、別の世界に行けるってことだよね?」
「まぁ、そういうことだな」
「じゃあ、魔力の強い人と一緒なら、私も異世界に行ける……とか?」
ファルスの返事次第では、私はすぐにでも元の世界に帰れるかもしれない。
「人間が魔法を使う仕組みは良くわかんねーけど、そうなんじゃね?」
「そう、なん、だ……」
喜びと戸惑いで胸がドキドキしている。
住み慣れた世界に戻りたいという気持ちと、戻っても両親はいないという悲しみが入り混じって自分の気持ちがよく分からない。
「じゃあ、魔力の強い人なら簡単に異世界を行き来できるんだね」
「いや、それはない!」
ファルスにきっぱりと否定された。
「異世界の扉を無理やり開くなんて芸当、まず普通の人間にはムリだから! それこそ、魔王様クラスの魔法使いでもないとできねーよ」
私はファルスをまじまじと見つめた。
「……え?」
「うん?」
ファルスも私を不思議そうに見ている。
「魔王様って……モルテさんなら異世界に行けるってこと?」
「いや、本当に行けるかは分かんねぇけど、あれくらいの実力がないとムリってこと」
「でも、モルテさんならできるかもしれないってことだよね?」
「そういうこと」
私は自分がとんでもなく幸運な状況だったことにようやく気がついた。
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