第10話 初めてのクエスト:ダークウルフ
パーティー登録が完了したアーサー王子らはクエストの張り紙がズラーっと貼ってあった冒険者ギルドの掲示板を見ていた。
彼らは
「Cランク以降のクエストって案外少ないんですね……」
ヘーデが言う通り、ギルドの掲示板に掲載されていたクエストのほとんどはBランク以上の案件ばかりであった。
ボインボインの受付嬢によると、レオンハルト王国では魔物の魔力レベルが年々上がっているのだと言う。
世界屈指の冒険者パーティーがこの国を訪れ、それ故に冒険者の国とも呼ばれるようになったのだ。
「これから張り出すつもりだったクエストがあるのですが、どうでしょうか?」
とやっぱりボインがボインしすぎている受付嬢が、レインハードにクエストのチラシを渡してきた。
鼻血を出しながら、レインハードはもらったクエストのチラシを手に取り、「こんなクエスト、余裕ですッ!」と内容を読まずして、受付嬢にそう伝えた。
ジゼルが、レインハードからチラシを奪うと、書かれていることを読み始めた。
「クエスト名:王国の近郊、草原の丘に住み着いているダークウルフの残党を討伐せよ。Dランクのクエストですね」
「ダークウルフって何!」
アーサー王子がようやくの冒険に興奮して元気よくジゼルに聞いた。
「ダークウルフは、夜にしか出没しない魔獣です。漆黒の毛並みをし、光る赤い目。闇属性の攻撃を基本とし、強力な嗅覚を持っているので大きな群れで行動することがほとんどです。ってダークウルフってBランク魔獣のはずですよね」
ジゼルが冷静に疑問を投げかけると、レインハードはビビった表情で、ダークウルフの想像をして少し震えていた。
「確かに、ダークウルフはBランク魔獣です。ですが、それは群れで行動する時だけです。」
「え、まさか群れで行動していないんですか?」
「はい、私たちも最初に見たときは驚きました。あのダークウルフが群れではなく、単体で行動していることに。きっと先月、ダークウルフの主要の住処が丸ごとなくなったことが原因ですね。」
「住処がなくなった?」
あまり詳しくなかったヘーデはふと気になったことを声に出した。
「はい、王国の郊外に位置したダークウルフの住処が先週、急に丸ごと消えたのです。」
「そういうことですか」
何かを察したような表情を浮かべたジゼルはダークウルフが単体行動していることを納得した。
「お姉さん、このクエスト受けます」
「わかりました。それと王国近郊に、これまでは未確認だった魔獣が出没している事案が発生しているので、気をつけてください」
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドを出ると、外は既に薄暗くなっていた。
「お腹が空いた」と冒険に出てから飯しか食べていないアーサー王子がわがままを言い出したので、近くの古汚い飯屋に入った。
ダークウルフは夜にしか姿を見せないので、それまではここで時間を潰すことにした。
「なんでジゼルさんは急にあのクエストを受けることにしたんですか? ダークウルフが単体行動だと弱いからですか?」
ヘーデが問う。
「ダークウルフは単体で行動したら、弱くなる。群れで行動するから強いっていうのがBランクに位置する大きな理由。それでも魔力量はBランクであるのは変わりない。」
「では、なぜDランクのクエストだったのでしょうか? 不思議ですね」
「ダークウルフは今、日和っているからだと思う。住処が急に丸ごと消えたって受付のお姉さんが言ってたから確信したけど、あれは勇者クラウスの聖剣エクスカリバーの仕業だよ」
「——勇者クラウスっ!」
1番に反応したのは目の前の飯に夢中だったアーサー王子だった。
「勇者クラウス、この辺にいるってことっ!?」
「それはわからないけど、イルマの冒険者パーティーの勇者にして圧倒的火力を持つ勇者クラウスはダークウルフの主要住処を消し去った。これは間違いないと思うよ」
「……勇者クラウスって、誰でしたっけ……」
レインハードは女性以外の名前を覚えたりはしないのだ。
(遊び人みたいでかっこいいだろッ!)
「そろそろクエストへと向かいましょうか」
とジゼルが言い、みんなは飯屋を出て王国の近郊まで歩いて行った。
夜道は暗く、アーサー王子は就寝時間が夜の九時半だったので、もう既に眠たく、フラついていたが、初めての冒険らしい冒険だったので、今日は夜十時までは耐えると豪語していた。
街灯もなく、レインハードが手に持っていた松明だけが唯一の光だった。
(寝る時間、三十分しか変わらないですぜ、アーサー王子……)
「気になったんですが、イルマお姉さまのパーティーは何ランクなんでしょうか?」
辺りが暗いせいか、みんなの気持ちも暗くなってしまっているような気がしたので、レインハードはふとした質問を聞き、話を広げようとした。
「——Sランクですよ」
「え……やっぱりですか?」
薄々気づいてはいたものの、お姉さまは強いのだった。なのに、私がEランクなんて…………笑えます、うふふ。
でもお姉さまは自分よりクラウスって奴の方が強いとか言っていたけれど……それってあの勇者クラウスのことなんじゃ……?
「レインハードはそんなことも知らないの!」
なんかデジャヴを感じたレインハードだった。
「注意してください、みなさん。まだ草原の丘ではないですが、ここら辺でもダークウルフが出没した記録があるので」
光の精霊よ、真理の呪文を我に授けよ 銀河の輪廻を照らし、光を灯せ『光輝の啓示』
高度な詠唱魔法で、ジゼルは夜の暗い辺りを光で照らして、視界をよくした。
すると、暗かった時には見えていなかったが、ダークウルフが二匹、パーティーの背後をついてきていた。
「うわっ!」
と思わず声を出してしまったアーサー王子の方に向かって、一匹のダークウルフが走って向かってきた。
「アーサー様! 木刀を構えてください!」
明らかにアーサー王子を襲おうとしていたダークウルフは牙を出し、アーサー王子に飛び付こうとした。
怖くなったアーサー王子だったが、適当に木刀を振り、それはたまたまダークウルフを直撃した。
木刀だったため、ダークウルフを倒すほどの威力はないはずだったが、なぜかダークウルフは倒れてその場を動かなかった。
そうなのである。Bランク魔獣のあのダークウルフが木刀の一打で倒れてしまったのだ。
「え……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます