第11話 天使の嫉妬
「どうしたの?」
俺が何度も目を擦って、ジルさんと洞窟の奥を交互に見つめている様子に、ユナは不思議がって尋ねて来た。
「……この洞窟、多分別の出口がある……そこまで行ってみよう」
「えっ……道、分かるの?」
「ああ……多分、だけど……」
俺は、自分が見えるようになった『
「……それって、どういうことなの? そもそも、タクの能力って、何なの?」
ユナが、呆れたような、驚いたような表情で俺を見つめている。
ジルさんも、言葉を失ったように呆然としている。
「……いや、俺の能力っていうより、ジルさんの、なんとしてもここを脱出してアイシスさんを助けたいっていう思いが、通じたのかもしれない」
「通じたって……神様に?」
「まあ、能力をくれたのは自称『神』様だったけど……そのときに言われていたのは、『
そう言って、俺とユナは同時にジルさんを見る。
彼はちょっと赤くなって、咳払いをしていた……やっぱり、アイシスさんのこと、相当気に入っているようだ。
「……でも、『天使』っていうことは、最高位の精霊よね? そんなのが、タクに憑依しているっていうこと?」
「そうなのか? 俺、あんまり精霊とかって、詳しく知らないけどな」
「私も、そんなに詳しい訳じゃないけど……でも、そうだとしても、どうしてタクは自分の運命の人、見えないのかしら?」
「……ひょっとして、『天使』って女性で、俺のこと気に入ってて、他の女の子に嫉妬して見えないようにしているとか?」
ユナの反応が見たくて、ちょっと冗談っぽく話してみる。
「……それだと、私がもしその相手だったら、天使に
「……それは笑えないな……」
彼女は苦笑いで返したが、先程の竜との死闘を目の当たりにしていたので、わずかながら背筋に冷たいものが走るのを感じた。
ともかく、今はその導きを信じるしかない。『
途中で行き止まりになっている可能性もあるので、分かれ道ではナイフで岩にどちらから来たか刻んでいくが、幸いにも引き返すような事態にはならなかった。
順調に進んでいるかに思えたが……その行程は長かった。
直線距離で言えば、おそらく数キロ。
しかし、這って進まなければならないほど細い道があったり、一部水の中に潜る必要があったりと(水の中でも
そしてもう、ヘトヘトに疲れ果てたその時、岩に覆われた天上から一筋の光が差し込む場所に辿り着いた。
そして
その事実を伝えると、ユナは歓喜の叫びを上げ、ジルさんは安堵のため息をついた。
高さは、約2メル。
ユナがかぎ爪の付いたロープを投げ、しっかりとかかったのを確認して、登っていく。
「……やったわ、憧れの地上よ!」
と、登り切った彼女は顔だけ岩の隙間から出して、満面の笑みでそう語った。
なんか、何年も土の中に居て、ようやく地上に出られたセミみたいな感想だな、と言おうと思ったが、その気力はもう無かった。
彼女に続いて俺とジルさんが地上に出た。
その場所は、一言で表現すれば、
さらに大きく辺りを見回すと、雑木林の一部だった。
すっかり夜になっていたが、満月だったので、辺りの様子は十分に把握出来た。
「……ここ、どこかしら……」
「……洞窟と森の中間地点、といったところでしょうか。普通はこんなところに誰も来ないでしょうし、まさかここまで洞窟が伸びていると思っている人はいないでしょう」
ジルさんも、正確な位置は分からないようだ。
しかし、幸いにも俺には、『
つまり、村の方角が、はっきりと分かるのだ。
林の中で、ほんの少しだけ休憩して、すぐに出発。
竜が活動を行わない夜の間に、村に戻りたかった。
ホシクズダケも、荷物になるため三分の一ほどに減らしていた。
残りは洞窟の移動中に、泣く泣く放置していたのだが、また余裕が出来たら取りに来ようと話だけはしていた。
まあ、竜が討伐された後になるだろうが……。
そのまま歩くこと、約一時間。
すると一キロほど先に、深い森が見えてきた。
あそこまで行けば、竜に見つかる可能性は低くなるし、万一追いつかれたとしても生い茂る木々が邪魔をして、あの巨体では動き回ることは難しくなるだろう、とジルさんが教えてくれた。
「じゃあ、後もう少し……がんばろうね」
まったく、ユナの小さな体の、どこにこれほどのスタミナがあるのか。
俺も、以前は部活で体を鍛えていたのだが、本音では今すぐにでも眠りたい気分だ。
ジルさんも、大分疲れているように見えるが、あと少しで安全な場所にたどり着けるという希望からか、休もうとは言い出さなかった。
と、その時……。
背後で、ズシンと大きな物音がして、大地が揺れた。
全員、驚いてその方向を見て、そして戦慄した。
「……ウソだろう?」
思わず絶句する。
「……こんな夜中に……タク、あなたの天使……どれだけ嫉妬深いの?」
ユナも青ざめている。
「……」
ジルさんは、無言でへなへなと座り込んだ。
――我々の背後、わずか五十メルに、竜がいる。
全長二十五メルを超える、巨大な体躯。
目は鋭く、怒りに打ち震えているように見える。
胸を張り、頭を持ち上げたその体高は、十メル以上の高さと思われる。
体を支える四本の足には、それそれ四本ずつの指、そしてその先に伸びる鍵爪は、ダガーナイフほどもの大きさだ。
全身、緑がかった鱗に覆われ、胸部から腹部にかけてやや白みを帯びている。
頭頂部に二本の大きな角が生え、背には
その立ち姿は、まさに悪魔の化身だった。
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