徒文

 雨。ざあざあと地上に降り注ぎ、なにもかも冷やしてしまう。

 空気中の汚れも巻き込んで、ぜんぶ流してなくしてしまって、太陽のぬくもりを冷やして、世界が雨だけになる。


 人も鳥も虫もみんな静かになって、ほかの音も覆い隠す雨。

 ぽつぽつとしたたるだけで、たちまち「雨の日」に変わってしまう。


 きりのような雨の日は、傘をさしたくなくなってしまうけれど、見た目よりずっと濡れるから、結局いつも後悔したりする。


 靴のなかがぐじゅぐじゅになる。

 あれはあんまり好きじゃない。


 雨の日には、雨の日にしかしない匂いがする。

 葉っぱが雨粒の重みでたゆんで、そのまましずくをこぼすのを、じっと見てしまう。


 雨が好きだ。


 涙雨なみだあめも夕立も、小雨も、豪雨も、通り雨だって、雨の日は暗くてちょっとしめっぽくて、いつもより静かで、身も心も浄化される。


 雨が苦手な人がいる。

 暗くてちょっとしめっぽくて、いつもより静かだから、沈んでいた心にそっと影が差してしまうんだと思う。


 雨で頭が痛くなる人もいる。

 耳をあたためると良いとかいうけれど、痛いものは痛いのだ。体に痛みがあると、気持ちまでうしろむきになってしまうからよくない。

 痛みがない世界になったらどんなにいいだろう。


 てるてる坊主をぶら下げるからこっちにくるなと言われたり、舞を踊るからこっちにきてくれと言われたり。

 それって、それだけ雨がおよぼす影響が大きいからでしょう。


 だれかを救うには、だれかに影響を与えられないといけない。だれかに影響を与えるとは、誰かを苦しめることでもある。


 そうやって哲学的に考えてしまうのも、きっと雨のせいなんだろう。


 雨上がりの水たまりで、長靴のこどもがはしゃいでいる。

 土砂降りの中を笑いながら駆けて、ずぶ濡れになっている人がいる。


 やっぱりどこまでも雨が好きだ。

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徒文 @adahumi

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