第5話 一つ目の記憶

 工場の燃料タンクの部屋の片隅から微弱な魔力反応がある。反応がある方を見ると、鎖の塊がある。近くに行くと人型である事が分かった。


「これが……?」


 グリムが鎖の塊を触ると、鎖の隙間から光りが漏れ出た。グリムはその鎖を引きちぎった。すると、中からグリムと姿形が同じ石像が現れた。


「04の話しだとこれが分身体……?」


「でも、どう見ても……石像ですね。」


 MTとホープは04の話しを疑った。


「いや、間違いない。」


 グリムは石像に触れた。すると、石像は魔力の粒となり、グリムの体のあちこちから吸収されていく。


 記憶が頭に流れ込んでくる。間違いなく、過去の記憶だった。


「この記憶は……。」


 

 目の前には海岸が広がっている。その海と空から無数の飛行艇と軍艦がこちらに押し寄せてくる。強力な魔法が敵軍艦から放たれ、こちらに甚大な被害が出た。


 その後も、様々な兵器が襲い掛かってきた。その果てに……。



「グ……さん……。グリムさん……。」


 声が聞こえる。はっとなって、目を開けた。MTとホープが呼んでいた。


「すまぬ……。一部記憶が戻った。」


「本当ですか!」


 ホープが嬉しそうに言った。


「この記憶は、魔導兵器が作られる前の人と人の戦いの記憶だ。戦いの果てに我は、この分身魔法を使って戦況回復の回復を計った。そんな時、敵は追い打ちをかけるように、魔導兵器という自らの意思で戦う殺戮兵器を作り出した。」


「魔導兵器が戦争に導入される前後の記憶ですか……。記憶は何個に切り分けたんですか?」


「4つだ。残り3つだな……。」


 道のりはまだ長そうだと三人は思っていた。



「とりあえず、今日中には本部に戻れそうにないから、ここで夜明けまで待機しましょう。」


「分かりました。僕はもう休みますね。」


 ホープはそう言うとあくびをして寝てしまった。


「アンドロイドは寝るのか……。」


 グリムが興味深そうに呟いた。


「ホープ型という最新型のアンドロイドしか搭載されてないけど。」


「人の睡眠欲を真似る必要が……?」


「睡眠をして、ボディーを休める必要があるの。ホープ型は人間の脳に限りなく近い思考回路や筋繊維を持っているから……。」


「何故、そこまで人間に似せてる必要が?」


 グリムのここに来ての質問攻めに、少し戸惑った。


「敵の魔導兵器はコンピュータウイルスをばら撒いているの。それを回避するための人間に似せた思考回路。人間のように緻密な思考回路にする事によって、ウィルスは私達に感染できない。初期のアンドロイドは私達のように明確な心という物がなく、すぐに感染してしまったから。」


「なるほどな……、じゃあ、MT殿はどのようなモデルなのだ?」


「私は……、中途半端な型番よ。マルチタスク型は、本来の意味のマルチタスクではなく、総合的に仕事が出来るサポート要員。だから、私以外のマルチタスク型は全員死んだ。」


「でも、先の戦いの後方支援、見事だったが。」


「当時は……、違う。皆して私を守ろうとする。私なんかより強い仲間が目の前で私を守って死んでいく。『生きて』て言葉を残して……。」


 MTの目から涙が溢れ出ている。1500年間ずっと見送る側だったのだ。これが彼女の言う地獄であり、戦い続ける理由だ。


「グリムさんは何故戦い続けるの?」


「我は……、明確な理由があったはずだが…思い出せなくてな……。だから、記憶を取り戻したときに、後悔や悔いが無いようにしようとしてるだけだ。」


 MTは納得していない表情だ。


「そうだな…、MT殿の気持ちは良く分かる。我々はいつも見送る側で……、死人の言葉に縛られている。でも、彼らの意思を無下には出来ないから戦ってきた。これ以上の大義はないだろう。」


「大義……。話しが変わるけど、グリムさんは睡眠欲や食欲は無いの?」


「そう言えば、無いな……。いつの間にか必要なくなったな……。MT殿達アンドロイド達のエネルギー源は?」


「我々アンドロイドは空気中の溢れかえった魔力を吸収してる。魔導兵器を破壊する度に空気中の魔力濃度が上昇してしまうから、それを活用してる。」


 グリムは納得して頷いた。


「なるほど、それならば戦いを効率よく続けることが出来るな……。空気中から魔力を吸収する機能、生物には出来ない芸当だな。魔力といえば、MT殿は黒い魔力を使えるのだな……。長年魔法を使ってきたが、見たことない。」


 MTは答えにくそうにしている。


「MT型は全ての属性魔力に適性があって、それらの魔力を全て混ぜ合わせると、黒の魔力『ノアール』になる。これは、魔法界ではタブー。どうか内密に。」


「そうか、分かった。他言無用としよう。」


 MTはタブーを犯してまで戦い続ける。それ程の覚悟があるのだろう。

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