第40話

「そういえば、フレド、カイサル王子にナバロって呼ばれてた?」


「ん? あぁ。フレド・ナバロだからな」


「ほぉん」


 そんな感じの名前なんだ。そうカイサル王子に呼ばれた時のフレド、結構不遜だったけど大丈夫だろうか。まあレオルカさんも似たようなものか……。二人してあっさりぶっ殺しちゃうんだもんなぁ。他の騎士さんも唖然としてたし、規格外なんだろうな。


「レオルカ殿、それにナバロだったな」


「殿下」


「流石は大魔術師レオルカ殿に、一番隊期待の新人くんだ。あの魔物を瞬殺とは」


 労いに来たのかな? それにしてはやや不服そうだけれども。


「いや〜、まあ国内の魔術師の中じゃ一番だと自負してますんで〜」


 レオルカさんのメンタルどうなってるの? でも自信があるのって、凄い事だよね。それを堂々と口に出来ることも。だからこそ、一番なのかもしれない。


「まあ、おれはあのトリス隊長の部下ですから。弱いつもりはないっすね」


 こちらも自信家だぁ……。

 しかも自分の国の王子に対してでしょ、二人のメンタル鋼か何かなの?

 そんな二人にやや引いているのか、カイサル王子は「そ、そうか」と引き攣った返事を返していた。


「そんなわけだから、チフユはどーんと構えててよ。チフユは歪みの事だけ考えてりゃいいからさ」


「つーかその為に騎士がこうして来てるんだろうが、変に気負うなって。お前よりよっぽど動ける奴ばっかだぞ」


 そりゃそうだけど!

 フレドの言葉に、他の騎士さん達も「そりゃあそうだよな」「あんな弱そうな女の子に魔物相手はなぁ」なんて言っている。


「そんなわけだから、カイサル殿下。救世主チフユの為に、オレ達は魔物を片付けていきましょう!」


「……そうだな」


 くる、と背を向け歩き出したカイサル王子の背中をぼんやりと見てたら、レオルカさんにぽんと頭に手を置かれた。


「というわけだから、チフユはのんびり構えてて」


 頭をぽんぽんされて、私は何にも言えずただレオルカさんを見上げる。相変わらずの顔だ。だけど、すごく。


「ふふふ、レオルカさんは凄いなぁ」


 頼もしいと思った。


「そうだよ? オレは凄いんだよ」


 この人が味方で良かった、なんて、絶対に恥ずかしいから言えないけど。


「じゃあ、お願いね」


 そう言ったら、レオルカさんはきょとん、とした後、にかっと歯を見せて笑った。


「任しといて」


 本当に頼もしい人だ。


「……おい、チ、チフユ」


「! フレド?」


「おれは強い」


「……? お、おう」


 それは存じておりますが。

 首を傾げつつ返せば、フレドはふいっと視線を逸らす。もごもごと何かを言おうとしているがよくわからず私はただフレドを見る事しか出来ない。


「だから、お前の出る幕はねぇ」


「そうですね」


 何だこいつ。やっと言ったと思えば。


「だから、お前は適当に休んでひっこんでろ。魔物退治はおれ達の仕事だからな」


 ……まさかこいつ気遣ってるのか。

 それにしても言葉が悪すぎん? 


「以上だ。いいか、すっこんでろ」


「いや言い方よ」


 それ以上言うことはないとばかりにそっぽを向くフレドに、何故か色々小言を言いながら一緒にいた長峯を思い出した。


「(初めて女を名前で呼んでしまった)」


「フレドって不器用だよな〜」


 からからと笑いながらレオルカさんはフレドの頭をわしゃわしゃと撫でた。やめてください、と手を払ったその顔はほのかに赤らんでいる気がした。

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