第6話
見えない何かを引きちぎった私はすぐにおばあちゃんを庇うように前に出る。大人しくするように言われたから、そこまでで別に突っ込んだりはしない。今は。
「なっ……自力で破ったのか!? 僕の捕縛術を!」
驚いて目を丸くしている自称王子を気に留める様子もなく、おばあちゃんは続けた。
「いくらお転婆とはいえ、一応嫁入り前の大事な孫娘なんですよ」
「まさかそんな、ぼくの術が破られるなんて、しかも元の世界ではない能力だと先程……」
「ちょっと、自称王子様。おばあちゃんの話ちゃんと聞いてんの? そこのおじさんもだけどここの人は予想外のことが起こると人の話聞かないね? よくわかんないけど、私みたいなか弱い女の子に初見で破られるんだから大した術ではないのでは?」
黙ってろとおばあちゃんに言われていた私だったけど、呆然としておばあちゃんの話を聞かなくなった自称王子に腹が立ってついつい煽った言い方をしてしまった。
やべ、と思ったその時、おばあちゃんに諌められるより早く、カメムシ野郎が般若みたいな顔をして叫んだ。
「てめえ!!」
めちゃくちゃ怒ってる! 馬鹿にされたと思ったかな!? やばい、向かってくる!
「トリス! やめろ!」
と、取り敢えずおばあちゃんだけでも守らなきゃ!
私はおばあちゃんの真ん前に立って両腕を広げた。
「何をするつもりですか?」
その声は決して大きな声ではなかった。それでも、その冷たい威圧感のある声はこの部屋に響き、カメムシ野郎はぴたりと止まった。
「な……」
おそらくやっと出した声だ。驚愕に染まった顔と声音。
「何をするつもりかと。聞いているんですが。今しがた言いましたよね。嫁入り前の大事な孫娘の顔に傷をつけられて私は気が立っているんですと。そう言いましたよね。で、何をするつもりなのですか? その手に持った武器で。振りかぶった武器で。何をするつもりなのですか?」
「しかし、そいつはアルフィ様を愚弄して、」
「この世界の男性は女性が気に入らない事を口にしたら手にかけるのですか?」
「アルフィ様はこの国の王子です。不敬に当た」
「私達はそもそもお呼ばれしたのですが。別世界から。孫娘の口が悪いのも事実。ですが、私と孫娘は元の世界で平和に暮らしていておりました。してほしいことがあるから呼んだのですよね。それに私達は、あちらの世界に他にも大事な存在がいるのですよ」
おわぁ、おばあちゃん怒ってるなぁ! これ怖いんだよなぁ! 淡々と言っていくんだけど、いつもにこにこしてるおばあちゃんに表情がなくて怖いんだこれが!
「それと、アルフィ様といいましたか。魔法の事はよく分かりませんが。破られたのがそんなにショックでしたか? 余程自信があったのですね。ですが、それは驕りであり足枷となり得るのではないですか? 貴方より優れた方はいくらでもいると思いますよ。貴方はまだ若いでしょう。貴方より力が強い方、貴方より賢い方。常に上がいる意識をされた方が良いのではないでしょうか」
「おばあちゃんより優れた人はいないと私は思ってるよ!」
「千冬は静かにしてなさい。また話がこじれるでしょう」
「ごめんなさい」
怒られたのでお口チャック。ちらりと自称王子を見てみたら、雷にうたれたようなそんな顔をしていた。それから、この世界について、私達にやって欲しいことについて、色々とおばあちゃんと自称王子が話していた。
さて、色々と序盤から言われていた、どちらがという問題だが、そちらはよくわからんかった。
しかし、二人ともに魔力がある事はわかったとのこと。
先程おばあちゃんがカメムシやろう……もといトリス(話し合い中うっかり口にだしてしまった。本人にもおばあちゃんにも怒られた)を威圧した際物凄い魔力を感じたそうだ。押し潰されるかと思ったってさ。すご。
私は何か……うん。自称王子……もといアルフィ……様に魔力は感じるねと手を握られてつい頭突きをしてしまった。いや、手を握る事で調べるんだって言ってもね。この年になったら異性に手を握られることってなくない? 普通にびっくりしてついやってしまった。流石に悪いと思って謝った。
またトリスはすんごい顔してた。ごめんて。
***
取り敢えず決まった事。私とおばあちゃんは、今いる城から少し離れた屋敷で過ごす。必ず騎士の人が護衛、見張りをする。
騎士団の魔物討伐の任務に同行し、その際に魔物を生み出している歪みの浄化を試みる。という流れで行くこととなった。
本当に私とおばあちゃんにそんなこと出来るのかな。おばあちゃんは完璧であり慈悲深い菩薩のような人だから出来そうだけど、こんな唯のか弱い私に出来るのかしら。そう口にしてみたら、トリスもアルフィも真顔で「か弱い……?」と溢した。心外だな。
まあ、とにかくだ。改めて言っておこう。
「よく聞いてくださいよ。おばあちゃんになんかしたら、そのお綺麗な顔をぶん殴りますから」
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