いつも最高でありたかった私

将軍観察

いつも最高でありたかった私

  「今日も疲れた。」

そんな独り言を言って私は今日も帰宅する。暗い夜道だ。街灯はところどころにしかついていない。そんななか私のハイヒールの音だけが私の耳に届く。生きてることを実感する。あの夏の日を思い出す。大学での課題を思い出す。今日の業績を思い出す。私はいつも2番か3番だ。なぜこんなに中途半端な結果なのだろう。いつも。自分の中では努力しているつもりだった。している。人生で1番を取ったことも少しはある。私はその快感を忘れずにいた。また一番を取りたい。私はそんな渦の中で必死で藻掻いていたし、今も藻掻いている。正直私は1番をとれる才能はないのかと自分を疑ったこともある。高校の卒業式、大学の入学式、会社での出張中。そのたびに私は他の誰かに頼っていた気もする。ほら、本当の私はここ。探して、見つけて、私を一番にさせて。その結果一番になれなかった私といつも会う。うんざりだ。君とはもうよく合ってる。悪いのは自分と分かっているのに毎回人に頼ってしまう。本当はどうなのだろう。


 家に帰ってきた。家の中を進むとなにやら机の上に置いてある筆箱が光っていた。私が興味深く覗いているとそのなかから少し小柄などこか不思議な雰囲気をまとった男性が出てきた。

「よいしょっと、大変だ、もう出口きつすぎ…」

「え、なに」

私は小声でそうつぶやいた。

「えーさて君だね。自分を見失っている人は」

いきなり出てきていきなり自分を見失っているとは甚だ失礼だな。

「なんですか、いきなり出てきて見失ってるって。邪魔なんで出てってください」

そう私は不満げに少し怒りのこもった声で第一声をかけた。

「いや、違うんだよ。私は君を助けに来た。」

「助けに来たって、何か魔法か何かでも扱えるんですか?」

「あぁ、そうさまあ見てな。」

そう男は軽く言い放つと私の胸に触れた。私はこいつがセクハラ男だと思った。・・・何も起きない。

「何も起きませんけど、セクハラしに来たんですか?」

「いや!違う!断じて違う!まずは目を閉じてみるんだ!そしたら何かが変わる!」

男は必死そうだ。私はそんな男をなかば信じられずいたがその男の通りゆっくりと目を閉じてみた。すると目の前に扉が現れた。暗闇の中に一つのドアだ。そのドアは輝いている。少し開いた扉の間から光の粉が漏れ出ている。すごく幻想的だ。私は不覚にもきれいと声に出してしまっていた。そしてその暗闇にはあの男性はいなかった。だが扉の向こうからその男性の声が聞こえた。私は恐る恐るその扉に近づきそっと手間に引いた。

「いらっしゃい、私のマジックショップへ」

そう声をかけてきたのはさっきの男性だ。背の高さは普通の男性ほどになっており、どことなく漂っていた不思議さも強くなっていた。そしてほんの少しだけ若返っていた気もする。

「ここは、どこ?」

私は恐る恐るその男性に声をかけてみた。

「だーかーらー私のマジックショップだってば!日本語訳してあげようか?魔法商店」

「まほう?」

何がなんだがさっぱりわからなかった。この世に魔法なんてものは存在しない。なのにこの男性は何を言っているんだ?

「まあ、試しにそこの杖、とってみな。」

そう言われて私は壁にかけてあった杖を渡した。

「そら」

そう言って男性が杖を振った瞬間、周りには光の粉が舞った。するとまわりに置いてあった人形、おもちゃもろともそそくさと動き出した。なんだ!?と思ったがその瞬間私はその動き出した人形に手を握られていた。そして輪になって一緒に踊った。楽しかった。こんなに楽しいのは久しぶりに感じた。人形と踊るのは初めてのはずなのになぜか過去に一緒に踊ったことがあったかのように思われた。心が温かくなった。するとそこに先ほどの男性も混ざって一緒に踊り始めた。男性は踊りながら言った。

「外、庭?に桜とかたくさんのきれいな植物たちが咲き乱れているから見ておいで!きっと感動するよ!」

そう言われて私の体は勝手に外へ向いていた。外へ出てみた。そこには色とりどりの花、桜などが咲き誇っていた。さっきの暗闇はいったいどこへいったのか。そんなこともどうでもよくなるような光景だった。

「とても綺麗…」

そう感動していると私は桜の木陰にあるひとりの男の子を見つけた。どこか悲しげであり下を向いている。目のあたりに輝いているのは…涙か?私はその男の子に近づいて声をかけてみることにした。

「どうしたの?何か悲しいことがあったの?」

男の子は何も言わない。するとマジックショップの男性が近づいてきた。

「この子はね、私たちが声をかけても何も応答してくれないんだ。まるで遠くを見ているかのように、助けてあげたいんだけどどうすればいいか…」

私はもう一度話しかけた。

「悲しいことがあるならお姉ちゃんに話してみて!力になるよ」

数秒の沈黙の後男の子は口を開いた。それはとても小さく力強い声だった。気づくと男の子は元気よく手を振りこちらに笑顔をみせて丘の向こうへ走っていくところだった。

「君、すごいよ!あの男の子を救うなんて!私には…もう何がおきてたのか…」

男性は微笑交じりに私の肩に手を置いていた。それから信頼に満ちた温かく力強いもの感じた。何が起きていたのかは今でも分からないが、なぜか理解できる不思議な状態にあった。

 君は唯一あの子を救うことができたヒーローだ。


 目が覚めると朝だった。どうやらスーツのまま寝てしまっていたようだ。体中が痛い。だが疲れは感じなかった。いままでこんなに心地よく起きれたことはいままでにあっただろうか。幸いにも出勤時間までは時間があった。いつもどおり準備をし私は家を出た。その日から不思議なことに「一番」というものにあまり執着しなくなっている自分に気が付いた。それより他人の助けがしたい。他人の困っていることを救ってあげたいという気持ちを見つけた。それから私は気持ち的に身軽になり、呼吸もしやすくなった。どうやら私は「一番」という首輪がついていたようだ。その首輪のせいでいままで息苦しかった。自分を押しつぶしていた。この気持ちの転換になった原因はきっと昨晩の出来事だろう。私があの子を助けていたのではなく、私があの子に助けられていた。私はこの考えを大切に自分らしく自分なりの「一番」を見つけていく。

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