02 はじめての魔術
僕は生まれ育った屋敷から飛びだすと、翼を授かったような身軽さで山道を駆け下りていた。
頭の中でずっと、前世のことをぐるぐると思いだしながら。
前世の僕は、とても身体が弱かった。
幼い頃は窓のない部屋のベッドの中で、ずっと天井を眺めているような毎日だった。
ある日、僕は本で魔術というものを知る。
魔術を使えば、本を持つのもやっとの者でもベッドを持ち上げられると知り、僕は魔術に取り憑かれた。
僕の魔術の将来性はFランク。でもそんなことはおかまいなしで部屋にこもって、ずっと魔術の研究を続けていた。
思いついた研究成果を手紙で魔法研究院に送っているうちに、家がどんどん立派になっていって、僕にもアシスタントが付くようになった。
僕の前世の前世は、とあるブラック企業で働くシステムエンジニアだった。
その時の知識がとても役に立ち、僕は新しい魔術体系である【
さらに魔術からエネルギーが得られるようになって電気のかわりになり、さらに前世の前世でいうインターネットのようなテクノロジーまでもたらす。
僕のおかげで世の中はどんどん便利になっていったけど、前世の僕は外に出ることを一切せず、また外でなにが起きているかも興味が無かったので知らなかったんだ。
まさか僕が【万人の父】や【創造神】とまで呼ばれるほどに、崇められていたなんて……。
「きゃぁぁぁぁ……!」
ふと薄衣を咲くような悲鳴が耳をかすめ、僕は我に返る。
見やった先には、家が走ってるのかと思うほどの大きな馬車があった。しかもその馬車はダイヤモンドに包まれている。
朝日を受けて輝く巨大なダイヤモンドは、まるでおとぎ話から飛びだしてきたみたいに幻想的だった。
「あれは……【ダイヤモンド・シールド】……?」
馬車のまわりには護衛らしき人たちが倒れている。
さらにダイヤモンドのまわりには武装したゴブリンたちが取り囲んでいた。
「そうか、馬車の中にいるのは……」
ダイヤモンド・シールドは高位の白魔術なので、そんじょそこらの魔術師が使えるものではない。
巫女と呼ばれるほどの魔術師、ピュアリスに違いないだろう。
そしてゴブリンたちは父さんの依頼で雇われた魔物らしく、ダイヤモンド・シールドの弱点を知っているようだった。
早朝だというのに、たいまつに火を灯そうとしているのがなによりもの証拠だ。
となると、あの金剛の盾が破られるのは時間の問題だろう。
「それなのに、馬車は逃げようとしていない……? まさか、あの子は……!」
この襲撃は父さんが仕掛けたマッチポンプなので、ピュアリスが命を落とすことはない。
だからほっといても問題ないんだけど、ピュアリスの行動を見て僕の気も変わる。
背中の剣を引き抜くと、雄叫びとともにそのただ中に躍り込んでいった。
奇襲は大成功、剣が閃くたびに
ゴブリンの死体からホタルのような白い光が抜け出てきて、僕の身体に吸い込まれていった。
この光は、もしかして【PP】……? いや、そんなバカな。
「おっと!」
背後から斬りかかられたところを間一髪でかわす。そうだ、いまは考え事をしてる場合じゃない。
なおもゴブリンの群れと大立ち回りを繰り広げていると、馬車の窓から見ているのだろう、ピュアリスらしき声がした。
「け……剣士さんが、助けにきてくださいました! と……とってもお強いです! 名のある剣士さんなのでしょうか!?」
僕は体術の将来性が低くて、一族では最弱だった。
でも剣士の名門と呼ばれるアスベスト家でいままで修業していたので、そのへんにいる剣士よりはずっと強いと思う。
「あっ……剣士さん、気をつけてください! 森の中にもゴブリンさんたちが……!」
道の脇を見やると、生い茂る木々の向こうでクロスボウを構えたゴブリンたちが目に入った。
ゴブリンは緑色の肌をしているので、ちょっとした迷彩っぽくなっている。
「なるほど、それで奇襲が成功したのか……!」
「あ……ああっ! あの距離では、剣が届きません! 剣士さん、お逃げになって……!」
「ポプコーン・バレット!」
僕が指パッチンをした途端、ピュアリスが息を飲んだのがわかった。
森にいたゴブリンたち、その一匹の額にまるで鋼鉄のポプコーンが直撃したような風穴が開いたからだ。
僕は剣を地面に突き刺すと、二丁拳銃のように両手を構え、連続指パッチンを繰り出す。
残りのゴブリンたちも次々と額を撃ち抜かれ、もんどり打って倒れていく。
「えっ……えっえっえっ!? えええええっ!? ええええーーーーっ!?!?」
およそ1分足らずでゴブリンたちは全滅したんだけど、馬車はずっと驚愕の悲鳴で揺れていた。
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