第28話

「明日のことは覚えているか」

 白夜びゃくやにかけられていた魔法を解き、昼まで寝ていた。

 昼食中、白夜はそんなことを。

「明日?」

 何かあったかと首を傾げる。

「子供達に魔法を教える」

「あ」

「忘れていたな」

 白夜びゃくやは呆れた息を吐き。

「お前と話したい純粋な竜、白雅はくががここでやればどうだと提案した。そんなこと提案しない、馬鹿にするだけ、真面目に訓練もしない男が」

「嫌い?」

 答えず。

白斗はくとは賛成。子供達の腕を見る良い機会だと。純粋な竜の子供も呼んで、一緒にやろうと」

「できるのか?」

 疑いの目で。

「俺も同じ気持ちだ。一緒に、と言うが、別々になる。純粋な竜の中には気にしない子供もいるが」

「ふうん。で、それは決定? ここでやるのか」

「ああ。子供達は迎えに行く。お前は」

「ぎりぎりまで寝ているか、あれの相手」

 すみで寝ている麒麟きりんの子を指した。


「ふわぁ」

 あくびが出た。

「眠いの」

 子供が見上げてくる。

「ああ。色々あって」

 麒麟きりんの子は朝早く起き、ラビアに飛び乗り、起こす。

 本日も、ウンディーネ、黒猫が面倒を。部屋の中ではなく、西竜王せいりゅうおう夫婦の私室前にある庭で遊んでいる。「せまい部屋の中より」とフォディーナが。

「師匠も一時酷    ひどい顔色だったけど、今は元に戻って」

 あそこまで酷くない。

御殿ごてんに来るのは初めてだから緊張する」

 白夜びゃくやが剣を教え、ラビアが魔法を教えている子供達は固まり。純粋な竜の子供も集まり、固まっている。こちらを珍しそうに見て。それ以外にも大人が。

 自分の容姿がどう映るかはわかっている。白夜びゃくやのように接してくれる者は少ない。

「なんだ」

 その白夜びゃくやを見上げ。

見世物みせものか、と叫びたい。視線が鬱陶うっとうしい。全部ぶっとばしたい」

「やるな」

「わかったどさくさにまぎれて攻撃」

「前にも言ったが、やるな」

「なあ~に話しているんです」

 軽い口調の男が。もう一人、笑顔の男も近づいてくる。

かえるに変えてもいいか」

「気持ちはわかるがやめろ」

「話せるようにはする」

「かえる? かえるって、あの緑色の」

 魔法を教えている子供の一人が。

「緑もいるが、黄色や赤も。派手はでな色には毒がある」

「へえ~。その蛙に変えられるの」

「できる」

「嫌な予感がする」

「黙れ、許可をとればいいだろう」

 白夜びゃくやを睨み、話しかけてきた男に作り笑顔を向ける。

「魔法の勉強に協力して欲しいんだが」

「俺でよければ」

 男は笑顔で。もう一人の男は「お前! 」と声をあげ、肩を掴み。

「そのかわり」

 続きは聞かず、

「では実践だ。よく見ていろ」

 詠唱。

 ラビアより背が高かった男は子供達より小さく。

かえるだ」

 子供達は蛙の周りに。

「触ってもいいぞ。無害な蛙だ。話されると面倒だから、蛙の鳴き声にした」

「他にも変えられる?」

 子供はラビアの服を引き。

「私の知っているものなら。知らないものには変えられない。教えてやるから、やってみるか。実験台は」

 周りを見ると、目をらす、一歩下がる。近くにいた男も下がり。

「ちっ、これしかいないか。だが、いないよりはいいだろう。教えてやるからやってみろ。一人ずつ」

 実験台は一人だけ。順番に並んで、一人ずつ魔法をかけていた。中には、なんだ、これ、というものに変え。

「で、いつも通りの訓練でいいのか」

 一通りかけ終わり、元の姿に戻した男はぐったりしている。

「始めた後で言うのか」

 白夜びゃくやは実験台にされた男を気の毒そうな目で。

「許可は取った。私としては剣を新調したから試し斬りでも」

「なぜ、俺を見る」

「やめろ、と言うだろう。怪我したら治してやる。私としては純粋な竜で」

「はいはい、お姉さん」

 子供が手を上げ、

「前に言っていた魔法剣って」

 以前、魔法を教えた時に魔法を使えない者と組ませて、対戦。その時に魔法剣士の話しをした。

「魔法剣士、なんだが。魔法剣、でも間違っていないか」

「魔法も使える剣士?」

 白夜びゃくやが教えている子供も聞いてくる。

 純粋な竜の子供は離れて。

「そう、だな。魔法も使える剣士でも間違っていない。見せた方が早いか。剣はあるか」

「訓練用のものなら」

「壊しても」

 子供達は期待の目。白夜びゃくやは仕方ない、といった様子で、訓練用の剣を渡してくる。

「魔法を剣に込めると、魔法剣になる。炎、水、氷。風、もできるか? わかりやすいのは炎、水、氷」

 炎の魔法を唱え、剣に炎をまとわせる。火力が強すぎたのか、剣は炭に。

「加減が難しい」

 む~、とうなり。新調した剣を引き寄せるか。

「まあ、持っている剣に炎をまとわせるんだが、剣の耐久にもよる。弱いものだと、先ほどのように炭。炎をまとわせなくとも触れたら爆発、というのも」

 剣を持っている子供は持っている剣を見て。

「剣の素材によっては魔法を込められない。無効化するものもある。代表的なものでいえばオリハルコン」

「あれは俺達でも扱えない」

「こっちにもあるんだな」

 竜の地でどんな鉱石がれるのか。

 子供達は白夜びゃくやにどんな素材、と聞いている。

 オリハルコン。魔法を無効化。持っているだけでも魔法を弱体。無効化できるのは純粋なオリハルコンだけ。扱いが難しく、混ざりものが多い。ラビアは純粋、混ざりものなしのオリハルコンを持っているが、倉庫に入れっぱなし。どこに置いたかも。あるのは覚えている。あれを持つと、ラビアでも魔法は使えない。体が重く感じる。

「こういうこともできるが」

 右手を前に出し、握る。握った右手に冷気。氷柱つららのような氷が現れ、剣の形を作っていく。

「これで攻撃。触るなよ。触れば凍る」

 子供達は近くで見ようと。

「凍る?」

「触れたものを凍らす」

 白夜びゃくやを見ると、持っている訓練用の剣を地面に突き立て。

 自分、他の竜で試すな、と言いたいのだろう。ラビアとしては純粋の竜で、どのくらいの耐久か試したい。

 突き立てた剣に軽く触れると、触れた部分から凍っていく。

「おれ達にも」

「う~ん、今は難しい、かも」

「難しい?」

「これは魔法を維持し続けなければならない。今、この瞬間も。気を抜く、散らせば」

 氷の剣は砕け。

「こうなる。初歩の光球の魔法を使い続けながら動いてみればわかる。あれなら当たっても害はない」

 今までは動かずにいた。前回、組ませて対戦したが、その時も魔法を使う子供は動かず、剣、槍を持っている子供が動き回っていた。

 早速行動に移す子供達。

 光球に集中し、周りをよく見ず、ぶつかる、こける。周りを見て、集中が続かず、光球が消える。

「む、むずかしい」と言いつつ続けている。

「これが魔法、ですか」

 近くに来たのは若い女。白夜びゃくやと同じ、右手に剣を。

「初めまして」

 にこりと挨拶。

「あなた、剣は」

「習っていたが」

「お相手、お願いしても」

 女は笑顔のまま。

 いいのか、と白夜びゃくやを見た。

「わたしも西竜王せいりゅうおう様の護衛の一人。ですが、三将以外誰も本気で相手をしてくれなくて。三将は忙しく、いつでも胸を借りられません」

 女とあなどり、他の者は誰も本気を出してこない。もしくは、彼女が強く、三将以外、相手にならない。

華白かはく殿、貴女あなたが剣を振らずとも」

白雅はくが殿が護ってくれると」

 女の口調は馬鹿にした響きが。

「彼女は?」

 白夜びゃくやの近くに行き、小声で。

「純粋な竜」

「南竜王の三将の一人と同じ?」

「彼女より弱い、が話している男より強い。あれは口だけ。お前を口説くどこうと」

「試し斬り」

「何度も言うがやめろ。責任とって結婚しろ、と言われるぞ」

「その前に逃げるか、そう言えない目にわす」

「噂通り、仲が良いのですね」

 いつの間にか女はラビアと白夜びゃくやを見て。

「仲、良いか?」

「俺に聞くな」

「いいよ」

 子供達が返事。

「おれから見ても、そう見える」

白斗はくと

 白夜びゃくやはうんざりと。

 子供達は「三将の一人だぁ」と目を輝かせ。

「手合わせするか」

 白斗はくとと呼ばれた男は笑顔で。剣を習っている子供達は大きく頷き。

「頑丈、なのか?」

 白夜びゃくやたずねたが、白斗と呼ばれた男が大きく頷く。

「それなら、以前やったように組んでやればどうだ。風を操れるのだろう。組んで魔法で対抗。大怪我するような魔法は教えていない。怪我しても治癒魔法を使えば」

 白夜びゃくやは顔をしかめていたが、白斗はくとは「かまわない」と笑顔のまま。

「すいません、わたしの相手は」

「あ」

 忘れていた。

「私はかまわないが」

 白夜びゃくやを見上げた。

「彼女はこう言っています。お借りしてもかまいませんよね」

 女は強い口調で。

「かまわないが、剣は手加減できない。急所ばかり狙ってきます」

「怪我したら治す」

 白夜びゃくやとのやりとりを見ていた女は小さく笑い、

「自信があるのですね。わたしもかまいません。怪我の一つ二つ当たり前。ねえ」

 子供達を見て。

「あなたより強いですよ」

 白夜びゃくやの言葉に女は目を丸く。傍にいたラビアを口説こうとしている男は肩をすくめ、信じていない。

「了解です」

 女は笑顔で。白夜びゃくやは小さく息を吐き、訓練用の剣を渡してくる。

「彼女は華白かはく殿。手加減できないんだろ」

「お久しぶりです。当然、覚えてくれていますよね」

 白夜びゃくやを押しのけ、自信満々の男が。

「誰だ」

 白夜びゃくやは小さく息を吐き、男は「ご冗談を」と笑い。

「大丈夫ですか、その華奢きゃしゃな手足で」

「華奢で悪かったな」

 白夜びゃくやを押しのけた自信に満ちた男を睨んだ。

「わかっていると思うが、手加減はできない。危ないと思えば割って入れ」

 訓練用の剣を軽く振り、華白かはくという女が待つ場所へ。



 つまり、止めろ、ということか。最初は面白半分、興味半分で見ていた者達は時間が経つにつれ、表情を変え。白雅はくがは青ざめ、白絽はくろはぽかんと口を開け、見ている。

 華白かはくは弱くない。真面目に訓練している。白雅より。白絽は軽いが、やる時はやる。

 押しているのはラビア。華白かはくは防ぐので一杯いっぱい

「お姉さん、強いね。余裕あるようにも見える」

 子供達も手を止め、見ている。子供にもそう見えている。

「どちらのお姉さんだ」

「師匠の恋人」

「違う」

「仲良いのに」

 ここでも。

「魔法、使わないのかな。師匠との勝負の時も、だけど」

「使われれば俺が負ける」

「そんなこと言っていいの」

「事実だ。華白かはく殿が風を操れば使うだろう」

「相手に合わせている?」

「たぶん。きたえ直されたとも言っていた。最近ストレスも溜まっているようだから」

 試し斬りは遠慮したいが、手合わせくらいなら。と考えていたが、舌打ちして、全速でラビアの近くへ。

 持っている剣でラビアの剣を弾く。華白かはくの左目を狙っていた剣。かわしきれず、華白は息をみ。いくら訓練用の剣、竜とはいえ、目は。

 白亜はくあ華白かはくの後ろえりを引く。

「勝負あり」

 ラビアの剣はラビアの手を離れ、華白の前髪をかすめ、上空へ。

白夜びゃくやの言う通り、勝負あり、だ」

 白亜はくあも。

 ラビアははじいて飛んだ剣を見て。嫌な予感がしたので、その場から大きく離れる。

 予感通り、白夜びゃくやがいた場所に剣が落ちてきた。

 あのままいれば。

 ラビアを見れば、小さく舌打ち。

「狙っていたな」

「なんのことだ」

 涼しい顔で。

「魔法は使わなかったの」

 勝負はついたと、子供達がラビアの傍へ。

「相手が風を操ったら使おうと。使わなかったから」

 真面目?

「使えば楽勝。勝負にならない」

「おい」

「本当のこと」

 ラビアは足下を指す。

 見ると、

「なんだ、これは」

 地面から地面と同じ色の手が白夜びゃくやの両足首を掴んでいる。

「その状態で勝てるか」

 にやりと笑い。 

 子供は足下を見て「おお~」と声をあげ。

「さらに大きくして、つぶすことも」

「やるな」

「自分の好きな形にして、操ることもできる」

 足首を掴んでいた手は離れたが、伸びる。手だけでなく、腕らしきものまで。

 さらに大きく、人の形をとっていく。四メートルを越える巨人、とでもいうのか。

「これを代わりに戦わせることも。人の姿の竜なら、ぺちゃんこ」

 目、鼻、口、耳はない。ないのに白夜びゃくやを見下ろし、右手を振り上げ、下ろす。

「避けたが、こんなふうに」

 直撃すれば頑丈な体でも、ただでは済まない威力。

「俺で試すな!」

「見本、お手本。小さくできて、こんなことも」

 腕、足、頭が体から離れ、落ちる。落ちて形を変える。

 再び人の形。白夜びゃくやの腰あたりの背丈。やはり、目鼻口はない。腕を振り。

「何度も言うが、俺で試すな!」

「一つ、触れば爆発するように」

「やめろ!」

「子供達と協力して倒せばいいだろ。見学だけは」

 何体かは子供達を、目はないのに見る。

「触れば爆発する危険なものを子供達に相手させられるか」

「攻撃力は低くする。わかりやすいよう、色でもつけるか」

 そう言うと一体は土色から赤色に。

 全部で六体。そのうち二体は白夜びゃくやに向かい、四体は子供達を見ている。

「それでも、どうやって倒す」

「剣と魔法で」

「爆発するのに、か」

「む~、それなら爆発する一体だけは水の魔法で土に戻るようにする。それならいいだろ」

「よくないが」

「怪我しても治癒魔法の練習になる」

「笑顔で言うな!」

 見ていた子供達は頷き合い。剣、槍を構え、魔法を唱え。子供達を見ていた四体も動き出す。

「これを倒さなくても、魔法で動かしている者を倒せば」

「ちっ、気づいたか」

「気づくわ!」

 白夜びゃくやを攻撃してくる二体は子供達が相手にしているものより動きが早く、力もある。相手の力に合わせているのか。

 周りは唖然あぜん? 

「はい、はーい。俺も加わっても。それでもって、勝ったら、デートして」

 白絽はくろ

 呆れた目で見た。

「あれは?」

「純粋な竜」

 ラビアは腕を組み。

「……かまわない」

「本当に」

 白絽はくろは驚きながらも喜び。

「試し斬りはやめろ」

「え~、竜の三枚おろし」

「料理やったことないのに、三枚おろしがわかっているのか」

「首と胴、足を離す」

「違う!」

「それなら開き。真っ二つに」

「それも違う! 何度も言うが、やめろ!」

「本人はやる気満々で向かって来ているが。もう一体増やすか」

 ラビアに向かって来ている白絽はくろ。いきなりつまずき。

 白絽の足下には白夜びゃくや達が相手にしているものと同じ土色、人の形をしたものが。

 足下をよく見ていなかったため、いきなり現れたあれにつまずいたのだろう。

 白絽はくろだけでなく、周囲では顔を見合わせ。ラビアも気づいたのだろう。

「早く片付けるか」

 白夜びゃくやの相手が一体に。一体は別方向。

 白絽はくろは訓練用の槍を構え、余裕の表情、だったのは数分。

 素早く動かれ攻撃はかわされる。白絽の足や腹に一撃を入れて。そのたびに「うっ」「ぐうぅ」といったうめき声が。子供達はそんな声、出さないのに。

「まさか本気で」

「手加減している。子供より強力にしているが」

「本当に」

 白夜びゃくやは疑いの目で。

 参戦してきた純粋な竜は自分より体の小さなものに投げられ。

「本気なら、胴は足と離れている。そら」

 一体が地面を殴る。地面には蜘蛛くもじょうのひびが。それを見て退いた者も。

「竜だろ。骨の一本、二本」

「さっきも言ったが、責任取れとせまられたら」

「純粋な竜のくせにお前や子供より根性ないな~。お前、そんなこと言わなかっただろう。子供だって、何も言わず真剣な顔で」

 剣の勝負で魔法は使うな、という条件はつけたが、責任を取れ、とは。……一度。だがこの性格を知れば。

「仕方ない。さらに手加減するか」

「はい、お姉さん」

 子供の一人が手を上げる。

「俺達が相手しているのと、あっちは違うんですか」

 指したのは純粋な、大人の竜が相手をしているもの。

「力が違う。さすがにあれを相手にさせるのは」

「力を変えられるの?」

「魔力の込め方次第かたしだい。魔力を多く込めれば強力になる」

「全部指示して動かしているんですか」

「同じ動きじゃないのに」

「魔法使いの腕次第。重いものを運ぶ、農作業なんかの手伝いもできる。姿も。あのようなのじゃなくて、魔法使い、作りぬしの好きな姿に。たとえば、ぬいぐるみなんかでも操れて」

 ラビアは顎に手をあて。

「もふもふ、可愛いぬいぐるみにボコボコにされる竜。ぶっ」

「変な想像するな」

「よし、今度持ってきて」

「やるな!」

 何度目かわからない。

「可愛ければ攻撃しづらいだろう。私のように」

「胸張って言うな! お前のどこが可愛い。外見だけだろ!」

「外見は認めるんですねぇ」

 そう言った白絽はくろは腹に頭突きされて。白絽が脱落すれば、別のものに向かい。

 子供達はともかく、他のものは自業自得、か。

 操っている者をなんとかすれば。魔法学校では、魔法を使っている者を倒す、集中を乱す、気を散らせば、使っている魔法を止められると。

 集中しているように見えない。自然に。

 純粋なおとなは次々に倒され、白斗はくと白亜はくあは「おー」と見ているだけ。

 子供達は協力して一体、一体と倒している。白夜びゃくやが動かなければ、白夜に向かってこず。

「子供達がすべて倒せば終わり、か」

「そうだな。純粋な竜はほとんど倒したようなのもだし。まあ、体力使わなければ一日だろうが二日だろうが。寝ながらでも」

「……」

 白雅はくがが動く。ラビアの背後、死角から。白夜びゃくやの視線に気づいた白雅は首を左右に振る。黙っていろ、ということだろう。黙って気を引いていろと。

 無駄だと思うが。連携れんけいしてラビアを動かし、体力を奪っていれば、上手くいったかもしれない。

 白雅はくがはラビアに近づく。さらに背後には、土色の人の形をしたものが。

 案の定、というのか、背後から引かれ、さらに簡単に投げられる白雅。

「お前も勝ったらデートしてほしいのか」

「いや」

「だろうな。似たようなことは何度もしているし」

 似たようなどころか、家で寝食。

 というか、なぜ、こんなことに。

「誰も向かってこないのなら、最初の六体に戻すか」

 一体増やしていた。白夜びゃくや対峙たいじしていたものも、動かずにいれば子供達に向かい。

 子供達は慎重に倒し。力が違うとはいえ、子供達が上手く対処しているような。


 すべて倒し終えると、子供達は「やった、やった」と互いに喜び合い。疲れたのか、地面に座り込む子供も。

「さすが白夜びゃくやの嫁」

「違います」

 傍に来ていた白斗はくとはそんなことを。

白夜びゃくやのお嫁さんなの」

 白斗はくとの息子まで。白斗の息子は白夜が教えている子供より年上だが、人でいえば十三、四の外見。

「違います」

「お前、そんなこと言って逃していいのか。他の奴らに取っていかれて」

「三分割されますよ」

「師匠は分割ぶんかつされない自信があるの? あれ見てそう言える?」

 ラビアの周りには白雅はくが白絽はくろ、その他の純粋な竜が。

「嬉しそうに見えるか」

「ううん。爆発何秒前、に見える」

「わかっているなら、止めるなり、理由をつけて」

「大人達に邪魔されて近づけない。だから何秒で爆発するかって、皆で」

 ……。

「壊される前に止めてきたら」

 止める前に、ラビアが純粋な竜の囲みから出て、子供達の傍に。純粋な竜はラビアが抜けたのにまだ固まり、話している。何か魔法をかけたのか。

「それで、この子達の相手をしてくれるので。俺以外の三将に稽古けいこをつけてもらえると、楽しみにしていましたよ」

 純粋な竜の子はよく稽古をつけているが、竜と人の子は。

「ああ」

 白斗はくと白亜はくあも頷き、華白かはく、別の竜も加わり、子供達と剣、槍をわしていた。

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