第28話
「明日のことは覚えているか」
昼食中、白夜はそんなことを。
「明日?」
何かあったかと首を傾げる。
「子供達に魔法を教える」
「あ」
「忘れていたな」
「お前と話したい純粋な竜、
「嫌い?」
答えず。
「
「できるのか?」
疑いの目で。
「俺も同じ気持ちだ。一緒に、と言うが、別々になる。純粋な竜の中には気にしない子供もいるが」
「ふうん。で、それは決定? ここでやるのか」
「ああ。子供達は迎えに行く。お前は」
「ぎりぎりまで寝ているか、あれの相手」
「ふわぁ」
あくびが出た。
「眠いの」
子供が見上げてくる。
「ああ。色々あって」
本日も、ウンディーネ、黒猫が面倒を。部屋の中ではなく、
「師匠も
あそこまで酷くない。
「
自分の容姿がどう映るかはわかっている。
「なんだ」
その
「
「やるな」
「わかったどさくさに
「前にも言ったが、やるな」
「なあ~に話しているんです」
軽い口調の男が。もう一人、笑顔の男も近づいてくる。
「
「気持ちはわかるがやめろ」
「話せるようにはする」
「かえる? かえるって、あの緑色の」
魔法を教えている子供の一人が。
「緑もいるが、黄色や赤も。
「へえ~。その蛙に変えられるの」
「できる」
「嫌な予感がする」
「黙れ、許可をとればいいだろう」
「魔法の勉強に協力して欲しいんだが」
「俺でよければ」
男は笑顔で。もう一人の男は「お前! 」と声をあげ、肩を掴み。
「そのかわり」
続きは聞かず、
「では実践だ。よく見ていろ」
詠唱。
ラビアより背が高かった男は子供達より小さく。
「
子供達は蛙の周りに。
「触ってもいいぞ。無害な蛙だ。話されると面倒だから、蛙の鳴き声にした」
「他にも変えられる?」
子供はラビアの服を引き。
「私の知っているものなら。知らないものには変えられない。教えてやるから、やってみるか。実験台は」
周りを見ると、目を
「ちっ、これしかいないか。だが、いないよりはいいだろう。教えてやるからやってみろ。一人ずつ」
実験台は一人だけ。順番に並んで、一人ずつ魔法をかけていた。中には、なんだ、これ、というものに変え。
「で、いつも通りの訓練でいいのか」
一通りかけ終わり、元の姿に戻した男はぐったりしている。
「始めた後で言うのか」
「許可は取った。私としては剣を新調したから試し斬りでも」
「なぜ、俺を見る」
「やめろ、と言うだろう。怪我したら治してやる。私としては純粋な竜で」
「はいはい、お姉さん」
子供が手を上げ、
「前に言っていた魔法剣って」
以前、魔法を教えた時に魔法を使えない者と組ませて、対戦。その時に魔法剣士の話しをした。
「魔法剣士、なんだが。魔法剣、でも間違っていないか」
「魔法も使える剣士?」
純粋な竜の子供は離れて。
「そう、だな。魔法も使える剣士でも間違っていない。見せた方が早いか。剣はあるか」
「訓練用のものなら」
「壊しても」
子供達は期待の目。
「魔法を剣に込めると、魔法剣になる。炎、水、氷。風、もできるか? わかりやすいのは炎、水、氷」
炎の魔法を唱え、剣に炎をまとわせる。火力が強すぎたのか、剣は炭に。
「加減が難しい」
む~、と
「まあ、持っている剣に炎をまとわせるんだが、剣の耐久にもよる。弱いものだと、先ほどのように炭。炎をまとわせなくとも触れたら爆発、というのも」
剣を持っている子供は持っている剣を見て。
「剣の素材によっては魔法を込められない。無効化するものもある。代表的なものでいえばオリハルコン」
「あれは俺達でも扱えない」
「こっちにもあるんだな」
竜の地でどんな鉱石が
子供達は
オリハルコン。魔法を無効化。持っているだけでも魔法を弱体。無効化できるのは純粋なオリハルコンだけ。扱いが難しく、混ざりものが多い。ラビアは純粋、混ざりものなしのオリハルコンを持っているが、倉庫に入れっぱなし。どこに置いたかも。あるのは覚えている。あれを持つと、ラビアでも魔法は使えない。体が重く感じる。
「こういうこともできるが」
右手を前に出し、握る。握った右手に冷気。
「これで攻撃。触るなよ。触れば凍る」
子供達は近くで見ようと。
「凍る?」
「触れたものを凍らす」
自分、他の竜で試すな、と言いたいのだろう。ラビアとしては純粋の竜で、どのくらいの耐久か試したい。
突き立てた剣に軽く触れると、触れた部分から凍っていく。
「おれ達にも」
「う~ん、今は難しい、かも」
「難しい?」
「これは魔法を維持し続けなければならない。今、この瞬間も。気を抜く、散らせば」
氷の剣は砕け。
「こうなる。初歩の光球の魔法を使い続けながら動いてみればわかる。あれなら当たっても害はない」
今までは動かずにいた。前回、組ませて対戦したが、その時も魔法を使う子供は動かず、剣、槍を持っている子供が動き回っていた。
早速行動に移す子供達。
光球に集中し、周りをよく見ず、ぶつかる、こける。周りを見て、集中が続かず、光球が消える。
「む、むずかしい」と言いつつ続けている。
「これが魔法、ですか」
近くに来たのは若い女。
「初めまして」
にこりと挨拶。
「あなた、剣は」
「習っていたが」
「お相手、お願いしても」
女は笑顔のまま。
いいのか、と
「わたしも
女と
「
「
女の口調は馬鹿にした響きが。
「彼女は?」
「純粋な竜」
「南竜王の三将の一人と同じ?」
「彼女より弱い、が話している男より強い。あれは口だけ。お前を
「試し斬り」
「何度も言うがやめろ。責任とって結婚しろ、と言われるぞ」
「その前に逃げるか、そう言えない目に
「噂通り、仲が良いのですね」
いつの間にか女はラビアと
「仲、良いか?」
「俺に聞くな」
「いいよ」
子供達が返事。
「おれから見ても、そう見える」
「
子供達は「三将の一人だぁ」と目を輝かせ。
「手合わせするか」
「頑丈、なのか?」
「それなら、以前やったように組んでやればどうだ。風を操れるのだろう。組んで魔法で対抗。大怪我するような魔法は教えていない。怪我しても治癒魔法を使えば」
「すいません、わたしの相手は」
「あ」
忘れていた。
「私はかまわないが」
「彼女はこう言っています。お借りしてもかまいませんよね」
女は強い口調で。
「かまわないが、剣は手加減できない。急所ばかり狙ってきます」
「怪我したら治す」
「自信があるのですね。わたしもかまいません。怪我の一つ二つ当たり前。ねえ」
子供達を見て。
「あなたより強いですよ」
「了解です」
女は笑顔で。
「彼女は
「お久しぶりです。当然、覚えてくれていますよね」
「誰だ」
「大丈夫ですか、その
「華奢で悪かったな」
「わかっていると思うが、手加減はできない。危ないと思えば割って入れ」
訓練用の剣を軽く振り、
つまり、止めろ、ということか。最初は面白半分、興味半分で見ていた者達は時間が経つにつれ、表情を変え。
押しているのはラビア。
「お姉さん、強いね。余裕あるようにも見える」
子供達も手を止め、見ている。子供にもそう見えている。
「どちらのお姉さんだ」
「師匠の恋人」
「違う」
「仲良いのに」
ここでも。
「魔法、使わないのかな。師匠との勝負の時も、だけど」
「使われれば俺が負ける」
「そんなこと言っていいの」
「事実だ。
「相手に合わせている?」
「たぶん。
試し斬りは遠慮したいが、手合わせくらいなら。と考えていたが、舌打ちして、全速でラビアの近くへ。
持っている剣でラビアの剣を弾く。
「勝負あり」
ラビアの剣はラビアの手を離れ、華白の前髪をかすめ、上空へ。
「
ラビアは
予感通り、
あのままいれば。
ラビアを見れば、小さく舌打ち。
「狙っていたな」
「なんのことだ」
涼しい顔で。
「魔法は使わなかったの」
勝負はついたと、子供達がラビアの傍へ。
「相手が風を操ったら使おうと。使わなかったから」
真面目?
「使えば楽勝。勝負にならない」
「おい」
「本当のこと」
ラビアは足下を指す。
見ると、
「なんだ、これは」
地面から地面と同じ色の手が
「その状態で勝てるか」
にやりと笑い。
子供は足下を見て「おお~」と声をあげ。
「さらに大きくして、
「やるな」
「自分の好きな形にして、操ることもできる」
足首を掴んでいた手は離れたが、伸びる。手だけでなく、腕らしきものまで。
さらに大きく、人の形をとっていく。四メートルを越える巨人、とでもいうのか。
「これを代わりに戦わせることも。人の姿の竜なら、ぺちゃんこ」
目、鼻、口、耳はない。ないのに
「避けたが、こんなふうに」
直撃すれば頑丈な体でも、ただでは済まない威力。
「俺で試すな!」
「見本、お手本。小さくできて、こんなことも」
腕、足、頭が体から離れ、落ちる。落ちて形を変える。
再び人の形。
「何度も言うが、俺で試すな!」
「一つ、触れば爆発するように」
「やめろ!」
「子供達と協力して倒せばいいだろ。見学だけは」
何体かは子供達を、目はないのに見る。
「触れば爆発する危険なものを子供達に相手させられるか」
「攻撃力は低くする。わかりやすいよう、色でもつけるか」
そう言うと一体は土色から赤色に。
全部で六体。そのうち二体は
「それでも、どうやって倒す」
「剣と魔法で」
「爆発するのに、か」
「む~、それなら爆発する一体だけは水の魔法で土に戻るようにする。それならいいだろ」
「よくないが」
「怪我しても治癒魔法の練習になる」
「笑顔で言うな!」
見ていた子供達は頷き合い。剣、槍を構え、魔法を唱え。子供達を見ていた四体も動き出す。
「これを倒さなくても、魔法で動かしている者を倒せば」
「ちっ、気づいたか」
「気づくわ!」
周りは
「はい、はーい。俺も加わっても。それでもって、勝ったら、デートして」
呆れた目で見た。
「あれは?」
「純粋な竜」
ラビアは腕を組み。
「……かまわない」
「本当に」
「試し斬りはやめろ」
「え~、竜の三枚おろし」
「料理やったことないのに、三枚おろしがわかっているのか」
「首と胴、足を離す」
「違う!」
「それなら開き。真っ二つに」
「それも違う! 何度も言うが、やめろ!」
「本人はやる気満々で向かって来ているが。もう一体増やすか」
ラビアに向かって来ている
白絽の足下には
足下をよく見ていなかったため、いきなり現れたあれに
「早く片付けるか」
素早く動かれ攻撃はかわされる。白絽の足や腹に一撃を入れて。その
「まさか本気で」
「手加減している。子供より強力にしているが」
「本当に」
参戦してきた純粋な竜は自分より体の小さなものに投げられ。
「本気なら、胴は足と離れている。そら」
一体が地面を殴る。地面には
「竜だろ。骨の一本、二本」
「さっきも言ったが、責任取れと
「純粋な竜のくせにお前や子供より根性ないな~。お前、そんなこと言わなかっただろう。子供だって、何も言わず真剣な顔で」
剣の勝負で魔法は使うな、という条件はつけたが、責任を取れ、とは。……一度。だがこの性格を知れば。
「仕方ない。さらに手加減するか」
「はい、お姉さん」
子供の一人が手を上げる。
「俺達が相手しているのと、あっちは違うんですか」
指したのは純粋な、大人の竜が相手をしているもの。
「力が違う。さすがにあれを相手にさせるのは」
「力を変えられるの?」
「魔力の込め
「全部指示して動かしているんですか」
「同じ動きじゃないのに」
「魔法使いの腕次第。重いものを運ぶ、農作業なんかの手伝いもできる。姿も。あのようなのじゃなくて、魔法使い、作り
ラビアは顎に手をあて。
「もふもふ、可愛いぬいぐるみにボコボコにされる竜。ぶっ」
「変な想像するな」
「よし、今度持ってきて」
「やるな!」
何度目かわからない。
「可愛ければ攻撃しづらいだろう。私のように」
「胸張って言うな! お前のどこが可愛い。外見だけだろ!」
「外見は認めるんですねぇ」
そう言った
子供達はともかく、他の
操っている者をなんとかすれば。魔法学校では、魔法を使っている者を倒す、集中を乱す、気を散らせば、使っている魔法を止められると。
集中しているように見えない。自然に。
純粋な
子供達は協力して一体、一体と倒している。
「子供達がすべて倒せば終わり、か」
「そうだな。純粋な竜はほとんど倒したようなのもだし。まあ、体力使わなければ一日だろうが二日だろうが。寝ながらでも」
「……」
無駄だと思うが。
案の定、というのか、背後から引かれ、さらに簡単に投げられる白雅。
「お前も勝ったらデートしてほしいのか」
「いや」
「だろうな。似たようなことは何度もしているし」
似たようなどころか、家で寝食。
というか、なぜ、こんなことに。
「誰も向かってこないのなら、最初の六体に戻すか」
一体増やしていた。
子供達は慎重に倒し。力が違うとはいえ、子供達が上手く対処しているような。
すべて倒し終えると、子供達は「やった、やった」と互いに喜び合い。疲れたのか、地面に座り込む子供も。
「さすが
「違います」
傍に来ていた
「
「違います」
「お前、そんなこと言って逃していいのか。他の奴らに取っていかれて」
「三分割されますよ」
「師匠は
ラビアの周りには
「嬉しそうに見えるか」
「ううん。爆発何秒前、に見える」
「わかっているなら、止めるなり、理由をつけて」
「大人達に邪魔されて近づけない。だから何秒で爆発するかって、皆で」
……。
「壊される前に止めてきたら」
止める前に、ラビアが純粋な竜の囲みから出て、子供達の傍に。純粋な竜はラビアが抜けたのにまだ固まり、話している。何か魔法をかけたのか。
「それで、この子達の相手をしてくれるので。俺以外の三将に
純粋な竜の子はよく稽古をつけているが、竜と人の子は。
「ああ」
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