第26話

「いた、のか」

 ラビアが戻ってきたのは夜。突然、部屋に現れ。

麒麟きりんなら、そこで寝ている」

 フォディーナ様が寝床を用意。ラビアが戻ってくればここで休めばいいと。すみに布団が。

 ラビアはした先を見て。

「どうでした」

 青い鳥がラビアの傍に。

「見つけられなかった。そこらの精霊捕まえて聞いたが、来ていたのは数百年前。最近は見ていないと。それでも周辺を見ていた」

 ラビアは腰を下ろし。

「明日はミソルト渓谷けいこく、ですか」

「ん~、起きられたら。あちこち歩いて疲れた」

 息を吐き。

「風呂も使っていいそうだ。食事は」

いたれりくせりだな。そのまま寝るか、お前の家に移動かと」

「俺の、家は、ちょっと」

 歯切れ悪く。

「都合悪いのか」

「おかしな想像はするな。見られて困るものはない。女性がいることも」

「はっきり言うか」

「お前がそういう目で見るからだ」

 寝間着ねまきである浴衣ゆかたを投げ。

「それに狙われているのはお前だ。五日前に来た時、大勢がお前を見ている。気を引こうと」

「なんて迷惑な」

白慈はくじの婚約者もいた」

「うわぁ」

「外に出る時は姿を変えろ。囲まれる」

「お前の姿に」

「囲まれて、あれこれ聞かれる」

「殴るか」

「やめろ」

 自分のせいになる。

「猫にでもなるか。ネズミより素早く動ける」

 ラビアがちらりと見たのはすみにいる黒猫。

「とりあえず、風呂行ってくる」

 浴衣ゆかたを持ち、腰を上げる。

「ちゃんと着ろ。だらしのないまま歩くな。使用人も歩いている」

「ネズミにでもなるか」

 そう言うと部屋を出ようとして、

「風呂、どこだ」

 白夜びゃくやも立ち、風呂まで案内。

 その後は用意されている食事を取りに。

 あの部屋は客室。廊下を歩いているのも、この時間は使用人と見回りの護衛。だが、あの純粋な竜なら入り込んでも。かといって張り付くのも。

 考えても仕方ない。ラビアなら自分でなんとかするだろう。頭を振り、考えを切り替える。

 ラビアの食事を部屋に運んだ後はふすま一枚隔    へだてた隣の部屋に。家に帰ってもよかったが、白慈はくじに止められ。

 今のところ大きな音はしていない。寝る準備をしていた。


 真夜中。

「ふぐう」

 隣からの声に何事かと起き、

「どうした」

 ふすまを開けると、暗い部屋の中、ラビアは体を丸め。

「いつものことです。麒麟きりんの子が寝ている上にどすんと」

 青い鳥の冷静な声。

 麒麟の子は後ろ足でラビアの背を蹴り。

「お腹がいたので、起こそうと。なかなか起きないので」

 ラビアはうめきながら布団からい出て。麒麟きりんの子はラビアの髪を口に。

「フォディーナ様や白響はくきょう様にはかみつきも、蹴りもしなかったのに」

「猫かぶっているか、知らない者ばかりで遠慮していたか。仲間だと」

 ラビアは低い声で。なんとか部屋の隅にある袋の元まで行き。

「これが何度かありますが、気にしないでください」

 何度か。これが何度か。朝まで。

 家に帰っていれば。

 遅く、その後、朝まで何度か呻き声と叫び声を聞くことに。



 麒麟きりんの子を保護してからは満足に眠れていない。生態がわからず、食事を与えても体に変化がないか、じっと見ていた。怪我をさせないよう、走り出したらぶつからないよう体を張り、落ちてくるものから護ろうと。お腹がく、遊んで欲しければ食事中だろうが寝ていようが全体重をかけ。

 早く仲間の元へ戻し、元の生活に戻りたい。

 起きると白夜びゃくやはおらず、脚の短い小さなテーブルの上には布のかぶせられた食事。

 からの食器は廊下に出しておけば使用人が片付けてくれる、と書き置きも。

 麒麟きりんの子は遊べと。食事を素早く済ませ、猫じゃらしを取り出し、遊んでいた。

「ミソルト渓谷けいこくには」

「明日行く。今から行っても、帰ってくるのは真夜中か翌朝。任せていいのなら」

 今日はフォディーナ、西竜王せいりゅうおうもいない。白夜びゃくやがいれば押し付けたが。仕事なのか、いない。

 ふすまを開け、太陽の位置を見て、大体の時間を予想。昼頃、だろう。

「できれば一日中遊ばせて、出ている間は眠っていてくれれば」

 ウンディーネも麒麟きりんの遊び相手は遠慮したいようだ。

 明日、白夜びゃくやに。

「押し付けるか」

 出ている間は面倒見なくて済む。

 さぼりたいが、さぼっていても解決しない。

 猫じゃらしで遊んでいると、

「やあ」

 笑顔の白慈はくじが。

「婚約者に誤解」

「う~ん、微妙。その話じゃなくて、北竜王ほくりゅうおうの次男、黒輝こくきが来ている。君に会いに。西の魔女の孫連れて」

「は?」

「リディス様を。本当ですか」

 すみで丸くなり、じめじめしていた黒猫は飛び起き、白慈はくじの足下に。

「君、手紙に僕の所に来るよう、書いただろう」

「書いたが、なぜ北竜王ほくりゅうおうの次男が」

 ここでの知り合いは白夜びゃくや白慈はくじ。白夜より白慈が知られている。家もわかりやすい。それでも、なぜ北竜王の次男。次期東竜王  とうりゅうおうならわかるが。

「ウンディーネ、頼む」

 猫じゃらしを渡し。

「早く戻ってきてくださいよ」

「着ぐるみも持ってきている。どうしても動きたがるなら、それを着せろ。白夜びゃくやがいれば押し付けたのに」

「仕事があるよ。白夜も押し付けられたくなくて、動いているんじゃない。今夜は家に帰るかも」

「帰らせるな。明日押し付けられない」

「本人に言って」

「リディス様の所へ行きますよ」

 黒猫はラビアの右足をぺしぺしと叩き、麒麟きりんの子も真似まねして、前足で踏んでいる。魔法をかけられたら、犬か猫にして連れて行けたが。

 ネズミ姿で白慈はくじの肩に乗り、移動。

「どうして、その姿に」

白夜びゃくやが言っていた。あの姿のまま一緒に歩いていたら」

「ああ。君に声をかけようとちょろちょろしているのが何人かいる。一人は面倒な奴だよ。色々な女性に声かけて。容姿もいい。家も。僕の婚約者にも声をかけたけど、相手にされず。それが気に入らなかったのか、プライド傷つけられたと思ったのか、しつこくつきまとって。彼女が父親に話し、父親から父親へ」

「落ち着いた?」

「うん。彼は他人のものが良く見えるみたい。他人から横取りして満足。次へ」

白夜びゃくやの姿でうろついて、殴ると話したら、止められた」

「全部、白夜のせいになるよ。ま、白夜は彼より信用されている。無闇むやみに暴力振るわないから」

白慈はくじ様」

 背後から女の声。白慈は足を止めて振り返る。

 青みがかった銀の長い髪は結ばれ、蝶の形をした髪飾りをつけている。ラビアにしたら動きにくそうなすそそでの長い服。大きな金の瞳で見上げている。背後には年上の女を連れて。さらに男も。

「来ていたのか」

 女は小さく顔をしかめ、

「婚約者に来ていたのか、とは」

 この子が、と隠れながら見ていた。

「ごめん、ごめん。それで用件は。客が来ていてね」

 軽い白慈はくじ

「お客様? この間の女のかたですか。白夜びゃくや殿と仲が良い」

「それなら話し相手は僕が」

 男が前に出てくる。

「違うよ。北竜王ほくりゅうおう様の所の者」

「北竜王様の」

 女は繰り返し。

「彼女は彼女で忙しいらしい。話しを聞いて、すぐに出た。ああ、白夜びゃくやの家に侵入して待っていても無駄だよ」

 ……。

 全員は無理だが、記憶、消すか。

「そういうわけだから」

 白慈はくじは前を向き。

「いいのか」

 離れた所で。

「いいよ。それより、足下がそわそわしている」

 足下には黒猫。

「突然消えるから」

 黒猫にすればリディスがどう行動するか試そうと、見ようとしたのだろう。それが行方不明。

白夜びゃくやの家に侵入しているのか」

「君に会おうと。侵入はわからないけど、待ち伏せしていたみたい」

 外、出る時、当分はこの姿でいよう。

「お待たせ」

 ふすまを開けると、北竜王ほくりゅうおうの次男とリディスが。

 北竜王の次男は座っていた椅子から腰を上げ、リディスは座ったまま。

「リディス様」

 黒猫は駆け寄り、ラビアは白慈はくじの肩から下り、元の姿に。

「お、お久しぶりです」

 北竜王の次男は緊張した面持ちで頭を下げ。

「リディス?」

 リディスはまくしたてている黒猫を、首を傾げて見ている。

「記憶喪失です」

「「は?」」

 白慈はくじと声をそろえる。

「えっと、どこからお話しましょう」

「その前に、僕がいていいの」

「いいんじゃないのか。すぐ出れば、誰が相手をしている、ということに。それに、あちこち言い触らさないだろう。触らしても、誰のことだと」

 白慈はくじが部屋を出て、あの婚約者に会えば、誰が北竜王ほくりゅうおうの使いの者の相手をしている、となる。

 言い触らしても、こちらで西の魔女の孫を知っている者は限られる。

 白慈はくじは椅子に座り、ラビアも。立ったままだった次男も座り。黒猫はラビアの足をつたい、テーブル上へ。

「で、記憶喪失とは。言葉もわからないのか」

「言葉はわかるようですが、自分のことはわからないようで」

「おい、自分の名前、わかるか」

 リディスを見た。リディスは首を傾げ。

「言葉はわかるんだな」

 頷く。

「西の魔女が逝去せいきょしたと聞き、その、こっそり、人の地へ下りたんです」

 よく西の魔女の家がわかったものだ。それとも教えたのか。船旅ではリディスに張り付いていなかった。

「埋葬され、人が去った後もずっと残っていて。しかも雨の中。誰かが涙雨だと」

 リディス派の誰かが傍にいるはず。黒猫はその時、姿を消していた。

「傘もささず、ずっと立っていたので、声をかけようとしたら、先に声をかけられ」

 リディス派の誰かが声をかけたのか。

「ぬ、盗み聞きはよくないとわかっていましたが、つい。馴れ馴れしかったですし」

「馴れ馴れしい?」

「はい。肩を抱いたり、抱きしめたり」

「男、女?」

 白慈はくじが口をはさむ。

「男のかたです。白慈殿と同い年くらいの」

 同い年はないだろう。外見は二十代前半に見えて、何百歳。

「竜ならわかるよね。人の婚約者、とか」

「婚約者はいません」

 黒猫が答える。白慈はくじを見て、次男を見る。

「どのようなかたでした」

「えっと、髪は金茶で、緑の瞳。背は高くて」

「どんな話をしていた」

 金茶の髪に緑の瞳の男は大勢いる。クファールでないのは確か。クファールなら馴れ馴れしくしない。わきまえている。

「えっと、西の魔女はあなただ。私が後見となろう。安心してくれ、そのかわり、と左耳に口を近づけていたので、その後はよく、聞き取れませんでした」

「魔法協会の者、か」

 ラビアはテーブルを指で叩き。

「まさか」

「思い当たる人物がいるのか」

 黒猫を見た。

「魔法協会のトップ、現会長の息子が、そのような色でした。魔女様が魔法学校に来られた時も、魔女様に言い寄っていたでしょう。リディス様にも贈り物だ、なんだと言い寄り」

「いたね」

「いたか?」

 白慈はくじは頷き、ラビアは首を傾げる。

「相変わらずですね。どうでもいい者はすぐに忘れる」

 黒猫は呆れて。

幻獣狩げんじゅうがりの男も忘れた?」

「そういえば、そんなのもいたな。顔は、忘れた。いや、覚えていない」

「って、そんなことはどうでもいいのです。それから、それからどうなったのです」

 黒猫は次男へと顔を戻し。

「えっと、そのかたが去った後もずっとその場に立っていて、暗くなってもそのままだったので」

 その間ずっと見ているのもどうかと思うが。

 クファール達は何をしていたのか。一人にしておくべきだと判断した?

「声をかけたら、ぼくのこと、わからなかったようで」

 次男は落ち込み。

「いつまでもここにいるのはよくない。風邪を引きます、帰れば、と言ったら、帰る? と首を傾げられ。誰か呼びに行きます。誰を呼んでくれば、とたずねても首を傾げるばかりで。あなたがいれば、あなたを呼びに行ったのですが」

青蘭せいらんは来ていなかった?」

「いました。クファール殿、ですか。そのかたと話していて」

 これからのことを話し合っていたのか。だからリディスの傍に誰もいなかった。それでも誰か一人。姉弟子派の誰かが邪魔をした?

「誰も来ず、どこに、誰を頼ればいいのかわからなかったので、つい、ぼくの家に来ますか、と」

「連れて帰ったんだ」

 白慈はくじは人の悪い笑みを浮かべ。

「きょ、許可はとりました。本人の、ですけど。頷いて、差し出した手を握ってくれたので」

「知らないかたに簡単についていく方では」

「信じられたから、ついていったんだろ。その時、誰よりも信じられたから、手をとった」

 息を吐き。

「何を覚えている。どこから覚えている」

 リディスを見た。

「覚えて、いる」

 リディスはぽつりと。

「手をとって、ここに来た、ところから」

「それより前は」

 首を左右に振る。

 リディスは竜が着ている服と同じ服を着ている。

「魔女を、すべて入れ替える」

「は?」

 リディスの言葉に黒猫はきょとん。

「そんなことを」

 魔女をすべて入れ替える。すべて。

「へえ、ふうん」

「ま、魔女様」

 黒猫は恐る恐るといった様子。

面白おもしろいことを考える。魔法協会がごたごたしていると噂で聞いたが」

 にやりと笑い。

「嫌な予感しかしません」

「同じく」

「どうでもいい。どうせ魔法協会の仕事はけない。それより」

「はっ、そうですね。今はリディス様」

「私が誘拐した、とされていそうだな」

「日頃のおこない、ですね」

「誰かをさらった覚えはない。殴れば思い出すかも」

「やめてください」

「だめです」

 黒猫と次男がリディスをかばうように。

「冗談だ」

「本当ですか」

 黒猫は疑いの目。

「おそらく、自分で自分に忘れるよう魔法、暗示をかけたのだろう。私にどうにかしろと言っても無理。それ自身で解くしかない」

 リディスをす。指されたリディスはきょとんとして。

「自分で自分に魔法をかける?」

「ショックが重なったか、整理できなくなったんじゃないのか。詳しくはわからないが、もう、すべて忘れたいと」

「それで忘れるよう、自分に魔法をかけた」

「こいつに馴れ馴れしくしていた男は魔法をかける素振そぶりはなかったんだろう」

 次男を見る。

「魔法は詳しくないので、はっきりとは」

 眉を下げ。

「倒れて頭をぶつけるようなことは」

「なかったです。それだけは、はっきり言えます」

「ショックが重なった、というのは、一つは西の魔女様の件ですよね」

「一つはお前。姿消しただろう」

「みゃう」

 黒猫は深々と頭を下げ。

「期待もあったのかも、な。こいつ派の」

 西の魔女の孫だから、と期待を大きく。

「あと、魔法協会の男。自分と、もしくは自分の言う男と結婚すれば西の魔女にしてやるとでもささやいたんじゃないのか。嫌だが条件をめば、期待に応えられる」

「他の候補は」

「だから、魔女の総入れ替え。私もだが北の魔女も魔法協会は完全無視。南は見ての通り、自由に動けず、やれることは限られている。候補は四人。こいつを西に。他は東北南」

「なるほど」

 白慈はくじは顎に手をあて。

「馬鹿ですね。そんな簡単ではないのに」

 黒猫は呆れた息を吐き。

「いいじゃないか。面白そうだ」

「あなたは。他の者はそうはいきません」

「そう決めたのは、そいつらだ」

あわれ」

「あ、あの」

「ああ、すまない。話がれた」

 次男を見た。

「身内のかたは」

「両親はいるが。母親は一度でも会いに来たか?」

「いえ。学校にも来ませんでした。葬儀にも。西の魔女様の逝去せいきょは広く知られています。それなのに」

「関わりたくない、か。遺産は全部私のもの、と言えるのに」

 金額にすれば莫大ばくだいに。弟子が取り合っているのだろう。それすらも関わりたくないと。

「お前はどうしたい」

 リディスを見た。

「こいつがうるさいからさがしていた。無事も確認できた。お前はどうしたい。私は別件でお前の面倒まで見られない。それに先ほども言ったが、協会は私がお前をかくまっている、さらったと考えるだろう。記憶のないまま人の地に戻るか、こちらにいて面倒見てもらうか。その場合、見るのは」

 次男を見た。

「ぼ、ぼくは大丈夫です」

「家族は大丈夫?」

 白慈はくじも次男を見る。

「はい。別邸にいるので。ぼくはまだ父上や兄上を手伝えません。勉強、体を鍛えていて。にぎやかな所より、落ち着いた所でと。彼女のことも行儀見習いとして。使用人も少数ですし」

「話は変わるが、口はかたい、よな。リディスのことを黙っているんだから」

「はあ」

「これから話すことは他言しないでほしい」

「なん、でしょう」

 真剣な表情に次男は緊張。

麒麟きりん、を知っているか」

「はい。知っています。うちによく来ます」

「よく来る!」

 椅子から立ち上がり、次男へと身を乗り出す。

「き、きます。うちと言っても、屋敷でなく、治める地に、ですが」

「顔は竜、体は鹿の」

「は、はい、その麒麟です。それが何か」

「実は」

 身を乗り出したまま話した。


麒麟きりんの子を保護。仲間をさがしているのですね」

「そうだ。もし、そちらの麒麟に会えたら伝えて欲しい。その麒麟でなくても、誰か、仲間が面倒見てくれないかと」

「わかりました。ただ、決まった日に現れないので、来た時でいいのなら、になりますが」

「かまわない。こちらでも捜すが見つからなければ」

 またゼロから捜さなければならない。それよりは。

「帰る前に見ていってくれ。その方が伝わるかもしれない」

 見ないより実物を見て、伝えてもらえば。

「彼女はどうするの」

 白慈はくじはリディスを見る。

「それ次第しだい。考える時間はあった」

 麒麟きりんの話しをしている間に考えられた。それとも、考えることすら放棄したのか。

「リディス様」

 黒猫はリディスを見上げ。

「君を選んだ場合、君、面倒見られるの?」

「見られると思うか」

白夜びゃくやは大変だ」

 押し付けると考えられている。

 リディスは次男を見て。

「引き続き面倒を見てくれるか。そっちがいいようだ。今は本人の好きにさせた方が」

「ぼくは、かまいませんが」

「思い出したら、白慈こっちに伝えてくれれば、そこからまた私に伝わる」

「伝言係り?」

「仕方ないだろ。連絡方法ないんだ。下手に言い触らして、北竜王ほくりゅうおうに迷惑かけるのも」

 何か持たせておいても、リディスが持っていなければ。

 今も、ぼう、としてどこを見ているのか。見ているように見えて、何も見ていないのか。

「一生思い出せなかったら」

「にゃっ」

「一生そっち、か」

「いいの?」

「私は困らない」

「君はそうだろうけど」

 白慈はくじは黒猫を見て。

「無理に思い出させるか」

 ラビアは黒猫の尾を軽く引く。

「みぃ~」

 黒猫は頭を抱え。

「どうするか選ぶのは、そいつだ」

「君が選んだように」

「自分も、だろう」

 白慈はくじを見た。

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魔女と竜のお話 @3bsvc

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