夫婦漫才~相方のギャルが明るい、かわいい、あと自慢したい
丸尾裕作
クラスメイト前での漫才披露
『どうもー』
高校二年生である押川勉(おしかわつとむ)と桃園杏樹(ひめかわあんじゅ)がまるで、漫才師のように教壇の前へと手をぱちぱちと叩きながら上がる。
黒髪短髪、額縁の太い眼鏡のオタク陰キャと金髪ロングでおしゃれでとびきり明るい陽キャのギャルの明らかに対照的な凸凹コンビとクラス中の誰もが感じていた。
「どうもー美少女です」
「押川勉です、おい、杏樹、そこは二人合わせてってコンビを名乗るところで」
「青空ライオンでーす、この桃園杏樹が童貞食べちゃうぞ」
「やめんかい」
「わぁー、顔真っ赤、マジうける」
二人の反応を見て、クラス中から笑いが沸き上がる。勉はそんな歓声が沸き上がる中、冷静だった。
自分の漫才の相方、桃園杏樹は華がある。
スタイルよし、性格も馬鹿みたいに明るく、元気で社交的。肌つやもよく、ロングヘアも金髪でさらさらヘア。
クラスで最上位カーストの派手なギャルとすごく目立つ存在だ。
自分で美少女と名乗っても、クラスで受け入れられるぐらいには美少女だ。
「ねぇねぇ、そこの童貞」
「ば、ば、ば、ばか、そんなこというな」
クラス中からけらけらと笑う男子の声と女性のくすくすとした声が聴こえる。
杏樹の華やかさでいるのに対して、勉はおしゃれもせず、いかにもオタク陰キャといった暗い雰囲気にわざとふるまっている。
漫才はちぐはぐであるほうがウケるというのもあり、過剰に勉は自分をださくしているのもあるが、それを除いても勉は自分のことは地味で暗いやつでつまらないと思っている。
だが、自分をいじることで笑いがとれるなら上等とそのまま勉は漫才を続ける。
「わぁー、こんなピュアピュアの天然記念物、この世に存在するんだ」
「うっさい」
「鑑賞料金、10円です」
「微妙に安いわ! やめんかい」
笑いがまたしても沸き上がるとともに、クラス中から、10円玉を高く掲げる手が散見される。
「馬鹿にすんな」
「そういえば、馬鹿といえば、あんた馬鹿って言われるの好きよね」
「えらく急に話を変えたな、もはや自然に感じるよ」
そう勉が言うとクラス中に笑いが再び沸き上がった。
「馬鹿に関しては様々なパターンがあるからな」
杏樹がすごく強引に流れを変えるも、逆にそのわざとらしさが笑いに変わる。
馬鹿っぽさという杏樹の漫才における武器はいかんなく発揮されている。
「え、何、何、教えて」
「杏樹、試しにやってみてくれよ」
「いいよ、やってみる!」
杏樹は勉にアイコンタクトをして、本ネタを始めるぞとばかりにこくりとうなずく。
「ツンデレのときのばか」
「………ばか」
杏樹は横を向いて、恥ずかしそうに告げる。
「彼氏が一方的に悪くて、けんかしたときのばか」
「ばかああああああああ!」
杏樹は両手でこぶしを作り、目をつむって、大声でいきなり、悲しそうに言う。
「照れて、相手の胸板をポコポコと殴るときのときのばか」
「ばかばかばか」
勉にとっては痛くもないけど、ぽかぽかと胸を叩きながら、杏樹は怒りながら告げる。
「相手を見下したときのばか」
「ばっかじゃねぇーの」
杏樹はジト目で心底呆れたようにそう告げた。
「恋人に好きって気持ちを照れ隠しで伝えるときのばか」
「ばーか」
杏樹ははにかみながら、嬉しそうに目を細めた。
そのまま、敬礼のポーズをして、きゃぴっとする。
「以上、馬鹿研究家の押川勉先生と世界が認める美少女、桃園杏樹でした」
クラスの面々へ前向きとなり、ぺこりと二人そろえてお辞儀をする。
「ウチら、高校生M1の優勝、本気で目指しているので応援よろしくお願いします」
クラスの特に隅からひそひそという馬鹿にする声が聴こえた。特に、勉に向けて、嘲笑のこもった目でひそかに笑われていることが確認できる。
それは少なくとも、勉と杏樹の求めている笑いではなかった。
担任の先生が入ってきて、「ホームルーム始めるぞ」と勉と杏樹は席にすごすごと戻ることにする。
だが、こんな状況でも勉のM1への思いはますます強くなるだけだった。
まずは1回戦は突破してみせる!
あわよくば優勝してやるという思いはめらめらと勉の心の中で燃えていた。
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