第7話 出発の朝と御令嬢

 目覚めのいい朝。昨夜は、ベッドに横になると直ぐに睡魔に襲われ、朝までぐっすり寝れた。体調は万全。

 さっと、着替えと朝食をすませる。色々と考える事は、あるけれど……。


「今日は、集中して頑張らなきゃ。初のAランクの依頼だもんね」


 鏡に映る自分の姿に言い聞かせ、両掌りょうてのひらを胸の前で拳をグッと握る。そして、魔導士用の帽子を被ると、杖を左手に取った。


「今日も、杖よし! さぁ、行こうっと」


 指さし確認を元気良く出来た。これが習慣だもん。冒険に行く時は、欠かせれないもん。

 バタン。勢いよくドアを閉めて、振り向きざまに見上げた空も快晴かいせい。太陽がまぶしいよ。今日は大丈夫。きっと上手くやれる。そう信じて、待ち合わせの場へと向かうの。



*****


 冒険者ギルドの前に来ると、サムの姿が見えた。やっぱりサムが一番乗りだなぁ。あと、隣に高そうな服を着た若い女性がいるのが見えた。美人だけど、直感的に私は苦手な感じだな。

 観察しながら二人の方に歩んで行く。楽しそうに会話してる。何を話してるんだろ? サムが微笑んでる。心がキュッとして苦しくなるよぅ……。


「おはよう。サム」


「おはよう。こちらは、今日の依頼主の御令嬢だよ」


「キャリー・ロトモアです。今日は、お願いしますわね」


「はい。魔導士のチェリルです。頑張ります」

 

 キャリー・ロトモアさんか。御令嬢だけあって、大金が寄って来る感じがする名前だなぁ。私の勝手な思い込みだけど。


「ちょっと。よろしいかしら。あなたは、あの方の何ですの? もしかして恋人とか?」


「えっ。あっ。違います。仲間なだけ……です」


 いきなり変な事を聞くから驚いたよ。でも、恋人じゃないのは本当だもんなぁ。


「そうなのね。それなら私の彼氏にしても、よろしいわね。サム・バートル。見た目は、合格ですわ」


「……」


 何も言えなかった。でも駄目なんて言えないよ。私にその権利無いんだもの。この人は、サムと恋人になりたいの? サムの気持ちは、どうなんだろう……。


「おはよう。チェリル。ペロペロペロ」


 ボーっとしてた。そしたら、いつの間にか、ロタノーラが目の前にと思うのも束の間。顔舐めの挨拶されたよー。


「お、おはよう。ロタノーラ。やっはり、今日も顔を舐めるのー!」


 キャリーさんが呆れた顔で私とロタノーラの行為を見つめている。サムは、苦笑い。


「この方々は、大丈夫ですの? 仲間は慎重に選ぶべきですわ……。ちょっと、私の顔は舐めさせませんわよ!」

 

 ロタノーラの挨拶行為を拒否し、抵抗するキャリーさん。お構いなしで舐めようとキャリーさんに近づくロタノーラ。それをサムが必死で体を盾にして止めてた。Aランク依頼の緊張感は、まるで無しだなぁ……。

 そうしていると、手配した荷馬車がやって来た。キャリーさんの乗る馬車は豪華みたいだから使用しない。目立たないように荷馬車で行くの。


「これで行きますの? 乗りごごちが悪そうですわね」


「我慢してください……。よし。皆、乗って。出発だよ」


「うん」


「はいよ」


 皆が荷馬車に乗り込む。すると、待ちかねたように直ぐに御者ぎょしゃが、ピシッとむちの音を鳴らす。そして、馬の高らかな鳴き声と共に荷馬車は、初のAランク依頼の冒険へと走り出したんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る