可惜夜のはやにえ

徒文

恩返し

 おばあちゃんとお風呂に入っていたときに、泣きながら悩みを打ち明けたことがある。

 まだ十歳にもなっていない頃。


 湯船に浸かりながら「おばあちゃんにたくさんのものをもらっているのに恩返しができない。それどころか、迷惑をかけてばかりいる。どう恩返しをしたらいいのかわからない」と話したと思う。


 当時流行っていた、おばあちゃんとの思い出を歌った名歌に影響された。

 私はきっと良い孫じゃない。迷惑をかけるばかりでなにも恩返しができていない。

 本気でそう悩んでいた。


 もともとおばあちゃんっ子だった私は、もらってばかりの自分が情けなくて、申し訳なくて、まだ起きてもいないことを悔やんだ。


 今考えればバカな話だと思う。

 子供はただ子供らしくいれば良いし、恩返しなんて考えなくて良い。ただ心からの「ありがとう」を忘れなければ、それで満点だ。


 でも、当時の私はそうは思えなかった。

 当時は本気で申し訳ないと悩んでいた。

 お風呂で泣き出すくらいには真剣だった。


「あなたが元気で笑顔でいることが、一番の恩返しだよ」


 俯く私に、おばあちゃんはそう言ってくれた。


 その言葉を思い出すたびに、あふれるように涙が出てきて止まらなくなった。

 当時はその意味までは理解しきれなかったけど、愛されているのだと感じて、ひたすら嬉しかった。

 胸がぎゅっとなった。


 今でも思い出す。一番大切な思い出。

 いつも私の糧になっていると感じる。

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