悪徳令嬢フォン田中の憂鬱
@futami-i
第1話 私、田中。ボンバー☆彡
私、田中のぞみ。25歳よ。ぶっちゃけ、今月26歳になるの。
地味な名前でしょ?
私もそう思うけど。
私は中流のサラリーマン家庭に生まれて、特に不自由なく育った。
しいて言うなら、昔ながらの田舎家庭だったから、弟が生まれてからちょっと肩身が狭かったくらいかな。
とはいえ、姉弟仲は周りがうらやむほどに良かったんだけどね。
ちなみに彼氏いない歴25年。……っていうわけではなくて、高校の時にクラスの男子に告られて流れでOKしたんだけど、一週間で関係が自然消滅した。
青春だったわね。こんな私でも万年彼氏いない系の荒んだ連中と比べれば、かなりマシな部類なのかな。
モテないなりに、私はあんまり二次元に理想を求めないタイプでね。夢見る乙女ゲーをやったことがなくてさ。弟のスパロボとギャルゲーならやったことあるんだけどね。
でもね、まったく理解が無いわけじゃないわ。
少女漫画くらい読んだことがあるし。なんならBL系の文庫も読んだことがあるし。ま、それとは関係ないけど、文系としては学校の成績もそこそこって感じだったわね。
自慢してもいいけど、社会に出てから過去の栄光にすがっても虚しいからやめとくわ。
なんにせよ、悪くない人生だったかな。
家庭の都合で大学には行けなかったけど、学生としては品行方正成績優秀のリア充を地で行けたし、ね。
まあ、お察しの通り、若いみそらで家庭は築けていないし、今は相手もいないんだけど、それでも貯蓄は1000万あるし、あんまり乗ってないけど車も持っているわ。高卒でもやればできるもんでしょ? 田舎の地元暮らしでも人生案外どうにかなるもんね。
このまま働いて、華の30代で散財したかったんだけど、ちょっと頑張りすぎたかな。
恥ずかしながら、心を病んでしまってね。
具体的な店舗名は、先方の名誉のために伏せるけど、年中無休の激務で、週休二日どころか月休二日のシフトを回していたら、気がどうにかなっちゃったのね。
体重45キロよ。痩せたぜ、って友達に自慢してたのがなつかしい。
ストレス太りするタイプじゃなかったってことかな。ま、人生この方容姿の問題で悩んだことが無いのは、我ながら幸せだったのかもね。うん、素晴らしい。
私は幸せだったのかな。
実家の自室で首をつってみたんだけど。
ほら、誰もいないアパートで人生の幕を閉じるのは、やっぱり大家さんに迷惑がかかるからと思ってさ。
……本当は幸せなんかじゃないし。おもしろくもない。
苦しすぎてもがいてみても、私が丹念に選んだ首吊りロープは切れない。
ははっ、イケメンの彼氏が欲しかったし、なんなら弟の結婚式にも出てあげたかった。
姉弟仲はよかったからね。いっしょに家庭用ゲームで遊んだのよ。
今、涙がこぼれるのは苦しいからじゃなくて、心がさみしいからだと信じたいな。
やっぱりさあ、死にたくなんか、ないよね。
◆◆◆
暗い水の底に沈んでいく。
沈んでいく私は、水浸しになっている。
なんでやねん、と突っ込まれたらよくわからないんだけどさ。
溺れていると、表現し直してもいい。
私は苦しみ抜いて死んだあと後、なんでかどうしてか、自分の身体を見下ろしていた。
幽体離脱ってやつ? ははは、死ぬってたーのしー。なんてふざけられたのも束の間。次の瞬間、私は泉のように澄んだ『水の中』で溺れていた。
地獄か!? これが最終地獄の裁きか!? 死のない世界で、終わりなく溺れ続けるのか、私は!?
なんて、病んだ心と偏見にまみれた地獄観でパニックに陥りそうになった私だけども。溺れている内に『水面』に光が見えた。そう、水面だ。
「ぷはぁっ!」
酸素を求めて、思いっきり空気を吸い込む。
「し、死ぬかと思った」
ま、死んでるんだけどね。ナイスジョーク私。
なんて自画自賛してもさびしいばかり……ではなかった。
――実家の自室で首を吊ったはずの私は、なぜか屋外にいた。
もっと言えば、どこぞのテーマパークみたいな庭園にいた。
緑豊かな芝生と植木。そしてなぜか大勢の『貴婦人』が、私を見ている。
しかもみなさん金髪! 地元の不良じゃなくて、みなさん外国の人だし!
そしてみなさん、なんでかものすごく哀れそうな顔をして、私の方を見ている。
えー、これひょっとして走馬燈? 私、長崎のハウステンボスくらいしか、こんな綺麗な庭園見た記憶ないけどなあ。走馬燈でもむちゃくちゃだなあ、地獄の閻魔様もびっくりだわ。
「○×○×○×!」「○×○×○×!」「○×○×○×!」「○×○×○×!」
みなさんなにか言っているけど、ダメださっぱりわからん。
私、英語は苦手なのよねー。ごめーん。
「○×○×○×!」
と、ぼんやり考えていたら、私を近くで見ていた1人に突き飛ばされた!
はあ!? なにしやがるんだ、こいつ!?
そして私は再び、水の中で溺れる。
でも足がつくし、おしりもつく。とても浅い……そこで私は、今、自分が座っているのが庭園の『噴水』の中なのだと気づいた。
それでも、溺れそうになるのは、私の背丈が小さいからで……
「○×○×○×!」
私を噴水に突き落としたドレス姿のお子様が愉快そうに笑っている。
よくわかんないんだけど、私、いじめられてるのかな?
これが地獄か。怖いなー、地獄の子どもは。
で、それはそうとして。
浅すぎる噴水広場で、今にも溺れそうな私、溺れそうな私。
なんで溺れるのかって……
あれー? 私、ちっちゃくなってない???
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