第40話 問題な朝

「四乃原先輩、朝ですよ、早く起きてください遅刻しますから!」


トントンと四乃原先輩の部屋の扉を叩く。

部屋の中からの返事は一切ない。

しかしこれが四乃原涼の日常である。

外で時間に焦る開を置いて部屋の中ではベットの中で布団にくるまり気持ち良さそうに眠る四乃原。

四乃原の自室には沢山の画用紙にキャンバスが乱雑散らかり、ほのかに絵の具の油の臭いが漂っていた。


「四乃原先輩!起きて下さい!」


ドアを叩く音と鷹宮の声が部屋の中に少し響く。

だが昇天なごとくの心地良さを遮るのにはそれで十分だった。


「ん、ん〜〜?」


朦朧とした意識の中、目を閉じながらも部屋に聞こえる音に意識を集中する。


「ん、んん〜〜」


唸り声を出しながら布団の中から片腕を出して何かを探す。


「四乃原先輩入りますよ」


時間が迫り痺れを切らした鷹宮がドアノブに手を伸ばす直前、ベットの横の机に置いてあったリモコンを取って一つのスイッチを押した。

そして鷹宮がドアノブに触れた瞬間、人が気絶する手前の超高電圧の電流が流れた。


「な、なんだ・・・ごれは・・・ぶへ・・・」


いきなりの電流に身体が痺れる鷹宮。

幸い耐性があったのでこの程度ですんでいるが一般人なら即病院に行かなくてはいけないレベルの電流である。


「なんでドアノブに電流が流れてんだよ?」


自分の身体に異常がないか確かめながら愚痴る鷹宮。


「でもなぁ〜連れて行かなねぇ訳にいかねぇし」


鷹宮は一度準備を整える為に四乃原の部屋から離れる。

何故鷹宮がこうも四乃原を部屋から出そうとするのは3日前のこと、一条にあることを言われたのが発端だ。


「どうにかして3日後の午後の授業に彼女を出席させて。その日は修学旅行の集会があるのだけどこのままじゃ彼女参加してくれそうにないの。学園の規則として修学旅行の参加者は病欠等の欠席せざるを得ない場合を除いて参加しないといけないの。だからお願いね」

「マジですか?」

「それが貴方の仕事でしょう」

「まあそうですけど……」


という感じで今日がその日であり必ず四乃原を午後の授業までに登校させなくちゃいけないという訳だ。


「うっし」


ゴム手袋を両手に付けてもう一度ドアノブに触れる。

電流が流れてる感じはしない。

鷹宮は上手くいった、そう思ったのも束の間。

扉の左右の壁から木箱のようなものが飛び出してきた。


「な、へ!?」


次の瞬間、その木箱から大量の木屑が噴射され鷹宮は木屑まみれになる。


「ぷっ」


これは工作室の木屑か!

だがこれだけでは終わらない。

今度は天井からなにやらヌメヌメとした液体が降ってきたのだ。

そのせいで鷹宮は全身がヌメヌメであり木屑がベッタリと付き服の隙間から入った液体と木屑のせいでもの凄い不快感を感じている。

今度は、ローション!?なんだよここはカラクリ屋敷かなかか!?


「あ〜痒いーー、木屑がチクチクして痒いーー」


さてさてそんな所で止まっていていいのか?誰がこれで終わりだと言った?

廊下の奥から何か発射された音がした。

音のした方を見ると爆速で何かが鷹宮の方に向かってきていた。


「アレはスケ、ローションッ!?イッ!?」


パチンコ玉のように向かってくるスケボーを避けようと跳ぼうとしたがローションによってヌメヌメとなった床に足が取られ思いっ切りくるぶしの少し上にスケボーがぶつかりそのままスケボーに連れて行かれ廊下の反対側の壁に衝突した。


「ぺっ、そんなに起きたくねぇのかよ・・・」


ここはラノベでもアニメの世界じゃねぇんだそ!?

なんでただ起こしに行くだけでこんな目に会わなくちゃいけねぇんだよ!

心の中で文句を垂らしながらも鷹宮は諦めない。


「とりあえずまずは風呂だ」


さすがにこんな状態じゃ頭が回らねぇ、てかさっきから痒くて仕方がねぇ。

鷹宮は一旦風呂に向かう。



その頃部屋の主はというと。


「ムシャムシャムシャ、鷹宮開、やっぱり面白い駒だね」


ベットの上でポテチをムシャムシャと食べながら先程の鷹宮の滑稽な姿を設置されたモニターでじっくりと見ていた。


「それにしても流石にボクもあそこまで大きな音をたてられちゃ起きるよ。今度はもうちょっと静かな装置にしなくちゃな」


四乃原はリモコンで部屋の外の掃除をした。

30分後、鷹宮はもう一度四乃原の部屋に向かった。


「あの木屑とローションはどこ行った?」


何故か戻ったらさっきまで木屑とローションで酷い有様だった部屋の前が綺麗になっている。


「こいつらは無駄ってことかよ」


作戦の邪魔にならないよう、木屑とローションを片付ける為に水が入ったバケツとモップ、あと何故かゴミ袋の中にあったラジコンカーを持ってきたのだが無駄だったらしい。


「ったくどういう仕組みなんだ?まぁ作った本人に問いただせばいいだけの話か」


自己完結し行動に移す。

まずは倉庫にしまってあったマネキンを盾にして扉の前まで進む。

そしてゴム手袋を装着した手でドアノブに触れる。

次の瞬間さっきと同じように木箱が飛び出した。

鷹宮は咄嗟に後ろに跳び木屑とローションを回避、そして骨折させるき満々のスケボーロケットの餌食にならずにすんだ。


「同じ手にそう簡単に引っ掛かるか!」


チャンスと、しっかりとゴム手袋をした手でドアノブに捻り扉を開けた。


「これぞ3度目の正直だ!」

「残念。二度あることは三度ある」


ポチッと四乃原がリモコンを操作すると踏み込んだ先の床が


「クッ!?」


鷹宮はすぐさま脚を開いて落とし穴を回避した。


「凄いね。でもこれはどうかな?」

「は?・・・カッ・・・・・・!?」


四乃原がもう一度リモコンを押すと穴の中から3本の棒が鷹宮の両腿、そしてに一発喰らわせた。


「あ、あ〜〜〜〜はぁ〜〜〜〜!!」


声にならない悲痛な叫び声をあげる鷹宮。

男なら分かると思うがこの直撃した所もさることながら胃の丁度下ら辺が変な感じになるこの感じ、理解してもらえると助かる。

だがこの鷹宮開と言う漢、その思いの強さからなのか耐えている。

脚を震わせ腹を抑え必死に痛みを耐えながら穴の上から抜け出した。


「これは驚いた。まさかボクの男撃墜装置を突破するとは。その漢気に免じてボクの部屋への入室許可をあげる」


少し驚きながらも耐えて見せた鷹宮に敬意を払い入室の許可を与えた四乃原だが当の本人はそんな場合じゃない。

なお、ちゃんとした会話が出来たのはそれから15分後とは言っておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る