第39話 鳳媛寮の朝

鳳媛寮の一日はまず仕込みから始まる。

日が昇りかける頃起床し服を着る。

そのまま眠気覚ましに洗面台で顔を洗って、キッチンに向かう。

昨夜仕込んでいた材料を取り出し状態を確認する。


「うん、いい感じだな」


状態を確認したら水分補給を調理に取り掛かる。

7人にはそれぞれこだわり?いや好みがありそれに合うように一つ一つ作っていく。


「あ、ハルっちおはよう」

「おはよう五十嵐」


最初に入って来たのは五十嵐だ。


「よく毎朝そんな早起きできるな」

「起きちゃうからね!ハルっちも今度一緒どう!」

「遠慮しとく、流石にこんな早くからトレーニングは嫌だ」


この寮の中で一番の早起きは五十嵐だ。

彼女は誰よりも早く寝て早く起きる。

起きたら着替えて外にランニングに出かける。

帰ってきたら朝食を食べてこの寮のトレーニングルームで軽く汗を流しシャワーを浴びて学校に向かう。


「今日の朝食何?」

「適当にから揚げバーガーにしよと思う」

「から揚げバーガー!美味しそう!」


朝からから揚げバーガーはどうかと思う人もいると思うがこの寮に住む7人中2人はかなりの健啖家だから朝からから揚げバーガーこんなものを提供できるという訳だ。


「お腹減った、ごはん」

「あ、七星ちゃん!おはよう!」

「う~~うるさい……」


髪も服もぼさぼさで、目の隈もひどく、今にも倒れそうなぐらいふらふらな七星が入ってきた。


「頭…痛い……」

「七星てめえ、また徹夜したな?」


七星は基本的にいつも最後の方に起きてくるが時偶にこのぐらいの時間に起きていることもある。

ただそれは徹夜しているだけであり寝ていないので健康上良くないのは確かである。


「今度は何してたんだよ?」

「ちょっと調べもの……鷹宮、ごはん」

「へいへい」


うとうとと頭を揺らしながら五十嵐の隣に座る七星。

なお、もう一人の健啖家とは七星のことであり、俺が起きてから最初に仕込みから始める原因でもある。


「お待たせ。簡単なもので悪いがな」

「うんうんいつもありがと!」

「鷹宮、嫁スキルB+、高評価。いただきます」

「いただきます!」


朝から美味そうに唐揚げバーガーにかぶりつく五十嵐。

そしてまるで掃除機、某ピンクの食いしん坊の様に唐揚げバーガーを吸っ、食っている七星。


「美味しい!」

「評価B+合格」


美味そうに食ってくれるのは作り手冥利に尽きるが七星よ、そのより明細化した評価はいらないから。

出来るなら単に美味いでいいから。

あと唐揚げバーガーがカレーと違って飲み物ではないのでそんなに急いで食べないように。


「そういえば三秋はどうした?」


五十嵐がランニングに出かけた後、三秋が起床し、五十嵐の後を追って一緒走る。

これは週に数回の定期である。


「三秋ちゃんとは一緒に帰ってきて今シャワー浴びてる」

「じゃあちょっと時間がかかるか」

「うん」

「ごちそうさま。ふぁ〜〜」

「お粗末さん」

「鷹宮、眠い、たがら今日は休む」


七星は大きく欠伸をして目を閉じてそう言った。


「ダメに決まってんだろ。学園から寝てもいいから出来るだけ出席しろって言われてるんだろ?」

「でも登校疲れる」

「おぶってやるから、今からでもギリギリまで寝てろ。五十嵐、悪いけど七星を自分の部屋に連れて行ってくれるか?」

「オッケー!じゃあ行こうか七星ちゃん。ご馳走様」


五十嵐は七星を抱っこして出て行った。

誰も来ない内に次は洗濯物に取り掛かる。

洗室に向かう。

ここで思っただろう、洗濯室とは?俺も最初は思った。

だが見れば分かりやすい話。何故か・・・いや、年頃の女ならよくあると思うのが(偏見)ようはお父さんの服と一緒に洗濯しないで現象の結果である。

この洗濯室とは7人プラス雑用係、ようは俺用の計8台の洗濯機が置いてある。


「なんで一緒に洗うのは嫌のに男の俺に服たたませるとかそこら辺の判断基準がわからん」


それぞれが各々個人の洗濯機でそれぞれの洗濯機から一台ずつ開けていきアイロンをかけてシワを無くしてついでに消臭もする。それから部屋着の様に畳んでいいものは畳み。シワがついてはいけないものはハンガーにかける。

洗濯の中でこの作業が一番苦労した。

なにせ元々服に興味がない、というより関心が無かったのでどれがハンガーにかけるものか畳んでいいものか勉強する必要があり、何度も注意された。

畳んで籠に入れた服は各自の部屋の扉の横に置き、ハンガーにかけたものは衣装部屋よ呼ばれる部屋にしまう。


「そろそろ三秋があがる頃か」


キッチンに戻るとダイニングには制服を着てスマホをいじっている三秋がいた。


「朝食は?」

「いつもので」

「了解」


三秋の料理は基本的に体型維持のための俗に言うモデルさんが作る料理で、たんぱく質が良く摂取できる鶏胸肉を低温調理して野菜を添えた味気ない料理だ。

俺もそれを作る為に食わせてもらったが別に不味くはない。どちらかと言えばダイエット料理ととらえるならかなり美味い方だと思うが、味気ないとは思う。

俺はかなり物足りないと感じた。


「へいよ」

「ありがと」


三秋はスマホで最近のトレンドなどを調べながら朝食を食べる。

彼女にとってこれも仕事の一つなのだ。

SNS運営も俳優やモデルなどの仕事になった今の世は大変だな、とひそかに思った。


「おはようございます」

「おはー」


次に入って来たのは六倉で制服を着こなしタブレットを持っている。


「おはよう。ちょっと時間かかるがいつものでいいよな?」

「はい。大丈夫です。その間にこちらも仕事をしているのでお気になさらず」


六倉の朝食はザ・日本の朝食と言った感じで焼き魚に白飯、味噌汁に和え物と健康な朝食だ。


「おはようございますみなさん」

「おはようございます」

「おはよう」


次にダイニングに入ってきたのは一条先輩だ。

早朝だと言うのに制服はクリーニングに預けた後の様にシワ一つなく、髪は綺麗でサラサラであり輝いている。

まるでラノベのお嬢様が登場する時のようだった。

制服をクリーニングに出した覚えがないのだが、一体どういう原理だ?


「悪い六倉、先に一条先輩の方ができそうだ。先にそっちを出していいか?」

「もちろんです。私より一条先輩の方を優先してください」

「鷹宮君、今日はミルクティーの気分だからお願い」

「わかりました」


キッチンから今の状況を伝えると六倉は快く了承してくれた。

六倉の朝食は後は焼き魚を待つだけないので先に一条先輩の方から出す。

一条先輩の朝食は豪華な洋食の朝食だ。

目玉焼きとソーセージ、それにパンケーキとイチゴなのどフルーツを添えて、そこに少し葉野菜で彩りを添える。

最後に紅茶を入れて終える。


「今日の茶葉は?」

「イングリッシュブレックファーストです」


一条先輩が一口カップに唇をつける。

どきどきの瞬間だ。


「まあまあね。でも昨日よりも美味しいわ。少なくとも私が口に入れるには値するわ」


その評価を聞いて息を吐いて安堵する。

この言葉を聞いて厳しいと思うかもしれないがこれは彼女なりのかなりの高評価だ。

一条先輩はかなり紅茶へのこだわりが強い。

そんな彼女が自分の口に入れる価値があると評価してくれるのはそれだけ価値があると言うことだ。

それと今入れた紅茶の茶葉はイングリッシュブレックファーストと言う茶葉で伝統的な茶葉で名前の通り朝食にピッタリな茶葉で、その味わいと豊かな香りが魅力らしい。

丁度焼き魚ができた頃合いなので一度キッチンに戻り。六倉の朝食を持って行く。


「楓さん。私は来週から修学旅行の話し合いの為現地に向かいます。その日にある班会議は玲さん司会を任せてありますので彼女のサポートをお願いしますね」

「わかりました」

「なあ、その玲って誰なんですか?」


一度六倉の仕事を手伝った時ちょろっと聞いた名前だが誰だか詳しくは聞いてなかった。


「玲さん、本名は西園玲にしぞのれい。生徒会副会長よ。覚えてないかしら?一応前の生徒会副会長が推薦人をした子なんだけど」

「ああ~言われてみればですね」


去年の生徒会選挙でガチガチに震えていて汗がびっしょりな人が確かそんな名前だった。

後になって他の生徒会副会長候補を抑えてまさか当選で学園が少し沸いたっけ?


「ついでになんだけど私がいない時、楓さんもとい生徒会のサポートをお願いできないかしら?」

「え~~、ご覧の通り俺割と今やってることで手一杯なんですけど?」

「暇な時でいいわよ」

「生徒会長、話を折って申し訳ありませんが。私はそのような必要はないと思います」

「別に困っていないのなら頼る必要はないわ。あくまで何かあった時の為に一応言っといただけよ」

「つまり俺は保険ってことですか」

「ええ、できるなら生徒会だけで仕事を回して欲しいわ。もとよりそれが本来のあり方だもの。でも保険は掛けといて損はないでしょ」

「習慣ってやつですか」

「これでも経営に携わっている身ですから」


一条先輩は笑顔でそう答えた。


「それともう一つ」


一条先輩が手で俺を近くに呼び、耳打ちで一つの要件を伝える。


「お願いね」

「マジですか?」

「それが貴方の仕事でしょう」

「まあそうですけど……」


一条先輩、六倉、三秋は朝食を食べ終え各々ダイニングで朝食後の時間を過ごす。


「みなさんおっはようございま~~すっ!」


朝から元気よく二宮が入ってきた。


「先輩たちはいつも朝早いですねー。まあ私も深夜テンション継続中なんでめっちゃ元気ですけど!」

「おい、まさかお前も徹夜したのか?」


二宮の朝食を持って、聞く。


「私ショートスリーパーなんで全然大丈夫です!」

「言い訳じゃないよな?」

「もちのろんです!」


俺は無言で二宮の目を見る。


「……わかった、ほらちゃんと飲めよ」

「は~い」


二宮の朝食は端的に言うなら超甘党だ。

朝からアイスにパンケーキにクッキーにその他諸々とまあひどい食生活だ。

だからこの食事を許す代わりに特製の野菜ドリンクを飲み干すことを条件にしてる。

一応野菜を作ったケーキとか工夫はしてるが焼け石に水なのでそれだけは飲ませている。

二宮は意を決して特製ドリンクを飲む。


「ゔ、うぇ~~」


二宮は苦い顔をしながら飲み干した。


「よし、ほれ食べていいぞ」

「は~い」


特製ドリンクを飲んだ後だからか元気なく返事をする。

だけどすぐに朝食を食べるといい笑顔で元気を取り戻した。

これが大まかな鳳媛寮の朝だ。


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