第34話 特売セールは戦場

「再来週の校外学習は三秋さん五十嵐さん六倉さんと鷹宮君で組むことになったからよろしくね」

「いや、急に職員室に呼ばれて来てみればそんなことですか?」

「あれ、思ってたより驚かないね」

「最悪そうなるかもとは思ってはいましたから」

「それは優秀だね」


昼休み放送で平野先生に職員室に呼ばれてみれば再来週の校外学習の班のことだった。


「俺は別にいいんですけど3人はいいんですか?」


三秋と六倉は置いといて、五十嵐は誰か他の友達と班を組んでそうだが。


「うん。彼女たちには事前に許可を取ってるから。だから君たちは今日の5・6限は無いから先に帰っても大丈夫だよ」


要件はそれだけで俺は職員室から退室した。

今日はもう帰るか、夕飯の支度をしなくちゃいけないし。

そういえば今日スーパーの特売だったような。

帰りに一度寄って行くか。

一旦教室に戻り荷物を持って昇降口に。


「あ、鷹宮っちー!そっちも今帰るとこ!?」


昇降口に向かうとそこには三秋、五十嵐、六倉の3人が既にいた。


「あなたも今から帰るところですか」

「一応な。そっちもか?」

「アタシたちも残る理由ないし」

「だから3人で先に帰えろうとしたら鷹宮っちが来たってわけ!」


なるほど、大体俺と同じ感じか。なら先に洗濯と掃除のことを頼んでおくか。


「なるほどなじゃあ先に帰って洗濯物を自分の籠に入れといてくれ、後俺がお前らの部屋を掃除するときの為に最低限の片付けをしててくれ」

「あなたは帰らないのですか?」


俺が一緒に帰らないことに疑問を持った六倉が質問する。


「今日はスーパーの特売セールだった気がしたからちょっと寄って帰る」

「そういえば今日だったわね」

「じゃあさみんなで一緒に行こうよ!」

「いや別についてこなくても……」

「なんか文句あんの?」

「いえ、ありません」


結局五十嵐と三秋に押し切られ4人で一緒に行くことに。


「にしても三秋と五十嵐が特売のことを知ってたのは少し驚いたな。お前らそういうの気にしなそうなタイプだと思ってたわ」


日焼けギャルと運動日焼けバカがこういう家庭的なケチケチしたことを気にするのはイメージ違いだった。


「これでも一応あたしたちも料理できるよ!」

「マジで?」

「うんもちのろん!!」


五十嵐は自信満々と答えるが中々に疑わしい。どうも俺の頭の中では五十嵐が手際よく料理をしているイメージが出ない。逆にベタな黒焦げの苦い料理が出てくるイメージしか浮かび上がらない。


「あたしたちもってことは三秋と六倉もできるのか?」

「一応ね。アタシにもいろいろあるから仕方なく……」


三秋にはなぜかちょっと触れちゃいけない部分だったぽい。


「え、ええ、もちろんできますよ」


反面、六倉は明らかに動揺している。

怪しい。


「ほんとか?」

「ええもちろんよ!そうね家庭料理ぐらいなら!なんなら今日は私が晩御飯を作りましょうk……!」


言い切る前に三秋と五十嵐が六倉の口を塞ぐ。


「悪いけど寮での生活に慣れてもらう為に当分はアンタに家事全般やってもらうから」

「わ、悪いけどそういうことだから!」


二人がかなり無理矢理理由を押し付けてくる。

うん、まあそういうことにしとこ。

そんな話をしている内に目的のスーパーに着いた。


「どうやら思った通り今日だったらしいな」


スーパーの窓を見ると今日の14時から一部の商品が特売セールの貼り紙が貼ってあった。


「それで何を買うつもりなんですか?」

「そうだな。とにかく保存が効くジャガイモとかは買っておきたいな。他にも保存が効くセール品はなるべく買っておきたい。それと今日明日の飯の食材の中でセールの食材があったらとにかく買っておきたい。最低でも30人前は欲しいな」

「そんなにいりますか?」

「うちには大食らいがいるだろう?」

「そうでした……」


俺が暗に七星のことを言うと彼女のことを思い出した六倉は納得した。

スーパーの中に入ると中でスタンバっていた主婦たちの鋭い眼光がこちらに刺してくる。


「流石主婦の戦場。臨戦態勢だな」

「これくらい普通よ」

「そうそう、それではあたしはこれから向こうの戦場に行ってまいります!」

「じゃあアタシはあっちね」


五十嵐と三秋が慣れた感じで籠を持って戦場に向かって行く。


「俺たちは肉を取りに行くぞ」

「え、ええ」


置いてかれた俺と六倉はお肉コーナーに向かう。

お肉コーナーの前では目をギラギラさせたご婦人方が今始まらんとお互いを牽制しあっていた。特に牛肉コーナーの前にいるご婦人方の風格は一線をかえしていた。


「六倉、お前は鳥でも豚でも魚でもいいから少しでも多くその籠に商品詰め込め」


俺は籠を六倉に押し付ける。


「わ、わかったわ」

「俺は少しばかり相手方にご挨拶してくるんで」


六倉と別れて俺は牛と豚が取れる境目に向かう。


「お久しぶりですね皆さん」


俺がご婦人方に挨拶するとご婦人方も挨拶を返してきた。


「あらはるき君、久しぶりね」

「ええ、お久しぶりです」

「開君は今日お肉を狙ってるのかしら?」

「はい」


ご婦人の質問に笑顔で答える。


「珍しいわね。いつもはお野菜ばかりなのに」

「少し軍資金が急遽入りまして。つきましてはこの場は私がいただきます」


開の勝利宣言(一番肉を掻っ攫う宣言)と共に場がぴりつく。


「おいおい威勢のいいガキが調子乗ったんじゃねえぞ」


後ろを振り向くと男と見間違うほどの大巨漢なご婦人と2人のチンピラみたいなご婦人がいた。


「これはこれは安東あんどうさんではないですか」


俺は常に笑顔で対応する。


「ここは私たちの縄張りだよ。あんたの縄張りはあっちだろう」


安東さんが指さす先はジャガイモなどの野菜コーナーだ。


「それに関してはご心配なく。偶々助っ人がおりまして。それに俺も年ですからやっぱり偶には肉が食いたいと思いまして」

「食える肉が残ることを祈ってるよ!」

「ええ、そちらこそ」


ふんと鼻を鳴らし、自分の場所と言わんばかりに陣取る安東さん。

精肉コーナーはあまり来ないが負けてやるつもりは毛頭ない。

そして開戦の音頭が鳴り響く。


「それでは現時刻を持ちましてセール開始です!」


店員さんの声とベルの音と共に主婦たちが獣のように特売品を籠に入れる。

もちろん俺もこの鍛えられたフィンガーで肉を搔っ攫っていく。

主婦の方々は片手にパック一つのところ俺は片手でパックを4つ、つまり両手で8つを同時に取り籠に肉を放り込んでいく。

開始から1分と少し、精肉コーナーの特売品は全て完売した。


「申し訳ありませんが俺の勝ちですね」

「ふん、中々見込みのあるガキじゃないの。今日のところは負けを認めてあげるわ」

「安東さんこそ、流石の腕前です」


安東さんは俺の腕につるされた4つの籠に満帆に入った肉のパックを見て素直に負けを認めた。

だが安東さんの籠にも他の主婦方の倍近くある肉のパックが入っていた。

多分俺がいなければ普通に勝っていただろう。

俺と安東さんは固い握手を交わした。

その後3人と合流する。


「どうどうこれ!」


まず最初に合流したのは五十嵐だ。

五十嵐は複数の籠を腕につるしてアピールする。


「凄いな、流石は学園運動部のホープ」


籠の中にはジャガイモに人参など、保存のきく食材がゴロゴロと入っていた。

これなら当分は安心だろう。


「そっちも終わったのね」


次に合流したのは三秋だ。


「アタシは主に葉野菜と緑系の野菜が多いかしら。後味噌とか調味料系が少し」

「おお!味噌も特売だったのか!よく見つけたな」

「偶々目に入ったのよ」


調味料はありがたい。まさか調味料も特売になってるとは、完全に見逃していた。

最後に合流したのは六倉だった。


「な、なんなんですかあれは」


六倉はかなり消耗しきった様子で籠を渡してきた。


「なかなかなできじゃない?」

「最初にしては上出来だろ」

「凄いね六倉ちゃん!」


籠の中を見て三者三様の感想を述べる。

籠の中には鶏肉と魚が乱雑に放り込まれており大体籠の4分の3ぐらいの量だ。

初めてでこれはかなり優秀だな。


「じゃあ後はもうちょっと必要ような食材買い込んで帰るか」


それから3人と相談しながら買い物を続け会計をして帰る。


「いやー今日は大漁大漁だな。3人とも助かったぜ」

「これぐらい朝飯前だよ!」

「今度からアンタ一人で行ってよね。せっかくのネイルが剝がれちゃった」

「私はもうあそこには行きたくないです……」


三秋と六倉の参加は期待できないか…それはちょっと残念だ。

他の4人だと……二宮あたりがギリか、残りの3人は…無理だな。


「そう言えば班の件、ほんとによかったのか?」

「アタシは別の誰でもよかったし」

「私もそこまでこれと言って約束した人はいませんでしたから」

「あたしも平気だよ!」

「ほんとか?三秋と六倉は兎も角、五十嵐は誰かに誘われてたんじゃないのか?」

「「ちょっとそれどういうこと(ですか)!?」」


思うことがあったのか三秋と六倉がツッコミを入れる、だが開はそれを気にせず五十嵐を見る。


「あたしは全然!確かに一緒周ろう!ってみんなに言われたけどそのあとこの4人で周るってなったから全然平気!」


本人は笑顔で答え、まったく気にした様子はなかった。


「そんなことよりさっきのはどういうことよ!アタシに友達がいないって言いたいの!」

「そうです!流石にそれは心外なんですが?」


2人ともまだ納得がいってないようだ。ここは心苦しいが客観的真実を伝えてやるか。


「そうほんとに言えんのか?まず三秋だがあの時の感じ、まともな友達がほんとにいるのか?」

「うっ……」


食堂での一連のことを指摘すると分が悪いと悟り口を紡ぐ。


「そして六倉、お前はそもそも誰とも関わってないから友達いねえだろ?」

「私だってちゃんと多くの生徒と関わってるわよ!」

「事務関係でだろ?」

「そ、それは……」


生徒会会計として多くの生徒と関わっていても結局事務関係でしかないのでプライベートな関わりはほぼゼロと指摘したら何も言えなくなった。


「そういう鷹宮っちは友達いるの?」

「そ、そうよアンタこそ友達いんの?」

「そうですね。私もあなたが友達といる姿なんて見たことないのですが」


五十嵐のなんの考えてない質問に反撃のターンと見て思いっきり乗ってくる三秋と六倉。


「最近お前らの世話で時間がなかっただけで俺もさいていげんの友達はいるぞ?」

「ほんとなんですか?」


疑わしいと疑惑の目を向けてくる二人。


「じゃあ今度紹介してやるから。お前らが面倒じゃなければ」

「あたしは会ってみたい!」

「アタシは面倒そうなやつじゃなければ」

「私は一向に構いません」


五十嵐と三秋は少なからずいるかもとは思ってるみたいだが六倉の奴は完全に信じてないな。今度東と会わせたらどんな反応するか。

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