第27話 いざ京の都へ

一条先輩の試練を終えて一段落…とはいかなかった。


「かつての日ノ本の中心、京都。現代でかつての日本を味わえる由緒正しき場所か…」


開は窓の外の日が暮れていくオレンジ色の景色を眺めながらそう口ずさむ。

今開は全身を黒で統一した私服で新幹線に乗っていた。

放課後、7人の世話をした後、すぐに家に帰り着替え、予約していた新幹線に乗り京都に向かった。


「荒隈のメールでは京都の最高級ホテル、紫苑のパーティー会場で行われる予定ね。開場は19時からだから俺が着く頃にはもうほとんどの関係者は入場してる感じか」


俺が新幹線に乗ったのは17時半。東京から京都までおよそ2時間、そこからホテルに向かうのに30分ちょっと。


「はぁ…やっぱり面倒くせぇ」


八重樫の本家と分家、そしてグループの重鎮たちが勢揃いのドデカイパーティー。俺の存在自体が奴らにとってのタブー中のタブー。


「けど、もうここまで来ちまったら乗り切るしかねぇ。ふー・・・やっぱりこういう時は全てが軽いな」


据わった目つきで外を眺め、開は京都へと向かう。


「さあ、最悪最高のプロローグ、そのフィナーレといこか」



***


京都の中でもトップクラスの高級ホテル紫苑、そのパーティー会場の扉の前には黒服のサングラスをかけたBDボーダー達が会場の入り口を守っていた。

そんなBDたちを通って続々と要人たちが会場に入っていく。

会場に入る要人たちは政界、財界、スポーツ界様々な業界の幹部たちだ。それも大量の、万が一この会場で爆発でも起これば様々な業界で混乱が起きてもなんらおかしくない。

だがそんなこと大半の人間は分かっている。それでも参加しなくてはいけないほどこのパーティーは大事ということだ。


「真、準備は出来ておるか」

「勿論ですお爺様」


会場の奥の控室では可愛らしさを残しながらもキリッとしたスーツで身を包んだ美少年と和服を着た老いた年寄りながらも現役と思わせる力強い覇気を漏らす老人がいた。


「ならば良い。お前はこの八重樫家の次期当主、儂の跡取りなのだ。このようなお披露目パーティー程度で失敗は許さんからな」


八重樫一徹、八重樫グループの現CEOであり八重樫家の当主である。


「承知しておりますお爺様」


八重樫真、高校一年生の八重樫家の次期当主。

八重樫一徹は厳しい視線を真に向けながらも未だ来ていない要人たちの接客の為パーティー会場から離れて別の部屋へと向かった。



***


夜の京都、栄えていても所々は人がいなく風が木々を揺らす音が響き精神を落ち着かせる趣のある場所がいくつも存在する。


「夜の京都、懐かしくも悪くないな」


開は会場に行く前に少し寄り道したくなり昔よく来ていた神社に来ていた。


「あの頃、よくここで泣いて、笑って遊んでいたな・・・」


昔、もう授業やらレッスンやらが嫌でよく抜けだしたもんだ。

ここには殆ど人はいなかったし、屋敷の張り詰めた空気もなくてほんとに自由だったな。

なんやかんや思い出にふけている開だがキリよく現実に戻る。

そして神社を去り歩いて目的の紫苑へと向かう。

何故車やバスを使わないのかって?単純に金がない。新幹線で大金消し飛んだ!少しでも節約に決まってんだろ!

歩くこと20分、時刻は20時ちょっと前、高級ホテル紫苑に到着した。


「チッ、腐っても八重樫ってことか」


ホテルの内装を見て悪態をつく開。

こんな場所の会場を押さえてるんだ、それは大金はたいてんのは当たり前か。

荒隈から届いた手紙もとい招待状を確認してエレベーターに乗る。


「確かここの最上階って一部屋10万は軽く飛んだはず」


新幹線の中で確認した紫苑の各階の値段を思い出す。

エレベーターから降りると廊下には整ったスーツや豪華なドレスを着た大人がゾロゾロいた。

子供も一緒・・・てことはこのパーティー、晩餐会じゃなくて別の何かだな。


「やっぱり、目立つよな」


この階についてから廊下にいる全員から視線を感じる。まぁそれは当たり前だがな。周りはみんなこのパーティーに合った服装。ちゃんと格式を重んじているのに対して俺はそこらの高校生が誰かと遊びに行く時に着ているような普通の服。この場では間違いなく俺が浮いている存在だ。


「だが、今更そんなこと気にしてもしゃーないな」


俺は気にすることなく会場に入ろうとするが黒服のSPみたいなゴツい筋肉ムキムキの男に道を塞がれた。


「入れねぇんだけど?」

「御招待していない者は御入場出来ません」


男は無機質に決められた言葉を返してきた。

それに呆れた開は内ポケットから荒隈の手紙を取り出して据わった目で男を見て言った。


「客だ。入れろ」


ドスの効いた声は廊下に響き、今度は別の意味でその場にいた全員が開を認識した。

男は何も感じた様子もなく開の招待状を確認する。

確認し終わると男は開に招待状を返して入り口を開ける。

開は何も言うことなく会場に入っていく。

なお、この時のBDは内心チビりそうでサングラスの中ではちょっと涙が出ていたのは内緒だ。

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