第26話 七姫試練 最後の試練 覚悟

明日は一条先輩との最後の試練でありその翌日はあの忌々しい会議への参加。

一条先輩の試練は先輩との一問一答。対策もくそもないその場の完全一発勝負。

四乃原先輩と似ている内容だが問われる本質がまったくわからないとなると話は変わってくる。

例えるなら四乃原先輩の問いは誘導があった数学の問題で、一条先輩の問いはただそう言うものと覚えさせらてた公式の本質を問われる問題。

誰だって何故円周率は3.14なのかsinθ、cosθの定義を答えよとか急に言われたら答えられる訳がない。

となると今すべきことは嫌だが明後日の準備だな。


「荒隈め、金欠学生になんつう出費を強制してきやがって。最後に決めたのは俺だが文句は言わせてもらうぞ」


なんであのじじいに会いに行くためにこん大金を……あいつらからしたらはした金かもしれないがな。


「はぁ…やっぱり行くんだったらだよな」


開は精神を統一し心を落ち着かせる。

家のことも7人のこともじじいのことも全て忘れて己自身と向き合う。

そして深く奥にしまっていたを取り出す。


「もう逃げることはできねえな」


開は覚悟を決める。そして明日の為、そして明後日の邂逅の為肉体と精神を休めるため早くに眠りについた。



***


「準備はいいかしら?」

「はい」

「では始めましょうか」


いつも通り放課後、姫の部屋に向かった。

中にいたのは一条先輩のみ。

これは四乃原先輩の時とほぼ同じ構図だ。

違うのは俺が一条先輩に立って向き合っていることぐらいだ。

そして座っていた一条先輩が席を立ち机の前に出て机に寄りかかる。

俺の先輩の間には距離があるが阻むものはない。


「ルールは単純明快。私のする質問に答えるだけでいいわ」

「ハンデなんて存在しない一問一答の反則もくそもないドシンプルなゲーム」

「分かりやすいでしょう?」

「そうですね」

「それと別に無理に丁寧に喋らなくても平気よ」

「いいんですか?」

「ええ」

「では、お言葉に甘えて」

「それでは一問目。あなたは生まれてから嘘をついたことはありますか?」


まるで女神か天使のような優しい声で問う一条先輩。それは自身の罪を懺悔しているかのようだった。俺は躊躇いなく正直に答える。


「あります。それはもう俺の人生が嘘で作られた虚像のようにね」


生まれてから一度も嘘をついたことのない人間などいない。もし嘘をついたことをないと言うやつはそれは悪い嘘のみをカウントしているやつだ。そしてそういう奴ほど優しい。だから知らぬうちに相手を傷つけないように優しい嘘をつく。


「2問目、あなたは誰かを傷つけたことはありますか?」

「あります」


直接誰かを傷つけたわけではなくても知らない内に誰かを傷つけいることなんて当たり前だ。何せ自分の出した答え、行動が相手にとってして欲しかったものなのかわからないのだから。

まあ俺にとってはそんなの関係ないけどな。


「では」

「!」


一瞬気を緩めた瞬間、俺の首元目掛けて手刀がとんできた。

それに何とか反応して頭を下げてかわすが間も置かず腹に向かって右拳のパンチが飛んでくるが両手で受け止める。

重っ!?


「3問目」

「はあはあはあ…随分と急ですね」

「あなたは誰かを愛したことはありますか?」


あっっっぶっねーーーーー!あと数瞬遅れていたらマジで危なかった!?

開は冷汗を垂らし、そう思った。

てか殺気以前に気配すら完全に消えていた。反応できたのは今までの経験から感じ取れた第6感、つまり勘だ。それにこのパンチ、今も俺が割と本気で押し返そうとしてるのに全然動かねえ。五十嵐の数段は重い。こんな細腕のどこに一体こんなパワーがあんだよ。当の本人は何事もないように俺を見てきてやがるし。超人通り越してバケモンだろう。


「どうしたの?そんなにお腹を押させて。おトイレぐらいなら行ってもいいのよ?」


この人分かって言ってるだろう!


「別に…平気ですよ。それと答えですね。知らねえよそんなの・・・!」

「……そう。第4問、あなたには何か守りたいものはありますか?」


守りたいものか・・・特段誰とかこれと言うものは思いつかないがいまの生活は気に入っている。だがそれが守りたいものかと言われれば言いにくい。失ってもいいかと言われれば別にいいと言える程度の品物だ。


「分からないですね」

「そうなんですか?」

「ええ、俺にとってこれとはっきり言えるものがないでね」

「家族もですが?」

「あいにく俺の家族関係はかなり複雑でね」

「そう」


ちょっとばかし興味を示していたが一条先輩はすぐに次の質問に切り替えた。


「最後の問いよ」


一条先輩は拳の力を弱め最初と同じく机に腰を掛ける。


「あなたは私たちの想いに応えてくれますか?」

「想い…か」


悩む必要はあるのか?いやないな。もう3回も覚悟決めてんだ。今更躊躇することなんてあるわけねえわな。


「そうだな、叶えることはできねえかもしれねえが、全力で応えてやりますよ!」

「何にかけて?」

「そうだな、この命を掛けようか?」


俺がちょっと挑発気味に答えるが、その答えに一条先輩は少し不服そうな様子を見せた。


「不服そうですね」

「そうね。あなたは命を懸ける程度。その程度の力しかないの?」

「それはどういうことですか?」

「命を懸けるのは力がない人間がやること。命を懸ける前にそうならないように力や知識をつけるの。命をかけることしかできない人間は弱者であり、強者の餌にしかならないわ」

「だが命を掛けなくちゃできないことだってある」

「それは弱者の言い訳よ。努力をしたくない。してこなかった。怠けていた自分を肯定するための言い訳なのよ」

「だがそれで弱者と決めつけるのはいささか早計だと思いますがね。貴方だって一度は弱者であったはず」


誰だって力を。持っているんじゃない。生きていく中でで知識と経験を積んでいくんだ。そのことは俺自身が一番よくわかっている。


「そうね。普通の方からしたらそうでしょうね。だけどね鷹宮君。あなたは一つ間違っているわ。私は最初から強者よ。弱者であったことは一度もないわ」


絶対の自信、そして実績があるからこそ言える説得力があった。


「それにね。命を懸けることなんてそう何度もできることじゃないのよ。常に命を懸けるなんて命を削る行為。必ずどこかで命が潰える。あなたにそれができるの?7人もの才媛に応えられるほどの命があなたにあるの?」


……確かに、才能がある人間を支えるのは生半可なものじゃない。しかも7人だ。どこかで俺が燃え尽きることがあるだろう。俺の前に選ばれた世話役たちはそのステージに立つ前に燃え尽きてしまった。だけど。


「生き残ってみせますよ。弱者なりに命かけて、がむしゃらに、あんたらがどれだけくだらないことに悩んで苦しんでようと、この命をかけて応えて、生き残って、嫌でも認めさせてやりますよ!」


開は強い意志の籠った眼差しを一条先輩に向ける。


「わかったわ。今日の試練はこれでお終いよ。結果は後日知らせるから」


こうして俺と一条先輩の問答は終わった。





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