第24話 昼は負け麻雀

「ツモ、ドラ3の裏ドラ1」


今日は七姫試練六日目、予定では放課後に行われる予定だがそれまではいつもとルーティンは同じだ。だから俺は最近のルーティン通り昼休みに姫の部屋に来たがその中心には珍しいものが置いてあった。


「なんでこの部屋に雀卓があるんだ?」


姫の部屋の中心に雀卓が置いてあり、二宮、三秋、六倉の3人が雀卓を囲っている。


「どうして学校に雀卓があるんだ?」

「あ、先輩!先輩も一緒にどうですか?」


俺の存在に気づいた二宮が誘ってくる。


「別にいいが、なんで雀卓が?」

「これ一条先輩と六倉先輩が持って来たんです」

「一条先輩と六倉が?ってことは生徒会の管理物か?」

「正確に言えば前生徒会の管理物ね」


紅茶を飲みながら自分の席から麻雀をやっていた3人を見ていた一条先輩が答えた。


「前生徒会の物?」

「私が生徒会長になる前、2年前の生徒会長が学校の経費で買ったのよ」


やれやれと珍しく一条先輩が愚痴る。


「1年生だったとして一条先輩なら止められたんじゃないんですか?」

「当時の生徒会長はかなり好き勝手な性格だったの。3年生の癖に2年生の林間学校や1年生の校外学習について行ったり学園祭に多額をつぎ込んでアーティストとか呼んだりしっちゃかめっちゃかだったわ」


感慨深そうに一条先輩が過去を語る。


「一条先輩が振り回されてるなんて想像できねえな……」


今の一条先輩しか知らない俺からしたら一条先輩が俺みたいに振り回されてる姿なんてイメージがな……


「それで、俺が来るまで3人麻雀やってたのか?」

「違うわよ。さっきまで一条先輩がそこに座ってたの…でも……」


三秋が状況を説明してくれるがそっと奥に座る六倉を見る。


「はぁ~~~~……」


一人ぐったりと落ち込んでいる六倉。


「なにがあったんだ?」

「さっきまで六倉先輩が一条先輩に絞られて絞られてもう泣き泣き泣き寝入り。拗ねちゃってるんです♪」

「拗ねるって、一回負けたぐらいだろう。それに六倉なら一条先輩に負けたのなら逆にへこまないだろう?」


六倉は一条先輩を尊敬してるし、自分とは格が違うと分かってるはずだからそれが当たり前とか逆に自慢しそうだけどな。


「それが違うのよ。負け方の問題」

「負け方の問題?」

「六倉先輩、一条先輩に大三元、四暗刻、純正九蓮宝待ちで完封されたんです」


は?役満2回にダブル役満とか一条先輩、どんな豪運してんだ。それは凹むわな。


「で、アタシたちにも普通に負けて落ち込んでるのよ」

「六倉先輩って結構負けず嫌いですから。あははは♪」


負けず嫌いなのか、それは知らなかったな。いつも怒りっぽいのもそのせいなのか?


「それでアンタもやるの?」

「あー、じゃあお言葉に甘えて」


俺は空いている席に座る。


「ほら六倉先輩、先輩が入ったんでもう一回ですよ」

「え?」


見たこともない六倉の疲れ切った顔。いつも一人残ってるくせにこういうゲームでは疲れ切った顔見せるんだな、こいつ。


「あーー」

「ちょっと六倉先輩……どうしましょう?」


負けに負けを重ねてやる気がなくなった六倉は俺を見てもイラつかない。

ここはちょっと煽ってやるか。


「弱いな。受ける前から勝負を捨てるのか?」


俺の言葉にちょびっと反応する六倉。

俺はそれを見て続ける。


「生徒会も呆れるぜ。生徒会の会計もよくこの体たらくで務まるもんだ。完璧な一条先輩が生徒会長を務める生徒会も役員がこの体たらくじゃそこが知れr」

「乗ってあげるわよこの勝負!!」


いつも通りの怒鳴り声で、さっきまでの落ち込み具合はどこに行ったのか元気よく雀卓に構える。

それを見て二宮も三秋もちょっと笑みを浮かべる。


「じゃあやるか。てかこの雀卓結構新しいよな?」

「なんか当時の最新のやつらしいわよ?」

「当時の収支報告書見た時は驚いたわ。明らかに例年の支出より多額なんだもの。なのに収支も大きくてバランス取れてて何があったのか」

「そんなことより始めましょう!時間もそんなないんですし!」

「そうだな。じゃあ親は」

「六倉先輩で良いでしょう」

「そうね。それでいいんじゃないかしら」

「じゃあ六倉が親でいいか?」

「ええ、勝ち続けて絶対に勝ってやるわよ!」


六倉がかなりやる気を出している。

雀卓から混ぜられた牌が出現する。俺たちはそれぞれ牌を取っていく。


「じゃあ始めるか」


まずは親である六倉から牌を捨てていく。


「で、今日の放課後は生徒会室に集合でいいんだっけ?」

「ええ、この勝負に勝って、試験でもあなたを負かしてあげるわよ!カン!」

「それは楽しみだな」


逆にここでまたボロ負けしたらどうなるんだよ?俺はそれが不安だよ。


「六倉ってそういう熱血系だったんだ。ちょっとアタシ意外」

「それ、私もです。いつもムスッとしてて書類書き書きしてるイメージしかありませんでしたから。リーチです」

「俺もだな。個人的には二宮とは相性最悪と思ってた」

「え~、先輩そう思ってたんですか?」

「それはそうだろう。お前、なんでものらりくらりとはぐらかしていつも適当なこと言って、生真面目と頑固な六倉とは水と油だろう?」

「貴方って」

「先輩って」

「「私のことそう思ってたの(んですか)?」」

「なんで二人ともそんな意外そうな反応なんだよ…」


客観的に見れば普通そう見えるだろ。でも確かにこうやって一緒に麻雀するぐらいだし悪くはないみたいだな。


「ロンです」


三秋が二筒を捨てたところ二宮がロンした。


「立直、平和、一盃口、タンヤオ、ドラ1、裏ドラ3で倍満の16000点が三秋から二宮に移動だな」

「初手から持ってかれたわね」

「幸先が良いかもですね♪」


親が変わって次は二宮が親だ。


「そう言えば、先輩たちは来月の校外学習ってどこ行くんですか?」

「アタシたちは某ネズミのテーマパークに行くわ。ポン」

「そうなんだ」

「なんでアンタが知らないのよ?」


最近忙し過ぎてそんなこと気にしてる暇なかったんです。


「ええ~いいな~。私たち1年は水族館ですよ?つまんなくて退屈しそうです」

「仕方ないでしょう。それが例年通りの行き先なんだから」


二宮の愚痴に六倉が反応する。


「でも、水族館なんてラブラブカップルが安牌で行く場所じゃないですか?そんな所に行っても私暇ですよ〜〜」

「一応校外学習なんだけどね」

「自分で彼氏作ればいいだろう。お前なら選び放題だろう?」

「え〜、ほら雫ちゃん超可愛いから男の子たちが戦争起こしそうで面倒だし。逆恨みとかも嫌なんで」

「それはお前の自業自得だろう?いつもそれとなく気があるように振る舞うからだ」

「だって楽しんだも〜ん」

「私は別に気にしないけどあんまり校内で問題事は起こさないでよね」

「は〜い」


それから他愛のない話を続けていれば時間も経ち最終局面に。現在は東4局、親は俺で点数は俺が23400点で三秋が15400点、二宮が56300点そして六倉が4900点と六倉は負けは確定である。


「なんで、なんで毎回私ばっかりこうなのよ~~」

「そうは言っても7割8割運のゲームなんだから言ってもしょうがないわよ」


項垂れる六倉を三秋が励ます。


「単に六倉先輩が運がないだけですけどね~~ポン」

「二宮、余計なこと言わない」

「そうは言ってもですね~ポン。事実ですからチー」

「呑気に言ってるがもうあがりそうだけどなお前」

「あ、バレちゃいました♪?」

「バレねえわけないだろう」


二宮はもうツモかロンの態勢だ。できるなら親である俺が点を取って少しでも削って逆転したいが。


「う~~」


六倉を見るとなぜだが無理な予感がする。


「お願い!」

「残念ロンです」

「なんでよ~~~!!!」


なんとなくわかってはいたが六倉がロンされた。

これでこの対局は終了。

最後に8000点が六倉から二宮に渡り、俺23400点、三秋15400点、六倉-3100点、二宮64300点で二宮の圧勝だ。


「と言う訳で私の勝ちです!」

「最初から圧勝だったな」

「そうね。流れが完全に二宮にあったわ。まあでもそれを抜きにしても…」


三秋と俺は項垂れる六倉を見る。


「六倉が弱すぎたと言うことかしら?」

「そうだな」


明らかに高得点の時だけ六倉がロンされて一気に三秋と順位が逆転した。


「楓さんは運が絡むものにはとことん弱いのよ。まぁでもそれだけじゃないみたいだけど」


後ろで眺めていた一条先輩が話に入ってきた。


「じゃあ他になにか理由が?」

「そう難しいことじゃないわ。単純に楓さんの知識不足ね。上手くいけばツモれた場面もあったし、それ捨てる?って言うこともあったわ」

「でもそれは俺も一緒ですよ?」

「それが違うのよ。楓さんは知識不足に加えて真面目でしょう?だから無難な牌で上がろとして流すべきか負けても点数を取られないって発想が思い浮かばなかったんじゃないの?何せこのゲームは相手から点を取るのが基本だから」


なるほど確かに説得力がある。明らかに二宮が上がりそうな手牌だと分かりそうな状況でそれを出す?と言う牌を出しているときは何度かあった。


「勝負やゲームに勝つと言うことはルールをよく知り理解すること。そして冷静に場の状況に適応することよ」


勝つ為にはルールをよく知り理解する。そして場に適応するか、大企業の令嬢の言うことは違うね。


「さあ早くそれを片付けてね。もう昼休み終わるわよ」


時計を見ればもう休み時間はほぼなかった。


「じゃあ片付けよろしくね」

「よろしくお願いしま~す。先輩」

「俺がやんのかよ?」


結局片付けは俺一人ですることになった。

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