七罪姫のお世話役

鳳隼人

第1話 始まりの契約

なぜこんなことになってしまったのか。

今俺は七人の美少女に囲まれ、その中心で正座させられている。


「結構カッコイイ人が来た。でもこういう人に限って私に落ちちゃうのよね~~にしし」

「ねぇ~早く帰っていい?アタシ今日仕事あるんだけど?」


客観的に見れば俺は多分一部の人間からはかなり羨ましい状況にいるのだろう。しかし俺からしてみれば既に胃が爆発しそうだ。


「ねむねむ~~~……」

「あたしも今日ソフトの手伝い行かなくちゃいけないからなるべく早く終わって欲しい」


俺も早く終わって家に帰って胃薬飲んで寝込みたい。でもそういう訳にはいかない。普通の生活を送る為には耐えなくちゃならない。


「どうせコイツも今までの連中と同じで1週間もしないうちに泣いて出て行くわよ。こんなとこに集まっても時間の無駄よ」

「ムシャムシャ。その可能性は高い。だがゼロとも限らない。人間関係はファーストコンタクト、第一印象が大事」


どうやら7人全員俺には不服らしい。だがこれだけは言っておきたい。俺も望んでこんな仕事を引き受けた訳じゃないんだ!!

俺の真正面で座っていた一条先輩が立ち上がった。


「とりあえずようこそ鷹宮君。そしてよろしくね」


彼女の笑顔は笑っているのに全くそんな感じがしなかった。時すでに遅しとは言え俺は後悔した。この7人、七罪姫たちの御守り役を引き受けたことに。



***


「鷹宮」

「ん?どうしたん委員長?」


俺は昼休み、いつも通りラノベを読んでいると委員長からお呼びがかかった。


「先生が呼んでるから職員室に行ってくれ」

「え、マジ?」

「マジ」


俺自身職員室に呼び出される理由に思い当りがなかった。

それを聞いた周りの奴らが揶揄ってきた。


「お前何したんだよ!」

「知らねえよ!」

「なんか集まりとか忘れたんだろう?」

「俺委員会とか部活入ってないからマジでないんだけど?」


職員室に呼ばれるなんてどうせ面倒なことに決まってる。気分が下がりながらも俺は職員室に向かう。


「失礼します。平野先生はいらっしゃいますか?」


俺は担任の平野先生がいるか聞く。


「おお鷹宮君、来たか。こっちに来てくれ」


職員室の奥から眼鏡を掛けたちょっと痩せ気味の気弱そうな男が声をかけた。彼が俺の担任の平野先生だ。

俺は平野先生の机に向かう。


「平野先生、委員長から呼び出されたんですけどなんですか?」

「そのことなんだけど実際に言えば僕じゃなくて理事長先生からの呼び出しなんだ」


平野先生がそう言った瞬間、職員室の音と言う音が消えた。

俺はそれに驚いた。さっきまで先生同士の会話や授業の相談などあったのに一瞬にしてその会話がなくなったのだから。


「じゃあ僕について来て」


だが平野先生はそんなこと気にせず立ち上がり職員室を出て行った。

俺は少し戸惑いながら平野先生について行った。

職員室じゃなくて理事長室とかいよいよ本当に俺なにかしたのか?だがまったく持って思い当たる節がない。


「平野先生、俺なにかやらかしましたか?」

「ん?ああ確かに不安に思うよね」


俺が平野先生にそう聞くと平野先生は優しく呼び出された理由を教えてくれた。


「別に鷹宮君に何か問題があって呼び出した訳じゃないんだ」


俺はそれを聞いてほっとした。

だがそうなると本当に呼び出された理由が分からない。


「君にはある仕事、依頼を引き受けてもらいたいんだ」

「依頼ですか?」

「そう。まあ薄々勘付いてると思うけど」


平野先生はそう言うがマジでわからない。そんな俺の反応に気づいたのか。


「あれ?ほんとうにわからない感じ?まあこっちからしたらあんまり関係ないか」


少し驚きを見せながらもすぐにそこまで問題ないと割り切った。

そして俺と平野先生は理事長室に着いた。

平野先生は理事長室の扉をノックする。


「理事長、平野です。鷹宮君を連れてきました」

「入りたまえ」


中から渋く圧のある声が聞こえた。


「入ろうか」


平野先生が扉を開けて入って行く。


「失礼します」


俺も先生について中に入る。


「失礼します」


中に入ると部屋の奥に堂々と座るかなり厳つい男性と制服を来た女子生徒が一人いた。

男性は立ち上がる。


「平野先生、そして鷹宮君。急に呼び出して悪いね。そこに座りたまへ」


俺と平野先生は部屋の真ん中にあるテーブル一つを挟んだ二つのソファーの片側に座った。

そして男性と女子生徒がもう一つのソファーに座る。


「鷹宮君は初めましてだね。私がこの学園の理事長を務めている荒川だ」


荒川理事長、何度か全校集会で顔は見たことはあるがこうしてちゃんと会うのは初めてだ。そしてもう一人、制服を身にまとった超絶美少女、彼女のことは嫌でもうちの学校の人間は知っているだろう。


「私も初めましてですね鷹宮君。生徒会長の一条彩花よ」


一条彩花、彼女の自己紹介通り、この学園の生徒会長でこの学園の七大美女の一人だ。彼女は笑顔で俺に接してくるが嫌な予感しかしない。


「鷹宮君。早速で悪いが本題といかせてもらうよ。その為にいくつか確認しときたいことがあるんだ」

「確認しておきたいことですか?」

「ああ、そこまで気を張り詰める必要はない。簡単な確認だ」

「は、はぁ……」

「まず君は今なにかバイトをしているかな?」

「今は特にしていません」


つい最近、バイトしていたところの店長と喧嘩して辞めたのだ。あれはひどかった。60はいってるぐらいの歳の癖に主婦のバイトの人を贔屓して学生の男子のバイトは減らしたり理不尽に叱ったり。あまりにも酷かったので抗議してそのまま言い争いになって辞めた。まあただでは引き下がらなかったがな。


「それはよかった。それと進路は大学でいいんだよね?」

「はい、その予定ですが」


なんだ?まだ高2の春だが面接でもされてる気分だ。


「そうか。君には悪いけど少し調べさせてもらってね。このままだと鷹宮君。君うちの学費も払いきれるか怪しいよね?」

「ゔゔ…!」


図星だ。俺は片親で親父は今海外に出張に行っている。最低限生活できるだけのお金は振り込まれているが高校の学費を払うのは少しきつい。だが俺がバイトすればなんとか足りないこともない。しかしバイトも最近辞めてしまった。それに高校の学費すら払えるかギリギリなのに到底大学費用を確保できるはずもない。

俺の反応を見て満足そうに頷く理事長。


「その反応を見ればわかった。私も君には君自身が望む進路を歩んで欲しい。そこでだ君にの世話役を頼みたい」


理事長が隣に座る一条先輩を見る。一条先輩は何も反応せずスマホをいじっている。

俺は意味がよくわからなかった。


「世話って一条先輩のですか?」

「そう彼女たちの世話だ」


意味が分からない。何故俺が先輩の世話を?それも学校直々から?・・・いや待てよ、今理事長、って言ったのか?


「待って、彼女たちって一体誰のこと」

「君も知っているだろう。我が校が誇る天才秀才たちを!」

「まさか…!」


察しがついた。彼女たちを知らない者は確かにこの学校に1人としていないだろう。だがなぜ彼女たちに世話が必要なのか理解が追いつかない。


「いや、それ以前になぜ彼女たちに世話がひつ」

「報酬はこれだ」

「ん……?これは!?」


理事長が出した契約書を読むとそこには今の俺に必要なものが提示されていた。


『1:鷹宮開が依頼を受けた場合、その日から依頼終了、もしくは辞退する日までの

学費、その他諸々の費用を全て学園が負担するものとする。

 2:鷹宮開がこちらが提示した依頼終了日まで依頼を達成できた場合、これまで払っていた学費の全額の返還と卒業まで学費を免除。そして卒業後の大学費用を学校が負担する。

 3:鷹宮開がこちらが提示した依頼終了日まで依頼を達成できた場合、鷹宮開が望む進路先を提供できるよう協力する』


こちらとしてはなんとも破格な報酬だ。学費の免除と返還だけでもデカいのに大学費用を負担してくれるし進路先を有利にしてくれる。学生の身からしたら破格も良いところだ。


「どうかな?君にとっては」

「やります!!ぜひやらせてください!!!」


俺は理事長の言葉を遮って答えた。この報酬を前に断る理由がない。俺が引き受けると答えると理事長と平野先生がお互いを見て満足そうに頷いた。


「そうかい。それは良かった。ではこの書類にサインを」


俺は理事長から渡されたペンで書類にサインした。


「これで正式に契約な成った。期限は現3年生の卒業まで。ここからは一条君に任せるから。放課後3階の一番奥の教室に向かってくれ」

「わかりました」


これで俺は一条先輩たちの世話役を引き受けたのだが、すぐに後悔した。

甘い話には必ず裏がある。膨大なリターンにはそれ相応のリスクがあるのだとすぐに実感したのだった。

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