第14話 朝の無い闇の中

 ミヤマオ城へ帰還した俺達は、エディットと由衣にネルヒ辺境伯の城での経緯を報告した。

 エディットは、先生と犬養の件を真摯しんしに受け止めたようだ。由衣の方は、猿ヤンに続いて先生と犬養を失って、かなりショックを受けた感じで、項垂うなだれていた。

 いつもの由衣なら、俺をしかり飛ばすはずだ。その元気もないんだな。


「皆、ご苦労様。そしてロゼルーナさん、ようこそミヤマオ城へ。今日は、もう夜更よふけなので部屋でゆっくり休んで」


 皆をねぎらった後、エディットは由衣のそばに寄り、手を握って謁見の間から出て行った。その姿を見ると、微笑ましい感じがして……二人は、平和そうでいいなぁ。しかし、一緒の部屋に行くのかな? と頭をよぎったけれど、疲労感がまさり、どうでもよくなっていた。

 直ぐに俺も皆にお疲れの挨拶をする。その後は部屋に戻り、ベッドに入った。もう今、この瞬間は何も考えたくなかった。眼をとじれば直ぐに睡魔すいまに襲われ意識は無くなっていく……。

 

「蓮輔様、起きてください! 蓮輔様!」


 部屋の外で名を呼ぶ女性の大声で、俺は、目が覚めた。窓の外は、まだ暗いようだが。朝まで寝らせてくれよ。と思いつつ扉を開けた。すると、メイド姿の女性が立っていた。


「蓮輔様、大声で申し訳ございません。ノックをしても返答が無かったもので……。あっ、お伝えします。至急、謁見の間に集合とのことです」


「まだ、暗いのに集合? 何かあったのか」


「はい。朝なのに夜のように暗いのが問題のようです」


 俺の質問にメイドは、焦った表情を浮かべて答えた。もう本来は、太陽が昇っている明るいときなのか……? どうやら俺が寝すぎだったらしいな。何かが起こっているという事か。


「了解。知らせをありがとう」


 メイドに礼を言って、直ぐに謁見の間に行く支度したくにかかった。



 *****


 城の中全体が、ざわついた雰囲気になっている。

 謁見の間に俺が入ると、既にエディットと由衣以外は揃っていた。真剣で暗い表情を皆している。いや、ロゼルーナだけは、元気な表情だ。


「ロゼルーナ、何か元気そうだな。何かあったのか?」


「私、何だか身体の底から力がいてくる感じなの」


 ロゼルーナは、少し嬉しそうな顔をした。俺は、理由の想像がついた。多分、ダンピールである彼女は、闇のパワーを吸収出来ている? と言ったところだろうな。


「喜び、はしゃぐのは止めておくんだよ」


 耳打ちすると、ロゼルーナは俺の顔を見て頷いた。

 そうしていると、エディットと由衣が入って来る。玉座に座ったエディットは、今までで、一番険しい顔をしていた。


「皆、遂に恐れていた最悪が始まったわ。魔の力で太陽の光の届かない闇の空になってしまった。さらに魔物の部隊が進行準備に入ったそうよ。国の騎士団は、村や町の防備と王都の治安維持で手一杯よ。心の弱い者が闇に負けて暴れ始めているの……」


 エディットの顔が曇り口ごもった。辛い命令になるからだろうな。


「俺達だけで行くしかないか。まぁ、その為の特務騎士と予言の勇者達だからな。なぁ、そうだろ。蓮輔」


「ああ、そうだな。行こう。それが俺の運命だ。人々の笑顔を取り戻そう」


 ラピーチが俺の肩を抱いた。ラピーチがこうすると元気になるんだよな。俺の心のスイッチが入り、やる気満々になった。


「私は、ラピーチと何時も一緒よ」


 美姫がそう言いながら、ラピーチに抱き付いた。


 ロゼルーナは、俺の見届け役だから当然行くと言って生命の腕輪を渡してくれた。リーエルも特に行く事に反対意見はないようだ。リンは、職務上当然行くと言った。『馬車で行かせないわよ』と笑みの無い表情で、少し意地悪っぽく言うところに、リンらしさが有った。

 皆の心は、闇を排除する為に頑張る決意で一つになっている。そう俺は、感じていた。


「皆、ありがとう。どうか無事に帰ってきて!」


 エディットの心からの叫びと感じて、俺と皆は無言で頷いた。


「蓮輔! 美姫!」


 由衣が俺と美姫に叫んだ。少し涙ぐむ表情だ。感極かんきわまったのだろう。


「分かっているよ。由衣は、エディットをしっかりと守るんだぞ」


「そうよ、由衣」


「うん!」


 俺と美姫が由衣にはげましの言葉をかけた。城で女王陛下を守るのも立派な任務だからな。由衣は涙をぬぐい、返事をする。あんな素直な由衣は、子供の頃以来だな。俺は懐かしさを感じる事が出来た。

 そして俺達は、暗黒教祖との決戦の出発準備に入った……。



 *****

  

 俺は、部屋で生命の腕輪を手に持っていた。取りあえずは、嵌めてみるか。意を決して、ドキドキしながら腕輪を左手首にめた。


「うっ!」


 俺は思わず声を上げる。身体が火照ほてってくる。そして俺の身体は銀色に輝いていた。


『私は生命の腕輪。お前は、私を使って魔法を使用することが出来る。しかし、その対価として、お前の生命力を頂く』


 頭の中に男の声が響く。リーエルもこうなったのか。生命力? 俺は、それが気になった。


「生命力とは、具体的に何だ?」


『具体的には、魔法を使えば使う程、お前は老いていく。強力な魔法は、その分激しく老いる。契約するか?』


 腕輪は俺に契約を求めた。俺は、ショックを受けたが、覚悟はもう決まっていた。


「契約する!」


 俺が叫ぶと『了承。魔法使用か、私に用があるときは呼んでくれ』そう頭の中で聞こえると、俺の身体は平常に戻った。夢じゃないよな? 頬っぺたをつねってみたら、痛かった……。



 *****


 準備を終えた俺達は、城門前に集まった。リーエルは、ロングボウを、その他の者は弾倉付きクロスボウを手に持った。そして、それぞれの剣を装備している。ロゼルーナも黒色のワンピースの上にハードレザーアーマーを着て、腰にバスタードソードを装備していた。


「目的の神殿は、城より東方の不毛の地にあるわ。その近辺まで一気に飛ぶわよ」


 リンの言葉に皆の表情が引き締まったようだった。今回は、緊張感が違う。


「ワーベラ!」


 リンの声は、力強くて気合が感じられた。天高く飛び越える。そんな気持ちにさせる程に。


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