おさがりの中古さんでも愛しています

三葉 空

第1話 女神とキモオタ

 日々、僕のシコり欲が止まらないのは、非モテの童貞だから、という理由だけではない。


『……ぁ……ッ……』


 となりの兄の部屋から漏れ聞こえて来る、艶めかしい女の声。


 そう、いま僕の兄とその彼女が、おせっせしていらっしゃる。


「うッ……」


 白い液体を飛ばした直後、僕はやるせない気持ちになった。


 ため息まじりに処理して、催した尿意も処理するために、部屋を出る。


 その時、幸か不幸か、となりのドアも同時に開く。


「……あっ」


 どちらがともなく、声を漏らす。


 そこには、はだけたブラウスとスカートをまとう、美女がいた。


 しっかりと痩せながらも、胸の膨らみはすごい。


 あと、お尻のボリューム感も……


「ご、ごめんなさい、かなでさん」


 僕が慌てて謝ると、彼女は照れたように、


「こちらこそ、ごめんね。見苦しいモノを……」


「いや、そんなことは……かなでさんは、きれいです」


「へっ?」


「あっ……ト、トイレに行きますか?」


「うん、ちょっと……光輝みつてるくんも?」


「はい……」


「男の子の方が早く済むだろうから、お先にどうぞ」


 微笑んで言ってくれる。


 あくまでも気遣いのセリフなのに、なぜかエロい。


 それはこの人が、今しがた、うちの兄としこたまおせっせをした後だからだろうか?


 とにかく、気まずいこの場を離れるべく、僕は慌てて階段をくだった。


 そのまま、トイレでシコりたかったけど、かなでさんも待っているから、我慢する。




      ◇




 後日……


「光輝、すまんが、ちょっとリビングに来てくれ」


「えっ……」


 兄に呼ばれる。


 どうしたんだろう、改まって。


 まさか、今まで僕が、兄と彼女のおせっせに聞き耳を立てていたことがバレた、とか?


 しかも、最大のオカズにまでして……兄の彼女を。


 松宮まつみやかなでさん。


 正に、マンガから登場したような、ヒロイン。


 流れるようにきれいな黒髪、色白の肌、そして巨乳(推定Hカップ)。


 そして、そんな素晴らしいヒロインを手にする我が兄、豊永樹生とよながいつき


 ハイスペのイケメンであり、とにかくモテる。


 ただ、決してチャラくない、マジメな人だから。


 真剣にお付き合いをして、家にまで連れ込んだのは、かなでさんが初めてだ。


 そして、僕はそんな兄の彼女に、憧れ……ほのかに、恋をしていた。


 もちろん、叶うはずもない恋だけど。


「……あっ」


「光輝くん、こんにちは」


 女神がいた、我が家のリビングに。


 何気ない空間も華やぐ、正にヒロインの力。


 そして、主人公たる我が兄と並んで座ると、もう完成である。


 そして、モブたる僕は、ひっそりと向かい側に腰を下ろす。


「すまんな、光輝。改まって呼び出して」


「いや……で、兄さん、どうしたの?」


「うん、実は俺とかなでは、別れることになったんだ」


「えっ……」


 いきなり告げられた衝撃の事実に、僕は言葉を失う。


「な、何で? 2人はこんなにお似合いなのに……」


「ありがとう。確かに、俺たちはお互いに完璧同士だ」


 兄さん、謙虚な人だけど、しっかり自信を持つところは自覚しているな。


 一向に構わないけど。


「でも、だからこそ、お互いにどこか物足りなかったのかもしれない」


「そういうもの……なのかな?」


 チラと目線を向けると、つらつらと語る兄のとなりで、かなでさんは神妙な面持ちでいた。


「光輝、お前はかなでのこと、どう思う?」


「えっ? そ、それは……」


「好きか?」


「す、好きかと聞かれれば……好きだけど」


「じゃあ、かなでと付き合ってくれ」


「…………はい?」


 兄はハイスペ、当然ながら勉強も常にトップクラス。


 お勉強だけじゃなく、地頭がかなり良い。


 ただ、たまに、突拍子もないことを言う。


 まあ、天才だからかもしれないけど。


 当然、凡人の僕には理解が及ばない。


「兄さん、ごめん。ちょっと理解が追い付かないんだけど……」


「ああ、すまない。実は、これはかなでの希望でもあるんだ」


「へっ?」


 声が上ずる。


「いきなり、ごめんね、光輝くん」


 かなでさんが口を開く。


 僕はポカンとしたまま。


「その、いけないとは思いつつも、いつの間にか彼氏だった樹生くんの弟であるあなたのことが……好きになっていたの」


 パクパク、と鯉みたいに。


「でも、やっぱり嫌だよね? こんな……おさがりの、中古女なんて……ねっ?」


「愛しています」


「へっ!?」


「はっ!?」


 お互いに驚く。


「いや、その……た、確かに、いまこの状況的に、失礼ながら、かなでさんはおさがりの中古さんかもしれないけど……でも、そんなの関係なく、かなでさんは魅力的な人ですから」


「光輝くん……」


「と、と言うか、どうして僕みたいな非モテの陰キャのことを……デキる兄さんとは大違いでしょ?」


「そうかもしれないけど……でも、愛しいなって」


「そ、そうですか……」


 やばい、口元がニヤける。


 だって、ずっと憧れていた人が、僕のことを……


「よし、話はまとまったな」


 兄さんが微笑んで頷く。


「じゃあ、俺は出かけるから、後は2人でごゆっくり」


「えっ、兄さん?」


「かなで、今までありがとう。そして、これから可愛い弟をよろしく」


「樹生くん、こちらこそ、ありがとう。そして、これからもお世話になります」


「うん」


 兄さんはあくまでも爽やかに微笑んで、颯爽と去って行く。


 カッコイイけど、ちょっとおかしな主人公だな、まったく。


「光輝くん」


「あ、はい」


 改めて、この女神さまと2人きりだということに気がつき、緊張が増す。


「さっき言ったことは、本当?」


 かなでさんが、そのきれいな瞳で僕を見つめる。


「私のこと、愛しているって」


「は、はい……本当です」


 めっちゃオカズにしていたけど、ごめんなさい!


「か、かなでさんこそ、本当ですか?」


「んっ?」


「その、ぼ、僕のことを……あ、あい、愛しているって……」


「ええ、本当よ」


 柔らかく微笑む彼女に、偽りは感じられない。


「ねえ、となりに座っても良い?」


「は、はひっ」


 さすが、童貞。


 それくらいのことで、いちいち動揺する。


「よいしょ」


 かなでさんが僕のとなりに来た。


 一気に、良い匂いがする。


 な、何だコレ……


「……ちなみに、だけど」


「はい?」


「光輝くん、いつも私と樹生くんの……聞こえていた?」


 ギクリ!


「な、何が……でしょうか?」


「……エッチの声」


「おふっ……」


 ダメだ、僕みたいな小心者は、とても堪えきれない。


「……ごめんなさい、バッチリ聞いて、シコっていました」


「シ、シコっ……」


「あっ……」


「……げ、元気なのね」


 そ、その優しさが逆にクルウウウウウウウウウゥ!!


「じゃあ、光輝くんも……シたい?」


「えっ?」


「私と……そいうこと……」


 かなでさんが、上目遣いに僕を見つめる。


 えっ、なにこの急展開?


 ていうか、ずっと急展開だけど。


「しょ、正直に言って……シたいです」


「そっか……」


 と頷くと、かなでさんはおもむろに、制服のボタンを外し始める。


「えっ、か、かなでさん……?」


「良いよ、私。光輝くんが望むこと……みんなさせてあげる」


 そ、それは……


 その柔らかそうな唇とキスして、その大きな胸を揉みしだき、同じく大きなお尻も揉みしだき、そして……パンパンッ。


 シ、シてぇ、かなでさんと、愛あるいちゃラブおせっくすを。


 でも……


「……今はやめておきましょう」


「あっ……ごめんなさい、いきなりがっついて。気持ち悪いわよね?」


「いえ、かなでさんは1ミリも気持ち悪くありません」


「本当に?」


「ただ、その、カラダだけの関係になりたくないと言いますか……」


「……嬉しい、そんなこと言ってくれて」


「いやぁ……」


「じゃあ、ゆっくり少しずつ……ねっ?」


 かなでさんの柔らかな手がそっと触れてくれる。


「……は、はひっ」


 そして、やはり僕はキモい。







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