35話-ドナーの成れの果て-
「もしかして?」
「──いや。今はやめておく」
カルマンはなにかを言いかけていたはずなのに、僕に確認されたとたん口を噤み、そう答えを出す。
「? まぁ別にいいけどさ、さっきの化け物なんなの!? ほんとカルマンが来てくれなかったら、僕死んでたよ〜」
僕は命の恩人だね。カルマンに足を向けて寝れなくなった。なんて言いながらも精一杯感謝を伝えた。
まぁカルマンは、やるべきことをしたまでだ。とかなんとか言って、かなり格好つけていたけど。
「おまえは俺の顔に足を向けて寝る予定だったのか? とんだ常識知らずだな。」
「アレは言葉のあやってモノ! カルマンはもう少し勉強するべきだと思う!」
「そんな勉強をしてなんになる?」
「あー! もういいよ! 僕が悪かった! それでさっきのは一体なんなの?」
カルマンはどうや勉強というものが苦手なようだ。かなり嫌そうな顔をしながらも、間違っていそうな正論を僕に向け、その視線がかなり痛々しい。
僕は根負けして謝罪するけど、
「ほんとうにキャンキャンとうるさい
カルマンは耳に小指を差しながらかなり不愉快そうに眉間にこれでもかと皺を寄せ、なんとも言い難い恐怖させるような雰囲気を放ち、化け物の正体を教えてくれた。
「えっ? 成れの果てってあんな感じなの? どうして大量発生したの?」
僕は想像とは違った
だけど今回は優に十人以上いた。だけどカルマンが僕のピンチに駆けつけてくれた時、またか。と言っていたような……。つまりそれ以上討伐した可能性があるってことだよね?
「俺にも解らん。だが、人為的に仕組まれた可能性があると見ている」
カルマンはそう言いながら、自分の憶測を語り始めた。
「人為的?」
「あぁ。本来、大量発生するはずのない成れの果てが今日、一日で既に百体以上は出没している。その殆どに自我もなく、普段はしない香りを放っていた」
「えっと──成れの果てって、自我があるの?」
「稀にな。確率的には三十体いれば一、二体ほどの確率だが、今回は百以上を相手にしている。その誰一人として自我を持たなかったことが不可解だ」
「今回は自我を持たない成れの果てしかいなかっただけじゃないの? それに臭いって?」
僕はそんな確率なら全員が自我を持っていない時もあるよ〜。なんて笑いながら一蹴しつつも、臭いに関して確認する。
「その線もなくはないと思うが……いや。有り得ないだろう。自我をなくすということは、そいつの人生はなにも記憶に残らないほど堕落したものになる。いくら
「えっと──。カルマンの話を整理すると、成れの果ては強い意志や記憶があれば、自我を持てると?」
「あぁ」
そんなことも判らないのか? そう言いたげに無愛想に相槌を打つカルマン。
「どうして自我を持つ成れの果てが少ないの?」
「それは簡単だろ?
「えっ、でも僕は自分の意思? でなりにきたよ?」
「おまえは異例だ。それからただのバカだ」
「はぁ!? 僕はバカじゃないし! 普通だもん普通!」
「そういうすぐにムキになるところがバカだと思うぞ?」
「ぐぬぬ──」
そんな会話をしながらも、どうやら
恐怖や飢えなんかの
逆に
自我が芽生える成れの果てが少ないのはここら辺が関係しているということかな?
「で、香りの方は?」
「甘い香りだ」
「甘い……香り? それはどんな?」
「例えるならば鼻につくような甘ったるい臭いと言うべきか……いや、解らん。そんな感じだ」
カルマンは少し考えたあと、自信の知る甘い香りとはまた違うのか、思考を放棄し投げやりな態度で微妙な回答を僕に押付けてきた。
「解らないって……」
僕は眉を下げながら苦笑する。
そう言えば……以前、
まぁ、関係のないことか。
僕は一瞬、そんなことを思い出したけど、多分関係のないこと。そう切り捨て口にはしなかった。
「解らないものを考えたところで解らないんだ。考えるだけ無駄だろ? それから、おまえは最近メテオリットや成れの果てに会いすぎている。夜間の外出は控えろ」
「まぁそうだけど……。って、僕のことをやんちゃかなにかだと勘違いしてない!? 今回も前回もたまたまだからね! 僕、夜遊びなんてしないし!」
「そんなことどうでも良……。いやちょっと待て」
カルマンは僕が夜に出歩いたタイミングや化け物たちに会う確率が高いことに気づき、そう言ったあと顎に手を置きなにかを悶々と考え始めた。
ここは待っておくべきなんだろうな〜。なんて思いながらも僕は、立っているのも疲れてきたしと木の根元に腰を下ろし、カルマンが口を開くのを待った。
ふわぁ──。
「──おまえ、俺に協力しろ」
僕はそろそろ眠くなって、大きな欠伸をしながらもウトウトしていると、なにを思ったのか? カルマンは脈絡もなしに理解不能なことを言い始めた。
「協力……?」
「あぁ」
「なんの?」
「
それを聞き、僕はカルマンの考えがなんとなく解ってしまった。
多分、〔おまえはメテオリットなんかに遭遇する才能がある。これを使わないほかあると思うか?〕とかなんとか言い出すんだよきっと。
は──。やだよ怖いもん。
「おまえは表情が豊かすぎるな。なにを考えている?」
カルマンはお得意の殺し笑いをしながら僕をなじる。
こういうところも嫌いだ。僕よりちょーっと大人だからって直ぐに僕を子供扱いする!
僕はムスッとしながらいつも以上にカルマンを睨みつけてあげた。
「そんな小動物のような睨みをされても効かん。まぁそれはどうでも良い。おまえは俺と契約するんだ。それに
どこか威圧をまとうカルマンに、一瞬気負わされるところだったけどなんか違う!
「僕とカルマンが結ぶのは、〔専属契約!〕奴隷になる気なんて更々ないから!」
「フッ。よく覚えているな。解っている。だが
「こ……。うぅ……それは……、カルマンずるい!」
「理由は特にないんだな? まぁあったところでどうせ『怖い』とかそんなんだろ? なら要請を受けるで決まりだな」
カルマンは僕の弱みにつけ入るようにニタッと口角を上げ、不敵な笑みを見せた。
「そうだよ! 怖いんだよ! 怖がりで悪かったね!」
僕は不貞腐れ気味に顔を背け、カルマンを邪険にする。
「まぁそんなに拗ねるな。おまえのことは俺が守る。なにがあってもだ」
「えっ?」
急にカルマンが格好良いことを言い出すから、僕は言葉を失う。
そんな混乱する僕を見てカルマンは、僕の頭をポンポンと数回優しく叩いたあと、どうせ家にも帰れないだろ? なんて子供扱いしてきて、結局家まで送ってもらった。
家に帰ると、母さんはかなり心配した様子で僕をギュッと抱きしめてくれた。その手からは恐怖や不安なんかを帯びた震えをまとっていたけど、それを隠すように優しく微笑み、
「おかえりなさい」
そう言い、僕を家の中に入れてくれた。
いつの間にかカルマンは姿をくらましていたけど、ヘレナとお出かけてしていたこともあり、母さんからなんとか叱られずにすんだ。
だけど、次からはもう少し早く帰ってきてちょうだい。と注意を受けることになった。
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