34話-不気味な怪物との遭遇-
ヘレナからどうしてバカだなんて言われたのか? そんなことを悶々と考えながら歩いていると
ガサッ
なにかが草蔭で蠢く。
「ヒャッ!」
僕は調子っぱずれな一声を発したあと、キョロりと辺りを見渡し安堵する。
誰もいない。大丈夫、きっと動物だ。僕は怖がりなんかじゃない。そう自分に言い聞かせるけどやっぱり怖い。
さっき音がした草陰を通らなければ家には帰れない……。
大丈夫、大丈夫だよリーウィン。そうなんども言い聞かせ、深呼吸を数回。
腹を決め全速力でその草陰を走り抜けようと、一歩大きく踏み出し地面を蹴りあげる。
少し固めの土が蹴りあげた衝撃で、宙を舞う感覚。大丈夫、ちゃんと走れる。
そう確認し一歩、また一歩と脚を前に出し草陰の終点付近まで着き、安堵という灯火が僕の心に光を示す。
なにもなかった! 良かった! そう思い速度を弛めた瞬間、
ぎゅあああぁぁああぁぁ!
草陰から僕を狙っていた様に、体全身土黄色をし、目が窪み眼球がない人ならざるモノが奇声を発し僕に襲いかかってきた。
「嫌ァァァァァ! 無理! 来ないで、あっちいってぇぇぇぇぇぇ!」
多分僕は今、女の子さながらの大発狂をしているのだと思う。
怖い。無理。なにこれ!? 人じゃないよ。どうしよ……誰か助けてぇぇぇぇぇ──!
そう思うと同時に目から熱い水が溜まっていく。
人ってパニックに陥ると、頭が真っ白になるなんて言うけど、絶対あれは嘘。頭は真っ白になるけど、逃げなきゃって頭で警報がずっとなってるもん!
だけど周りに人がいないこんな場所で、そんな声に反応するものなんてたかが知れている。
僕の絶叫にも近い悲鳴は、僕を襲おうとした気味の悪い化け物を呼び寄せるだけだった。
「いや無理無理無理!ほんと無理だから! 僕を食べてもなんもいいことないよ! だからお願い! どっか行って!」
僕は震えを制御しながら目をギュッと瞑り、ナニカ武器になるようなものがあれば! そう思い、とっさにカルマンが持っていた大鎌のようなものをイメージする。
ピカッ──
僕がとっさにイメージをした瞬間、眩いほどの光が目の前に現れ、それと同時に化け物が足を止める。
「えっ、なにこれ……」
光が収まると、なぜか僕の手にはカルマンの大鎌──とは言い難い、あまり殺傷能力がなさそうな鎌もどきがあった。
カルマンの持っていた大鎌は先端が鋭く尖り、いかにも強そうだけど、僕の手元にある鎌は、先端は丸みを帯びていてなんというか痛くなさそう……。せいぜい背中とかをかく時に丁度よさそうな……孫の手? みたいな感じかな。
「よく解らないけど……」
僕はそう呟きながらも武器が手元にある。これは戦えとクトロケシス神が言っているんだ。そう考え、震える足に力を込め必死に立ち上がり鎌を構える。
それと同時に、さっきまで足を止めていた化け物たちが動きを再開させる。
動きはだいぶ遅い。これならば僕でもなんとか! そう思い鎌を振るってみるけど、現実はそう甘くなかった。
化け物に鎌を直撃させることはできたけど、僕の握る鎌は当たると同時にゴムのようにグニャリと変形して離すと元に戻っていく。
一瞬、化け物たちは唖然とした態度を取っていたが、攻撃能力がないと解るや否や、僕に襲いかかろうと迫り寄ってくる。
「いやぁぁ〜! ごめんなさい。僕が悪かったから許してお願いだから! ねぇ、ほんと! 無理だって!」
僕は悲鳴に似た叫び声を上げながら、必死に堪えていた涙をボロボロと零し、誰でもいいから助けて! カルマン……ヘレナ……お願い……誰か来て! そう心中でこん願する。
すると、その声に呼び寄せられたのか、それとも偶然か──。
「チッ。ここにも居たか」
なんて言いながら、聞き馴染みのある声が僕の頭上に落ち、それと同時にグシャッとなにかが潰れるような音が鋭く鼓膜を通り過ぎて行った。
その音は、以前カルマンが握りつぶした魂の音とは異なり、かなり低音めいている。
「おい女、おまえはここでなにをしている」
暗がりで誰かも認知できていないその声は、僕を女性と勘違いした様子で苛立ちをぶつけてくる。
「僕は男だよ! カルマンなんで解んないかなぁ!?」
僕は恐怖や不安なんかでもうてんてこ舞いすぎて、その不満や怒りをぶつけるように声の主、カルマンにぶつける。
「はぁ?」
カルマンは言葉を失ったかのようにポカンと口を開け、なにを言っているんだ? と首をひねる。
「だーかーらー! 僕だって! なんでそんなに目が悪いのさ!
「おまえ──フッ。窮鼠猫を噛むって奴だな」
カルマンはようやく思考が追いついたのか、一白置いたあと鼻で笑う。
あー! もうなんでよりにもよってカルマンなんかが来るんだよ! そりゃ教会の最強兵器だから戦力としては申し分ないよ!? でも、カルマンのこういうところ嫌い! 僕、バカにされてるの解るもん!
僕はそんな不満をブツブツと、声には出さずお腹の中に垂れ流し昇華していく。
「おまえの目が良すぎるだけだ。普通、この暗がりで誰かを認識するのは──っと、こんな無駄話をする前にやるべきことがあったな」
カルマンはそう言いながら襲いかかってくる複数体の化け物を一人で相手していく。
カルマンが武器である大鎌を一振すると、化け物の首が勢いよく体から切り離され、宙へ。
そのあとまた一振すると、グシャッと不快音を立てながら、体を叩き潰すかのように崩れていく。
それを全部の化け物を崩れていくまで続ける。
僕はここで静観──。
そう言いたかったけど、どうやら化け物は首と体が切り離されても別々の個体のように動くらしい。
首から上だけになった化け物は、宙を舞っていたかと思うと重力で地面に落ちながらも転がり、カルマンの足元に噛み付こうとする。
あれに噛まれると、なぜか解らないけどダメな気がする。
僕は嫌な予感を胸に、鎌が役に立たないなら弓でもなんでも良いから、さっきみたいに飛び道具出てきてよ! なんて無理な願いを心の中で叫ぶ。
だけどやっぱり無理なのか、さっきのような反応はない。
僕がそんなことを願っている間にも、化け物は徐々に、徐々にカルマンへ近づいている。
それに気づいたカルマンは器用に鎌の柄で化け物の頭部を砕いたり、かと思えば鋭い刃で切り裂いたりしている。
これが兵器と呼ばれる所以なのか。そう感心していると、見落としたであろう化け物の首が、勢いよくカルマンの足元へ転がっていく。
ダメ! カルマンが食べられちゃう! もう弓でいいから出てよ!
「危ない!」
そんな強い願いと声を同時に発し、僕は危険を報せる。
パアアァ──
僕の願いに呼応してか、はたまた偶然か。先程と同じような眩い光が僕の手から放たれ、目が眩むように化け物も、カルマンも動きを静止した。
光が収まるとこれまた不思議なことに、僕の手には弓が握られている。
どういう原理? 僕はキョトリと呆気に取られていたけど、ハッと我に返り化け物に向かって無我夢中に矢を射る。
弓矢なんて扱ったことがないから素人さながらの動きだ。
だけど、カルマンを助けたい。この弓矢は絶対に化け物を貫通する。そんな願いを込めて放った。
ヒュンッ
やっぱり素人の僕では弓なんてものは扱えないらしい。
矢はあらぬ方向へ飛んでいき、威力を〔殺す〕ことなく草木を薙ぎ払いながらも飛んでいく。
僕が誰かを救うなんて無理な話だったんだ。そう悲観していると、
ズシャッ――
方向転換して戻ってきた矢がカルマンの足を噛もうとしていた化け物に命中し、地面に大きな穴を開ける。
カルマンも一緒にその穴へ──。
やってしまった……。そう顔を青くさせていると、バランスを崩しながらも地面を蹴り上げ、カルマンは地上へ猫のような動きで戻ってきた。
はっ? そんな動きあり!? それ人間のする動きじゃないよ! っていうか、フェルですらそんなことできないと思……ってフェルはイヌ科だった。
僕は喉の奥に指を突っ込まれたような衝撃を受けながら目を
「──おまえっ!」
そして現実離れしたことがらに目を点としていると、カルマンが声を荒らげ僕を突き刺すような目で怒声を浴びせる。
「えっ?」
「えっ? じゃない! なんだ今の威力。しかもさっきのはどっから出した!」
カルマンは炎のような激しい怒りの矛先を化け物に向け、一網打尽にしながらも僕に聞く。
「えっと……なんかカルマンを助けれるような武器があれば! って願ったら、ピカッてなって、ピカッて消えたら手元になんかあって……それでえっと──」
さすがに僕自身、なぜ急に現れたのかなんて理解出来ていないから、うまく説明出来ずに身振り手振りさせ、語彙力なんて皆無な態度で必死に説明続けた。
「おまえもしかして──」
僕が説明し終えると、いつの間にかカルマンの方も片付いていたらしい。
土黄色の塊を背景に、カルマンが僕の方へゆっくりと歩いてこようとしていた。
「もしかして?」
「──いや。今はやめておく」
カルマンはなにかを言いかけていたはずなのに、僕に確認されたとたん口を噤み、そう答えを出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます