未完の魂《ゼーレ》(仮)
月末了瑞
序章
001-とある日の……-
母さんとの話し合いで
それは突然だった。
急に明日、二つのチームに分かれ、メテオリットの欠片を討伐した時間を競うと、カルマンから説明されたことが始まりだった。
その試合でヌワトルフ神父の目に留まれば教会内での権力が増すだとかそんな噂もあるようで──。
「ということだ。明日は絶対来い」
だけど、僕が最初に思ったのは「意味が解らない」だ。
まぁ本当に意味が解らないよね。
だって討伐対象である〔メテオリットの欠片〕をただ倒すんじゃなくて、勝負をするの!? しかもどうして、全員強制参加なわけ!?
まぁどうしても外せない用事がある場合、開催日の一週間前に伝えておけば回避はできたらしいけど……。
「どうして前日に伝えるの!? それも夕方! もう一日もないじゃないか!?」
僕はカルマンの非常識さに思わず、唾を飛ばしながら捲し立てるように早口で聞く。
本当、カルマンは元から頭が可笑しいから良いとしても、これを考えた人は頭が可笑しいんだと思う!
誰が考えたの!? ていうか一度、
「ま、まぁ落ち着け……決まったものは仕方ないだろ?」
カルマンは今まで見たことのない僕の豹変ぶりに驚き、圧倒されるかのような態度で僕を宥めようとしてくる。
だけど──。
「どうして前日の! しかも夕方に! 決まったって連絡してくるのさ!」
いくらカルマンが僕を落ち着かせようとしても火に油を注ぐ結果になってしまう。
カルマンは苦笑しながらボソリと「済まない」と僕に謝罪するしかなかったらしく、子犬のようにしょぼくれる。
「なーに子犬みたいにしょぼんとしてるのさ! それに、済まないってなにさ!? まさかまた忘れてただとか、忙しかったって言いわけするつもり!? カルマンのあんぽんたん!」
そんなカルマンに僕は、責めるように捲し立てる。
「あっ、あんぽ? ……いや、そんな訳ないだろ」
カルマンは口を隠すように手をあて、目を不自然に逸らす。
「嘘つかないで! あからさまな嘘じゃないか! 君はフェルと同じく都合が悪くなるとそうやって!……」
僕が苛立ちをぶつけていると、カルマンにとっての救世主が現れる。
「まぁまぁ、リーウィンちゃん落ち着いて〜。カルマン様も玄関で立って話すのも疲れると思いますし、どうぞリーウィンの部屋でお話してくださいな〜」
そう、母さんの登場だ。
母さんは、にこやかな笑みを浮かべカルマンを家に招き入れる。
「母さん! こんな非常識な人に様もつけなくていいと思うし、家にも入れなくて良いと思う!」
僕は母さんにそう言うけど、母さんは「一応
「はぁ──」
僕は呆れ返り、言葉が出なくなってしまった。
そんな僕を見てだかカルマンは
「いや、いい……」
と母さんの折角の行為を無下にしようとするから、
「母さんが折角、好意でそう言ってくれてるのに断るんだ」
と僕が睨むとカルマンは、
「おまえなぁ……」
とボヤきながら家に入ってきた。
この時にはある程度、カルマンとの関係もそこまで悪くはなく、どちらかと言うとこんなやり取りが普通になっていた。
前みたいに嫌い! という感情もほんと薄くなっているから不思議なものだ。
そんなこんなでカルマンの非常識さに辟易としながらも部屋に戻ると、フェルが最近、母さんから買い与えてもらったスケッチブックとクレヨンで茶色い塊の様なイラストと、カルマンに似た人物の絵を描いていた。
「フェルそれは何?」
「これはう○こまみれになった
フェルはどうだ! 傑作だろ! と誇らしげな態度で僕に見せびらかしてくるけど、その後ろにカルマンが居ることに気づき急いで逃げようとする。
だけどフェルの身体の大きさじゃ、カルマンのリーチの長さには勝ち目がない。
フェルは呆気なく捕まり、かなりのお叱りを受けていた。
そんなカルマンを睨みながらもフェルは泣きべそをかき、反撃する隙を狙うけど、カルマンにそれを見透かされ、もっと怒られていたのは言うまでもなく。
「はぁ──」
僕はこの二人が顔を合わせると毎回ろくなことがないなと溜め息を漏らし、二人の様子をただ止めることもせず眺めていた。
そんな二人のやり取りを眺めていると、カルマンはふとなにを思ったのか、僕に厚紙とペンと紐を寄越せと横暴な態度で言ってきた。
僕はなにをするのか解らないまま言われた通りカルマンにそれらを渡し、ただただ眺めているとカルマンは僕が渡した紙にペンで何かを書き始め、書き終わったものをフェルに手渡し
「これを首からかけて
僕はなにをさせる気なんだろ? と思い、それを眺めていると、フェルが首から掛けた厚紙には
〝オレサマはカルマンにとても臭いナニカを当てただけでは留まらず、カルマンをう○こ塗れにするイラストを描いて反省中です〟
と書かれていた。
「なんだこれは?」
カルマンはそう言いキョトンとして僕の顔をまじまじと見る。
「良いからこれを首にかけて、フェルの隣で跪坐して」
「……?」
カルマンは俺になにをさせるんだ? とキョトンとしたまま、僕に言われた通り、フェルの隣で跪坐する。
なにが書かれているのか気になるのか、カルマンが俯いていたところ、僕の部屋の扉を叩く音がし、母さんがにこやかな笑顔で入ってきた。
「カルマン様〜。もうすぐご飯ができるのですが食べていかれますか〜?」
母さんはそう言いながら、カルマンを見て肩を小刻み震えさせる。
僕にもなぜ笑ってるか解らないけど、書いた言葉は
〝俺は伝えるべき重要な内容を伝え忘れ自主反省中です〟
と書いただけなんだけどね。
笑いを必死に堪える母さんとは裏腹に、なぜ笑いを堪えているのか解らないカルマンはキョトンとしたあと、少し腹が立ったのか「遠慮しておく」とぶっきらぼうに答えた。
「反省中だからその判断は良いと思うけど、折角だし母さんのご飯食べていきなよ」
僕はカルマンの肩にポンッと手を置きニコッと満面の笑みを浮かべ圧をかける。
「……おまえ、今日はキャラが変わりすぎじゃないか?」
カルマンはなにか言いたげな表情を浮かべ、少し黙り込んだあとそう言う。
「そんなことないと思うけど? それにこんな風にさせたのはカルマンの自業自得だよ? いわゆるざまぁだと思う!」
僕はそう言い、母さんが晩御飯を作り終えるまで待とうねと伝え、そのまま三十分程、跪坐させた。
三十分後、フェルもカルマンも足が痺れて動けないと、悶え苦しんでいたから悪戯心に火がつき、痺れたと言う足を人差し指でつついてみた。
カルマンもフェルも「あっ〜!」なんて声を震わせ面白い奇声を上げながらのたうち回っていたから、僕はケタケタと大爆笑していると、二人から反感を買ったのか、痺れが納まったあと、やり返されたのはまぁ内緒ということで。
そのあとはカルマンを含む四人で少し遅めのご飯を食べる。
母さんは張り切っていたのか、普段とは異なる豪華な食事が出てきて、僕もフェルも目を輝かせ、唾を飲み気がつくとあっという間にご飯はなくなっていた。
ただ唯一カルマンだけは「普通に美味いな」と言って特に感動もなにもないままゆっくりとご飯を食べていた。
母さんのご飯に感動を示さないなんてどんなバカ舌だ! なんて思いながらもカルマンのことだからまぁ……有り得るかな?
そう考えながらその日は二十時頃にカルマンは僕の家をあとにし、帰路へ向かった。
そのあと母さんに、
「明日、二つのチームに分かれてメテオリット討伐戦があるらしい」
と伝えると、母さんは
「私もリーウィンちゃんの応援に行ってもいいかしら?」
なんて冗談で言うから本気にせず
「良いと思うよ」
なんて冗談で返し、その日は就寝した。
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