おなじくらい

梅林 冬実

おなじくらい

「あいつと同じくらい 残業が嫌いだ」


お腹の辺り ゾワゾワが消えない

残業と同じくらいじゃないんだな

私と同じくらい残業が嫌いなんだな

なんかさ 事態の重さを感じるよね


恋人が帰るはずの部屋

片付けといて

洗濯しといて

夕飯いらないや

いつもの注文 いつも通りお受けして

丁寧にこなしたのにこの言い草ってさ


片付け途中のデスク

触っちゃいけない場所くらい知ってる

だけど 肘で倒しちゃったブックエンド

床に落ちちゃったらさ

拾い上げないわけにいかないじゃない?


何このノート

何この言い草

せめて書き殴れよ

何だよこの整然と並んだ丁寧な字は

想い込めるんじゃないよ

一字一字から伝わってくるよ

この部屋の主の気持ち


お母さんみたい


言われたのはいつだったか

恋人にお母さん認定されることを

喜んではいけない

女性として見ていないと

伝えられたも同義だもの


気をつけなくちゃと思った

お母さんになるのはもう少し先だって

そこに間違いはないんだろうけどね

私がお母さんデビューするとき

一緒にお父さんデビューする人は

どうやらこの人ではないらしい


私と同じくらい残業が嫌いだってさ

昨日も一昨日もその前も

もうずーっと残業続きの毎日だから

疲れてるのかも知れないけどね

私 家政婦じゃないんだわ


お母さんはお母さんらしく

息子所有のイケナイ書物を

見つけたときみたく

机にどーんとこのページ開いたまま

去ってあげるよ


独り立ちのとき

祝ってあげる

おめでとうって言ってあげる


迷惑がられてるの

長いこと 気付けなくてごめんね とも


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おなじくらい 梅林 冬実 @umemomosakura333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る