2章 - 銀河連邦 星間宇宙軍

次の目的地

「あたしは、まずデイジーの故郷の村へ行くべきだと思う」

 一息ついてから、あたしは言った。


 ……いや、クリスを救出してからは、そりゃ色々大変だったんだよ。フェルディナ星には、もういられなくなったから、脱出しなけりゃいけなかったしね。ああ、あの時のベティはすごかったよ!


「このまま、フェルディナ星から離脱します! 緊急脱出になりますから、皆さんは早くシートについて、ベルトを締めてください!」

 ブリッジに集まっていたあたしらは、バタバタとシートに着いてからベルトを締めた。

「ベティ? レーダーには捕捉されないって言ってたけど、それ以外で心配なこととかないのかい? システムは、システムで破れるんだろ?」


 考えてみりゃ、あたしもつまらないことを言ったもんだと思ったが、ベティはそんなあたしの下手な突っ込みなんぞ、ふふんって感じで言って返したんだ。

「ジャンヌ・ダルク号のステルスシステム、及びその他の各探知阻害システムは、この星系の技術の50年は先をいっていますから、全く問題ありません」

 もしかしてラスタマラ家の業務回線がベティに筒抜けだったのも、その辺が関係あるのかねぇ……。


 それから、フェルディナ星からしばらく離れて、ようやく一安心できた辺りで、これからどうしようかって話になったんで、あたしのさっきのセリフになったってわけさ。


「デイジーの故郷って、座標データはありますの?」

 クリスが言う。まあ、それなんだよね。イマジナリーズの集落なんて、出身者でなきゃ知りえない情報なんだが、デイジーはさらわれてここにいるわけだから、星の座標なんてわかりっこないんだ。

「少し時間をください、あてがあるかもしれません」

 うーん、結局ベティ頼みになっちゃうなぁ。


 あたしは、ベティがデイジーの故郷星の座標データを調べている間に、デイジーに聞いておかないといけないことがあると思って聞いた。

「デイジー? ビースト・ハンター……、例のイマジナリーズにさらわれた時のことって、説明できるかい?」

 あたしは、クリスの故郷で起きたことが、デイジーの故郷では起きなかったことを祈りながら聞いたんだ。

 

「あの時、僕は一人で留守番をしていたんです。そうしたら、急にひどい頭痛がしてきて、そのまま気を失ったらしくて……、気が付いたら、知らない宇宙船ふねに乗せられてて、そのままフェルディナ星へ連れてこられたみたいです」

 デイジーは、膝の上に乗ったキィを撫でながら言った。


 あたしは、Iアイ-ジャマーだな……、と思いつつ、少なくともはっきりとデイジーの故郷が襲撃されたとはわからなかったので、少しほっとした。まだ奴が支配ドミネイトのイマジナリーズの村を襲撃しなかったとはわからないが、奴がデイジーを傷つけようとしなかったことなどから考えても、希望を持っていいんじゃないかと思った。


「デイジーの故郷の村がある星の座標がわかりました」

 ベティが口を挟んだ。はやっ! さすがはベティ……、あたしは、一応聞いてみた。

「あたしが聞いてわかるか自信ないけど、どうやったんだい? ベティ?」


 ベティは、さも当然というように言った。

「例のイマジナリーズが、ビースト・ハンターとしてその星を訪れたときのデータがどこかにあるはずだと思って、ラスタマラ家のデータバンクを探していたんです。そうしたら、ラスタマラ家関連の者ではない人物名義の宇宙船ふねが500隻ほどみつかったので、しらみつぶしに各船のデータを探していたところ、『デュラン』という人物名義の宇宙船ふねのローカルデータベースに、ラスタマラ家のデータバンクにない座標の星のデータを見つけたのです。その宇宙船ふね以外のデータを探しても、他にラスタマラ家のデータバンクにない座標の星のデータはありませんでしたから、ほぼ間違いないでしょう。……実際は削除されていたのですが、まだ分散されたダストデータが復元可能な範囲で残っていたので取り出せました。どうも『デュラン』という人物は、あまりシステムには詳しくない人物のようですね」


 やっぱり、わからなかった! あたしは、試しにクリスに聞いてみた。

「ありがとう、ベティ。せっかく教えてもらったけど、あたしは半分も理解できた自信がないよ……、クリスは?」

 クリスは、肩をすくめて答えた。

「とっくに諦めてますわ」

 ベティがいてくれて、ほんとよかった……。


「ところでさ、クリス」

 今更ながら、という感じで、あたしはクリスに聞いた。

「デイジーをラスタマラ家から保護したところで、形式上、あたしの依頼は終わったことになる気がするんだが、あたしはこのまま、ジャンヌ・ダルク号にいていいのかね?」


 クリスは、あたしの方に顔を向けて、片眉を数ミリほど上げて言った。

「……それ、ベティの前で聞きますの?」

「ジョアンんん……、ジャンヌ・ダルク号を降りるつもりなんですか?」

 ベティが、すかさず口を挟んだ。今にも泣きだしそうな声……、いや、もう泣き出していた。あたしは、慌てて言った。

「ごめん! 悪かったよ! 別にジャンヌ・ダルク号を降りたいわけじゃないんだ。トレジャー・ハンター稼業が長いと、つい契約みたいなものを意識しちまうだけなんだ。ごめんよ、ベティ」


「そういえば、報酬のお話をしていなかったですわね? 言い値で払いますわ、いくら欲しいんですの?」

 く……、クリスがしつっこい……、いらんことでベティを泣かせたことに腹を立ててるらしい。今まで気にしていなかったが、もしかしてクリスって、怒らせると怖いやつなのか……。

 あたしは、両手を挙げて降参して言った。

「悪かったってば! そういじめないでくれよ。報酬は、デイジーの笑顔さ、もうもらっちまってるよ」


「ふうん、デイジーの笑顔……」

「僕の笑顔? ……」

 クリスとデイジーが、顔を見合わせてくすくす笑い出した。くっそ! クリスめ、そんなにいじめることないだろ……。あたしは、大急ぎで話題を変えた。

「ベティ? デイジーの故郷の星には、どのくらいで着きそうなんだ?」


「デイジーの笑顔……」

 くっそ! ベティまで!

「ベティイ~~!!」


「だって、ジョアンが寂しいことを言うからですよ。少しはいじわるも言いたくなります」

 ベティがくすくす笑いながら言った。あたしは、改めてベティに詫びた。

「ごめんよ、ベティ。あたしは、貧乏性でさ。いつも自分の足元を確認してないと、落ち着かなくなっちまうようなところがあるのさ。別にクリスやベティ、デイジーの気持ちを疑ったりしてるわけじゃないんだよ、わかってくれるかい?」


 ベティは、明るく言った。

「そうなんですね、わかりました。こちらこそ、いじわる言ったりしてごめんなさい。ところで、もうデイジーの故郷の星を目的地にして、出発していいんですか?」


 あたしは、肩をすくめて言った。

「多分、それを決めるのはクリスだな。クリス? どうする?」

 あたしの言葉を受けて、クリスは改めてデイジーに向かって聞いた。

「デイジー? 私たちは、あなたの故郷へ行ってもいいかしら? 私たちとしては、デイジーを一旦親御さんのところにお返しして、親御さんともご相談の上、改めてデイジーの今後のことを考えたいの」


 デイジーは、笑顔で言った。

「はい! お願いします、クリスティーナさん!」

「クリスティーナさん?」

 クリスは、にっこり笑って言った。

「あら、違うでしょう? デイジー?」

 デイジーは、少し照れながら言った。

「うん、よろしくね、クリス……」

「はい、よくできました!」

 クリスもにっこり笑って答えた。うーん、子どもには甘いんだな、クリス……。


 改めてクリスが言う。

「ベティ? それでは、デイジーの故郷の星へ出発しますわ。お願いね」

 ベティもそれに答えて言った。

「はい! お任せください、目的地までの到達日数は、おおよそ20日く間らいです。燃料、食料、水、その他の細々としたものについては、ファナの宇宙港にいる間に全て補給を済ませておいたので問題ありませんが、目的地についてからそれらの物品を調達できるかわかりませんので、途中、どこかで補給することを考えた方がよいかもしれません」


 そうか、ベティはテリエス家に潜入する前から、緊急脱出の可能性を考慮してたってわけか。さすがベティ……、しかし……。

「デイジーの故郷って辺境なんだろ? 途中に燃料やらを補給できるところなんてあるのかい? あたしらってお尋ねものなんじゃないか?」


 ベティは、説明してくれた。

「はい、そこは中継する星系を考慮した上での20日間なんです。まっすぐ行けばもう少し早い日数で到着できるのですが、まだネットワークとしてディマジラ星系との情報連携が充分ではない、いくつかの星系を候補にして、それらを経由してデイジーの故郷に向かう経路ルートです」


 なるほど……と思っていると、クリスがあたしを見てにやにやしていた。

「ジョアン? あなたは、まだベティの優秀さがわかっていないみたいですわね……」

 もしかして、まださっきのこと根に持ってる?! あたしは、改めて『降参』の仕草をして言った。

「わかってるってば! それこそ、あたしの想像力イマジネイションの及ばない領域なんだよ、ベティの優秀さっていうのはね」

「それと、とても寂しがりやな女の子であることを忘れないことですわ」

 クリスが、くすりと笑って言った。やっと許してもらえたかな、もう二度とクリスを怒らせないように気を付けよう……。


 ベティが言う。

「それじゃあ、ご飯にしましょう! 今日は、デイジーの故郷の星を目指して出発することをお祝いして、少し豪華なご飯にしましたよ!」

 そういや、随分腹が空いてた。その日は、キィも含めて、クリス、デイジー、あたしが揃って、ベティの作ってくれたちょっと豪華なおいしいご飯を堪能したんだ。あたしは、デイジーの故郷がどうか無事であってくれますようにと祈りながら、ベティの作ってくれたご飯を食べたんだ。きっとクリスもベティも、同じ気持ちだったと思う。



to be continued...

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