第3話 盗賊と女海賊3

 ジャックが目の当たりにした光景は、信じられないものだった。


 海が赤く染まっている。その理由は、海が遺体で埋め尽くされていた。


「どういうことなんだ……」


 ジャックは呆然とした。


 何人もの遺体が海にあるだけではない。


 沈没するのも時間の問題だと思われる船があった。その船からすると海賊たちが乗っていたのだと推測できる。


「ううっ……」


 砂浜に倒れている人物が、かすかに声を出す。


 その人物は、びしょ濡れで血だらけだ。


 ジャックは、ガーゼを取り出した。


 止血をしようとその人物に手を伸ばしたときだった。


 その人物は強引に立ち上がる。


「……誰だ……!?」


 何かを取り出そうとしたみたいだが、それがないことに気がつく。


「……剣がない……盗まれたか……」


 その人物は、仕方がないと、ジャックに拳を振り上げた。


 ジャックは、その人物の腕を掴む。


「うわっ……!」


 身体がよろめいたその人物は、すっぽりとジャックの腕にはまった。


「その身体じゃ無理だろ、それに血だらけだし、濡れてるし……」


「離せっ!!」


 腕から離れようと大暴れするその人物。


 ジャックは、その人物を押し倒して、抑えようとした。そのとき、ジャックの手には柔らかい感触。ふっくらとしている。


「何すんだっ!!!!!」


 血だらけで、つい、さっきまで動けなかったはずなのに、おもいっきり、ジャックの股間に蹴りを入れた。


「おうぅぅぅ……!!」


 ジャックは膝をつく。これは、かなり痛い。男の一番弱いところを突いた。


「ってか、おまえ……女……」


 ジャックは痛みに悶えながら、その人物を見る。


 その人物は、薄い赤紫で、耳が隠れるくらいのショートヘア。体型はスレンダーだ。


 よく見れば、血だらけになっていなければ、綺麗な女性だ。


「うるさいっ!! おまえに関係ないだろっ!!」


 その人物、女性は自分自身を抱きしめるようにして、胸を隠す。


「いや……その……胸、触っちまったのは悪かったけどよ……だからって……」


 ジャックはまだ痛いらしい。


 涙目になっている。


「おまえも盗賊か!? もしかして、私の剣盗んだのは、おまえか!?」


 女性はジャックを睨みつけた。


 ジャックはため息をつく。ようやく、痛みが落ち着いてきた。


「勘弁してくれよ! 俺は綺麗な海を見ただけだったのに、血の海になってたから、何事かと様子を見に来ただけだぞ。それに、おまえが倒れてたから、助けようと……」


 女性は、そこで初めて遺体だらけの海を見た。


「まさか……」


 海の中に入っていき、遺体を確認する。


「皆……」


 呆然とした。


 海に浮いている遺体は、女性の海賊仲間たちだ。


「おいっ! しっかりしろ!! ガル!! ルーズ!!」


 ひとり、ひとり、遺体を抱きしめて反応を確かめる。


「えっ……船が……」


 完全に沈没してしまったことを目の当たりにした。顔面蒼白。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 船が、仲間が、全て変わり果てた姿になってしまった。


 助けられなかったことが、悔しくて、海を拳で強く叩きつけた。


 ガクッと一気に力が抜けて、身体がふらつく。


 ジャックは慌てて、女性の身体を受け止めて、海から出る。このままだったら、女性は溺れて死んでしまう。


「おいっ! しっかりしろ!!」


 反応がない。あまりのショックに気を失ってしまったのか。


 ジャックは女性を連れて、どこか休めそうなところを探す。


 数分後、宿屋を借りることができた。


「すみません、ありがとうございます」


 親切な宿屋の男性にお礼を言った。


「いや、いいよ。それにしても物騒だな……ここは平和だと思っていたんだがな」


 宿屋の男性は寂しそうに言った。


「ここ、リドルの街は、何か変わったこと、なかったですか?」


 ジャックは聞いてみる。


 依頼された仕事は、リドルの街で悪さをする盗賊を始末することだ。


 海賊が襲われたことと関係があるのかはわからない。


「あぁ、そうそう、お金やらアクセサリーやら、いろんなものを盗まれていると最近、よく聞く。まだ、うちは大丈夫だけど怖いね。それも、人を殺すっていうし……」


 宿屋の男性は、身震いした。


 ジャックは再び、お礼を言った。


「ありがとうございます」


 宿屋の男性は、いいよ、と手で合図した。


「あの人、無事だといいな」


 ジャックは頷くと、女性を背負って部屋に行き、ベッドに寝かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る