第10話 正妻戦争、開戦!

 俺の恐怖症を治すだって?

 何を突飛なことを!

 ずっと患っていた心の病を治すなんて、出来るのか?


「き、気持ちはありがたいですが、医者にも治せなかったんですよ?」


「医者に出来なくても、私になら出来るんじゃない? 愛の力で、ね?」


「愛、ですか……?」


「そう。私を好きになってくれれば自然と触れたくなるはず。それに私が応えて上げれば恐怖症は克服でしょ?」


 その発想はなかった。カウンセリングやセラピーを受けてきたが、『愛』はまだ投与してない薬だ。

 好きな人に触れたくなる、という発想も理解はできる。

 その方法なら克服出来るかもしれない……。


「愛なら私が注ぎます」


 それに待ったをかけたのは神崎さん。


「むぅ、何よ。神崎ちゃんは黙っててよ」


「黙るのはそっちよ、ビッチ」


「ビッチですって!?」


「初対面の男性に平気で胸を晒すなんてビッチじゃない」


「た、滝人だから良いの。口出さないでよペチャパイ」


「次ペチャパイって言ったら八つ裂きにするわよ」


 神崎さん、目がマジだ。俺を殺した通り魔と同じ目をしてる。そんな彼女は九頭身の神スタイルだがお胸の方は控え目である。


「きゃ〜、怖〜い。滝人助けて〜。ペチャパイ女に殺される〜」


「だからペチャパイって言わないで! ちゃんとあるわよ!」


 さっきまでクールだった神崎さんは我を忘れ、ブラウスのボタンを外して胸を曝け出した。下着はグレーのスポーツブラで色気に欠けるも、確かに膨らみはある。


「あら、可愛らしい。ちゃんとAカップはありそうね」


「ぐっ……」


 だが大島さんの大きさには到底届かない。というかそんな悔しそうな顔するなら勝負しなきゃ良いのに。


「背丈ばっかりあってもその貧相なバストじゃ恐怖症の克服は無理ね。私なら滝人の男性ホルモンをドバドバ出せるから適任よ。そんで私と青春して起業家への道を歩んでもらうから」


「滝人さんは私がスパイに育てます。盛りのついた高校生の相手でもしてなさい、この泥棒猫」


「泥棒猫はそっちでしょ?」


「フーーー!!」


「シャーー!!」


 猫みたいに毛を逆立て威嚇し合う美少女二人。ひえぇ……。


「ふ、二人ともやめて! 滝人くんのお世話は私がするから! 恐怖症も生活面も私が支えてあげるから!」


 唯一の良心と思われた杉野さんも同じ魂胆だ。


 というかこの人達、俺の恐怖症を治した後はそれぞれの未来に俺を連れて行こうとしてない?


 大島さんは借金まみれの起業家に。

 神崎さんは死と隣り合わせのスパイに。

 杉野さんは女に依存するヒモに。


 ………………いや、地獄の三択!

 彼女達と恋人になって恐怖症を克服しても連れてかれる未来がこの中のどれかって最悪なんだけど!?


「あ、あと……胸なら私が一番勝ってます!」


 と、なぜか杉野さんも乳比べに参戦。清水から飛び降りる覚悟でブラウスをご開帳。現れたのはこんもり隆起した二つの山。


「な、何その大きさ!? 未来の私より大きい!?」


「まさかこんなところに脅威が潜んでるなんて……」


 彼女が隠し持ってたモノに慄く二人。杉野さんのお胸はロリフェイスと低い身長に見合わぬ豊満さを誇っている。女子高生にしては十分大きい大島さんの胸がお子様に見えるレベル。

 雑誌に載れば『超高校生級爆乳グラドル!』みたいなキャッチコピーがつきそう。


 そんなご立派なお胸だからつい視線が吸い寄せられて……ってそうじゃない!


「なんで杉野さんまで脱ぐんです!?」


「えっと……私もアピールしないと忘れられちゃうかなって……」


 安直! そして存在感が急に出た気がするから俺って単純!


 まずい、この三人の魅力に抗えない……。


 文句なしな美少女の大島夏海さん。

 神スタイルの綺麗系な神崎夕さん。

 癒し系ロリ巨乳の杉野花菜さん。


 一生に一度出会うかという美少女三人に言い寄られるこの状況、男なら誰もが羨むだろう。俺だって正直流されたい。

 だが彼女達との未来はどれをとっても俺にとって絶望的。

 流されちゃいけない。今度こそ平凡で平和な人生を手に入れるって決めたんだから。


「さ、三人ともその辺で。というか胸をしまってください。それから恐怖症のことは自分でなんとかするのでどうかお構いなく……」


「そんなの認めないわ。滝人は私のカレシで世界を変える男になるの!」


「私こそ認めません。人類が滝人さんを必要としてるんです」


「二人ともダメ! 滝人くんは私の部屋でのんびりしてるのが一番幸せなの!」


 三者三様に願望を口にし、一歩も譲らない。まさに三竦みだ。

 というかどうして俺の希望を誰も聞いてくれないのかな?


「こうなったら早い者勝ちね。誰が最初に滝人の恐怖症を克服させるか……」


「望むところよ」


「負けないもん!」


 挙句俺のことほったらかして争奪戦を開始する始末。どうしてそうなるの?


 こうして俺の平凡な二度目の高校生活はダイナマイトで爆破されたみたいに崩れ去った。


 やっぱり女の人は怖い……。

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