着ぐるみ動画配信者の裏側

MenRyanpeta

第1話 着ぐるみ動画配信者の裏側

(今日は…この娘にしようかな?)


夜の8時前、アパートの一室、京子はクローゼットからあるものを取り出す。

それはアニメのキャラクターの頭、いや、着ぐるみのマスクだ。

クローゼットの中には他に2つほど違うキャラクターのマスクが入っていた。


今回彼女が選んだのは緋色の目、少し黄色みがかった白髪のキャラクターのマスクだ。

そのマスクを見ながら彼女ははにかむように笑い、頬を赤く染めた。

マスクをPCデスクの上に置くと彼女は裸になり、準備していた衣装を身に着けていく。


肌色の全身タイツ、白いガーターベルトとハイニーソックスにショーツ、ブラジャー、かなりタイトで短めな黒いスカート、ピンク色のキャミソール…最後に白のカーディガンを羽織った。

普段地味な恰好を好む彼女の私服とは真逆だった。


これで彼女は顔以外を衣装に覆われた。

全身タイツは結構生地が厚く、防寒用のタイツのように裏起毛が付いている。

そのせいもあって彼女は着てまだ時間がたっていないのに額にうっすら汗をかいていた。


(ふぅぅ…やっぱり暑いね。ちゃんと温度調整しなきゃ)


室温は20度ほどある。

彼女はエアコンのリモコンを手に取り温度を調節する。

しかし設定温度を下げるどころか逆に上げてしまうのだった。


(2、3、4…25度っと、これくらいね。ふふふ♪)


リモコンをデスクの上に戻す。

そして衣装の中に紛れていたあるものを拾い上げ、彼女はそれを見てすこし歪な笑みを浮かべた。

猿轡だ。

大きく口を開け、黒い球体を咥える。


「むぐっ…ふぅ…ふぅ…」


猿轡についたベルトを後ろへ回し、後頭部でベルトをギュッとしめた。

これで彼女は喋れなくなってしまった。


マスクを手に取る。

マスクを頭頂部の蝶番を視点に前後に開き、彼女はゆっくりとマスクで頭を挟んでいく。

頭はすっぽりマスクの中に入り、目の覗き穴の位置を調節する。

マスクの耳の下の部分にロックする金具のようなものが付いていてそれをパチン!パチン!とハメてしまった。

彼女はまるでアニメからそのまま出てきたような等身大の人形に変身した。

部屋の姿見の前でくるりと回り衣装に不備がないか確認している。


「ふぅ…ふぅ…」


マスクの中から少し荒くなった彼女の呼吸音が聞こえた。


(あれも…ちゃんとしないとね)


彼女は何を思い出したかのようにデスクの引き出しから小さな箱と鍵のようなものを取り出した。

そして鍵を手に取ると先ほどロックしたマスクの左の金具の穴に差し込み、鍵を回す。


カチ!


続いて右の金具にも鍵を差し込み施錠してしまった。

マスクを上に持ち上げるが彼女の頭は完全にマスクのなかに密閉されていて、これでは鍵を開けない限り取ることはできない。


「ふぅ…ふぅ…じゅる…ふぅぅ…」


彼女の呼吸が先ほどよりも荒くなっている。

口が開けっ放しになっているせいで垂れそうだった涎を汚らしく吸う音もした。


マスクを施錠し終わると彼女は鍵と一緒に取り出した箱を開け、その中に鍵を入れて閉じてしまった。

箱にはダイヤルとタイマーのようなデジタル時計がついている。

ダイヤルを回す…タイマーが2:00:00になったところでダイヤルをグッと押し込む。


ピッ…ピッ…ピッ…ピピ!カチィ…


電子音とともに何かの金属音、タイマーの数字が減っていく。

1:59:59、1:59:58、1:59:57…どうやら二時間に設定したらしい。


彼女は鍵が入った箱を両手で開けようとする…開かない。

開かないことを確認すると、うんうんと一人で頷きデスクの上に置いた。

彼女の呼吸は先ほどよりも荒くなっていた。


デスクの前の椅子に座り、PCを立ち上げる。

そして動画投稿サイトを開き、小型のカメラとマイクの向きを調整する。


(はぁ…はぁ…よし、ちゃんと映るね。画面の設定もOK、音声もOK。配信スタート)


待機画面を外し、着ぐるみ姿の彼女が画面に映る。

そしてチャット欄に挨拶を打ち込んだ。


▷こんばんわ~今日も配信見に来てくれてありがとう。

▷あとお待たせしちゃってすみません。準備に手間取っちゃって…


視聴者達の優しいコメントが返ってくる。

そんな温かいコメントに彼女は他愛もないチャットをし、会話を繰り返すのだった。

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