ep.3 天才令嬢とかハイスペックすぎるだろ

 「ねえねえ!乃木崎さんってハーフなの!?」


 「ええ。母がイギリス人で、父が日本人です」


 「日本語ぺらぺらじゃん!何年むこうにいたの?」


 「五歳までは日本で育ちました。その後イギリスに引っ越したので、十一年になります。そのため日本語と英語、あとフランス語も話せます」


 「トリリンガルすごっ!てかさ、乃木崎さん家って、もしかしてあの乃木崎製薬の…?」


 「ご存じでしたか。実は父が社長を務めてまして」


 「ま、眩しい…本物のお嬢様だ!」



 授業の合間の休み時間。蘭子の席の周りに、人だかりが出来ていた。


 好奇心に瞳を輝かせた生徒たちからの大量の質問に、蘭子は悠然と、そして明瞭に、一つ一つ答えていく。



 昼休みになると、他クラスからも観衆が集まった。彼らはみな、教室の扉や窓から、煌びやかなオーラを放つ蘭子をガン見していた。


 当の蘭子はというと、さっそく仲良くなった女子たちと昼食をとっていた。


 高級そうな弁当箱には、ローストビーフだの白身魚のムニエルだのが詰まっている。


 蘭子はそれらを美しい所作で口に運び、控えめに咀嚼しては頬を綻ばせていた。



 突然やって来た、イギリス帰りの社長令嬢。



 しかし、蘭子の持つ属性は、これで終わりではなかったのである。




 蘭子が転校してきて二日目。


 「おい、乃木崎」


 朝の始業前のことだった。学年一の頭脳を誇る男、神山かみやま総悟そうごが、突然蘭子に詰め寄ったのである。


 「はい、なんでしょう神山くん」


 既にクラスメイト全員の名前を覚えた蘭子は、乱暴な呼びかけにも丁寧に答えた。


 「神山が乃木崎さんに話しかけたぞ…」


 「ねえ、なんか神山くんの目、血走ってない?」


 「まさか、今から蘭子ちゃんに愛の告白を…?」


 普段から人と話すことなく、一人で読書にふけってばかりの、あの神山が女子に話しかけた。しかも相手は、転校二日目にして学年中にその名を轟かせた少女、乃木崎蘭子。


 教室中の視線が、二人に向けられた。


 「乃木崎…一つ、確認したいことがある」


 「はい、なんでしょう?」


 明らかに緊張した面持ちの総悟に、軽く首を傾げる蘭子。


 「今、付き合ってるヤツとか、いるのか?」


 誰かが呟いた。声がした方向にキッ!と鋭い視線を向ける神山。


 「もしいないんだったら、俺が彼氏に立候補しても、いいかな…?」


 また誰かが、今度は吐息まじりに呟いた。


 「おっ!お前ら、いい加減に…」


 「今は神山くんのターンです。外野は静かにしててもらえますか?」


 神山の言葉に割り込む形で、蘭子が言った。表情自体は笑顔だが、目が全く笑っていない。


 「ス、スミマセン…」


 犯人の男子生徒二人が、肩を縮こませて謝った。「サイテー」と、女子たちが蔑みの目を向ける。


 「す、すまない乃木崎。で、では聞かせてもらうが…」


 申し訳なさそうな神山が、口を開く。


 「洛陽学園の転入試験、満点だったというのは本当か?」


 『……』


 生徒たちの期待と180度違った方角の質問に、教室は静寂に包まれた。


 しかし蘭子は、わずかに口元を上げて言った。



 「はい。私が転入試験で満点を取ったのは、事実ですよ」




 乃木崎蘭子の持つもう一つの属性。


 それは、彼女がまごうことなき「天才」であることだった。

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