いもむし

徒文

いもむし

 はっぱのうえで いもむしが

 もぞとぞと うごいています。


 いもむしは ひとびとから

 よく いしヽヽ

 なげられました。


 すがたが とても

 みにくかったからです。


 やくにたたない

 むし だったからです。


 むしもころさない という

 ことばが あるとおり、

 どんなにやさしい ひとだって

 ふつう むしのことは

 ころすものなのです。


 いもむしは

 じっと たえました。


 いいえ、つよいのでは

 ありません。


 ただ いきたかったので

 たえたのです。



 ときが すぎ、

 いもむしは

 さなぎに なりました。


 いもむしだった ときより

 ずっと ずっと、

 しずかに たえます。


 さなぎは ただ

 じかんの すぎるのを

 まつように しながら、

 まゆヽヽのなかで

 ひっしに がんばりました。



 ながい ながい

 ねんげつが すぎました。


 ながい ながい

 ただ たえるだけの

 じかんは おしまいです。


 そう、さなぎが

 うかヽヽするのです。


 まゆを やぶった

 ちょうちょうの すがたは、

 それは それは

 うつくしく——






 ——ありませんでした。


 どう いつわっても

 かくせない、

 みにくい すがた。


 どう がんばっても

 やくにたてない、

 できそこないの からだ。



 でも、ちょうちょうは

 おちこんだり しません。


 なぜなら むしは

 いきるのに

 ひっし だからです。


 いっしょうけんめい

 いきて いるからです。



 ひとは これからも

 かわらず いしを

 なげるでしょう。


 それで いいのです。


 ひとも むしも

 がんばって

 いきているのだから

 それが いちばん

 いいのです。


 うつくしい ことだけが

 すべて ではないと

 おもうのです。



 ちょうちょうは これから、

 おおぞらを とんで

 ゆくのでしょうか。


 くもの なんかに

 ひっかかって

 しまうのでしょうか。


 はばたきに よって、

 あらしを おこすのでしょうか。



 それも きっと、

 わからない からこそ

 いのち なのでしょう。


 だから いのちは

 とうといのでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いもむし 徒文 @adahumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る