リタ

ribon

第1話

リタ


仏像を盗んで金にかえるという考えが頭から離れなかった。

自宅ちかくの寺のほこらに仏像がある。

きっと価値がある。ゴミかもしれない。

だが、そうじゃないかもしれない。

地獄に落ちてもいい。仏像を盗んで金にかえたい。

金にならなくてもいい。

そうだ。もういやだ。

仏像のことなんて考えたくもない。

このアイディアからはやく解放されたい。それだけだった。


翌日、わたしは道具をそろえて寺に向かった。

深夜、車で行った。おどろくほど冷静だった。

心神喪失。クリスマスだった。

いや、イブだったのか? 

寒かった。車のなかで息が白くなった。

寺についた。そのまま1時間くらい車の中にいた。


フロントガラスから見る夜の舗道が好きだ。

だれも通らない。夜が肥えていく。


わたしは車を降りた。

寺の生け垣をのりこえて敷地内に不法侵入した。

ペンライトで足元を照らしながらほこらへ向かう。

鳥居。狛犬。大量の砂利・・・

ほこらに着いた。

自分のしていることに確信がもてない。

もってきたバールでほこらをこじあけた。

今回に限ったことじゃない。ずっとだ。

ずっとずっと。仏像はあった。

しかし顔がなかった。

仏の顔はぶっ壊れていらしたのだ。

顔がえぐれて黒い影になっている。

地獄だ。そして気づいた。

わたしは仏像だった。だが仏像はわたしではなかった。

そいつはただの木でできた・・・

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リタ ribon @ribon_kaku

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