それでも僕はノーという

 僕が連れてこられた部屋は案の定エリスの部屋であった。


「よくやったわ。ユノ」


「はあ。こういうこと私に頼むのやめてほしんだけど」


「いいじゃない。あなたぐらいしか頼れる人いないし」


 気絶した振りをしている僕をよそにエリスとユノが話している。


「姫ならこんな雑務聞いてくれる人なんて腐るほどいるでしょ」


「どこの知らない馬の骨の人に頼むのはいやよ」


 エリスの態度にユノがはぁとため息ついて呆れているようだ。わかるぞ、その気持ち。だけどそれに他人を巻き込まないでほしかったぞ。


 グダグダ考えても仕方ない。機を伺い目を覚ます。体を起こすとともに二人の顔を視界に収める。


「起きたかしら」


「君も不運だね」


 ニコニコの笑顔のエリスと視線を斜め下に落とすユノ。


「おはようございますさよなら」


 いち早く脱出したいので挨拶を早口で言いのけるとすぐに扉へ向かった。


「待ちなさい」


 エリスのその言葉と共に手をたたく音が部屋に響く。壁や床は音を反響するような材質ではないのに何度も頭に響き渡る。それと同時に身体が動かなくなる。


 二秒弱だろうか。音が消えると再び身体が動くようになる。歩いていた僕の体は急に制御を失った反動で前へ倒れそうになる。


「私もいるのにその能力使うのやめてよ」


「文句を言うならそこの無礼者に言って」


「今のは?」


 おおよそ予想はついているが一応聞いてみる。


「今のは私の異能、鶴の一拍よ。私の手をたたいた音を聞いた人の行動を少しの間止めることっができる能力よ」


 面白い能力だな。戦闘においてもそうだけどそれ以外の使い方もありそう。


「急に異能を使ったことは謝るけど話を聞いてほしい」


 足を止めてしまった以上王女様の話を無視することはできない。止む無くさっきまで寝転がっていたソファへと腰を下ろす。


 どんなものが出てくるのかと腹をくくって言葉を待つ。


「私の妹、シルヴィが部屋に引きこもっているのは知ってるよね」


「まあ」


 噂になってるしね。今日もぼちぼち聞いた。


「そこでお願いなんだけど」


 本題に入る、そんな時に突如エリスの頭が下げられる。突拍子のない状況に僕だけでなくユノも驚きを隠せない。


「妹を部屋から出すのに手を貸」


「いやです」


「わお」


 そんなことされても僕の意思は揺るがない。ノーを貫き通す。


「そもそもそれ僕よりも適任がいると思うんだけど」


 ほら、ハロルとか偽物だとしても恋人だし。


「ハロル君とはもう別れたそうよ」


「え? なんで。問題解決したの?」


「知らないわよ。それにハロル君も部屋に行っているようだけど解決には至ってないわ」


 だとしたらなおさら僕は人選ミスだろう。


「はぁ、わかったわ。あなたが血も涙もない人間だということは骨身にしみたわ。だから」


 そういいながらおもむろに金貨を取り出す。


「ひやっっっっほーい。この忠犬ジーノ、何なりと」


「現金な子だね」


 世の中金だ。金はすべてを解決する。弾かれた金貨を一瞬でつかみ取る。


 神に渡すための髪飾りの材料として買った宝石で先日盗……頂戴した金もほとんど尽きた僕にはありがたいものだ。


「それではさっそく任務へ行ってまいります」


「ちょっと、ユノ」


「わかってる」


 金貨を受け取ったので勢いよく部屋から飛び出す。


 受け負った依頼は全力で行くとも。金貨を片手にニヤニヤしながら廊下を走り抜けてった。

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